8話 お姉さん
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8話投稿します。よろしくお願いします。
「お腹、一杯なの。これでお仕事頑張れるの!」
マッチョの集い亭から出たルナの一言目である。
結果だけで言うとミランダの料理は元の世界基準で考えても美味しいと言っていいレベルの食事だった。ルナは終始幸せそうな顔して食事をしてた。あれは、見た目が若干違うが、チキン南蛮であった。大変おいしゅございましたって言うしかない俺がそこにいた。しかもだ、ご飯があった、ご飯があったのだよ。ミランダ曰く、この街でもう、ここでしか扱ってないらしい。ルナにどんな説得しても宿を変える話に持っていく事は不可能であると思い知らされただけである。しかも、俺の胃袋も捕まえられた。食事が美味しいのは事実なので背後を取られないように気配探知をビンビンにしとく必要がある。あるといいな気配探知。
「ではな、2人ともワシがしてやるのはここまでじゃ」
「ここまで色々して貰った上、最後の飯まで驕って貰って、なんて礼を言えばいいか分からないんだが、ありがとう、おっさん」
正直、ギルドについたら、またなって感じでサヨナラって感じかと思ってたんだよな。本当に人のいいおっさんである。
ガハハっと笑ったおっさんは少し真面目な顔をすると俺の肩を掴んだ。
「小僧、嬢ちゃんをしっかり守ってやるんじゃぞ?建前やしがらみで動けなくなっている時に何もできなかったら、一生悔いが残るはずじゃ」
おっさん、きっと勇者に何もできずに見送ってしまった自分が未だに納得、いや、多分、許せないんだろう。全部ぶち壊したいという気持ちもあるんだろうが、引退したといえ騎士だった自分のしがらみが踏み出せないのだろう。まだ、その現場で勢いでやってしまえれば良かったのだろうが、時間を置いてしまった今、どうしようもないのだろう。もしかしたら、ガキんちょな俺達を面倒みる事でおっさんも楽になりたかったのかもな。
でも、おっさんは俺達に善意で世話を焼いてくれた良いおっさんだ。
「ああ、きっと全力を尽くすよ」
俺がそういうとおっさんは少し羨ましそうに俺に笑いかける。
「じゃ、嬢ちゃんも元気でな」
おっさんのでっかい手で頭をワシャワシャと撫でられたルナはくすぐったそうにして、
「ザウスさんも、お元気で。後、初めて会った時、クマさんと間違ってごめんなさいなの」
おっさんは膝から力が抜けたのかよろめいきながら、苦笑をしつつ、手を振って市場のほうへ歩いていった。
おっさんを見送った俺達は、各自の依頼をこなすために別れて行動を始めた。
ルナは入ってきた門ではなく東西南北に4か所ある門の西門付近にある倉庫整理のために向かって行った。
俺は、ギルドで聞いた通り、来た門、南門に向かって歩き出す。
そこで俺は、あっ、っと声を上げて足を止め、ルナが向かった西門のほうを見るがすでにルナの姿は見えなかった。この感覚は昨日感じたものと同一だった為すぐに何を意味するか分かった。同じフラグであった。ルナ、依頼完了できるのだろうか。皿もまともに洗えない女神が掃除とか整理とかできるとは思えない。おっさんと約束したばかりだが、いきなり守れない状況ができたようだ。俺は薬草は5束あればいいだろうと思ってたが、10束上限を目指して取ってこないと腹を括る事になった。頑張って稼いできますかね。
南門でピーターと会って、夜遅くなると門が閉められて入るための手続きが面倒だから気をつけろと言われて、また山へ戻る道の傍の小さな森を目指した。
森に着いた俺は薬草を探し出す。というか、ちょっと奥に入ったら雑草のように沢山生えてるものが薬草のようで、あっさりしすぎてて、最初何度も記憶にある見本とすり合わせしてしまったぐらいである。この簡単さを見るとFの仕事が多いのではなく、消化されずに張り付けられたままであるという認識が正しいようだ。
よっぽど、街からここまで歩いた時間のほうが長かったぐらいの時間で、10束集まってしまった。しかし、10束もあると紐で吊るして持ち運べるようにしても嵩張る。紐が指に食い込んで地味に痛い。カバンとか欲しいな。というか替えの服とかもない。今日の夜にでもルナと相談して必要なものを買い揃えるようにしよう。銀貨1枚と銅貨20枚でどこまで用意できるやら。全部使ってしまうと後が怖いしな。
後、今更だが、浅い位置といえど、ファンタジーの世界であるモンスターに遭遇といった危険があったなと身を震わす。腰に着けたナイフがあるとはいえ、モンスターじゃなくてもイノちゃんに遭遇しても対抗できる自信などない。その辺のことも考えないと危ないかもしれない。
といったことを考えつつ、森を出たところで女性と鉢合わせする。青い髪、ルナと違い、ルナは紺に近い青に対して、彼女は水色に近い青の髪をポニーテールにしたスレンダーな20代になりたてといった活発さを感じさせるシーフといった格好をした人がいた。
向こうからすれば突然、森から出てきた不審者と思っても仕方がない状態なのに関わらず、にっこりと人懐っこい顔を俺に向けていた。
「森から出てきて、薬草を持ってるとこみるとギルドの薬草採取受けたのかな?Fの依頼って誰もやりたがらないから、ギルドの職員はきっと喜んでるんじゃないかな」
突然、フレンドリーに話しかけられた俺が逆に彼女を不審者疑惑に悩まされる事になった。しかし、そう一瞬思ってもそんな感じを持続させない人懐っこい可愛い顔がそこにあった。また顔の格差社会が!
