レイジス大迷宮:6
すいません、遅れました。
しかもその割には量が少ないっていう。
────戦闘描写は苦手なんだよ! 良い加減やめて!
ダンジョン
魔物の巣窟。そう呼称されるそれは、ラテン語で地下牢を意味する言葉が由来になっている。
奥に行くほど強い魔物が溢れ、一〇階層ごとにフロアボスと呼ばれるボスモンスターが行く手を阻む。
駆け出しの冒険者にとって、ダンジョンとは自身を強化するための場所であり、それは、悠人たち──勇者一行にも適応されることだった。
現在【レイジス大迷宮】と呼ばれるダンジョンの正面前広場に集まっていた。
悠人はジメジメとした薄気味悪い陰気な入り口を想像していたのたが、そんなことは全くなく、まるで博物館のようなしっかりとした入場ゲートだった。恐らく、戦争の為の戦力を減らさない為の措置だろう。ステータスプレートを見せてから入る仕組みになっていた。
広場の前には沢山の屋台がひしめき合い、しのぎを削っていた。完全にお祭り騒ぎである。こんなんでいいのか、と思う悠人だが駆け出しであろう冒険者たちがダンジョンに入っていくのを見てその考えを改めた。
ダンジョンの浅い階層は恐らく、非常に効率の良い狩場なのだろう。良い狩場には人が集まる。人が集まれば金の消費も増える。更には入場ゲートのすぐ近くにある受付で素材や魔石の買い取りもしてくれるそうだ。冒険者が何かと重宝してそうだった。
人が多いとケンカなどの争い事も増えそうだと思ったが、今戦争を控えているこの国でそんな面倒事を起こしたくないのだろう。冒険者ギルドと国が協力してこの入場ゲートを作ったらしい。
そんな事を思いながら、悠人は入場ゲートを潜った。
【レイジス大迷宮】は外の喧騒とは無縁だった。縦横五メートル以上の長さの道は松明がないのに、青白い光に満たされていた。これは“魔光石”という魔石の一種に由来するものらしい。マナを吸って光に変えるものだそうだ。
と、珍しげにダンジョンを観察しながら進む一行の目の前に、壁の隙間から灰色の塊が飛び出してきた。
「──よし! 行きますよ! あれはラットボーンです! 大した敵じゃありません! 訓練通り、ハセガワさん達前衛に着いてください! 怪我をしたらすぐに下がるように!」
近接能力を保持する長谷川や詩織、国綱、霞が前衛につき、澪華のような補助を担当する治癒魔術師や、前衛と交代する人員が中衛。