「そうなんですか?今日ギルドに登録したてでよく分からないまま受けたので知りませんでした」
なんとなくそうかなって思いつつ受けて、採取始めてやっぱりって思ってた事であったので特に驚きはなかった。
お姉さんは、腕を組みながらウンウンっと芝居かかった頷き方をしながら、俺に話しかける。
「実はお姉さん、占いが趣味でね、結構当たるんだよ?でね、今日も占いでここで人に会えるって出てたんだよ。そこで会った人を占ってあげるってのが今日のお姉さんの目的っ」
笑顔で人差し指を俺の鼻にツンと当てる。ときめいてたりしないんだからな!
可愛い人なのに電波系の人のようだ。とっても残念だ。
「いえ、遠慮しておきます。急いでますんで」
「待て待て、待って、ちょっと占うだけなんだから」
正直、占いとか信じないほうだし、怪しさ抜群である。さすがに俺を尾行して追いかけてきて待ち伏せなんて得があるとはとても思わないから営利関係ではないだろうが、電波系の方と接点は持たないに越したことはない。
この場を去ろうと後ろを向くと、お姉さんが俺の背後に忍び寄り、スリーパーホールドをかけてくるがたいした力はかけられてない。
「お姉さん、あたってます。あたってるって!」
「ほれほれ、そんなに遠慮せずに素直に占われなさいな」
「だから、あたってるって!・・・骨が」
バッとお姉さんが離れると俺の後頭部を打ち抜く拳があった。これはデジャブか、何時間か前にルナに殴られた記憶が駆け巡る。HPが尽きる・・・
危うく、依頼の薬草を自分の手当てのために使いそうになった俺は身の安全のためにお姉さんに占ってもらう事にする。
腰に吊るしてた袋から水晶を取りだしたお姉さんは水晶越しに俺を見る。
「うーん、近いうちにあの山に君は向かうね」
北門の向こうの勇者が封印されている山である。
「そこで同郷の人に出会いがあるはず。その出会いがあったら次の行き先を東にある街の近くの廃墟になってる神殿に向かうと君の運命を切り開く助力してくれるモノと出会う事になるって占いに出ているよ」
若干、ドヤ顔したお姉さんがいた。
後半はともかく前半はその予定だ。ルナもそのつもりだろうが、まだお互いに声に出して確認した事ではない。おっさんにちょっと確認したぐらいで俺達3人以外知ってるとは思えないから適当に言ってるとしても凄い的中率だ。このお姉さんは本当に何者なんだろ?
「色々聞きたそうな顔してるけど、秘密」
人懐っこい笑顔を浮かべたお姉さんは俺を見つめる。
そして、先手を打たれて質問を封じられる。あの笑顔は卑怯だと俺は思う。
「また、会いましょう。トオル」
そういうと小走りしながら街に向かって去って行った。
アレ?俺、お姉さんに名前言ったか?向こうは知ってるのにこっちはお姉さんの名前分からない。なのに、不思議に不快感はない。
これが不思議なお姉さんとの初めての出会いであった。
明日はちょっと頑張ちゃうかもしれません。
感想などありましたらよろしくお願いします。




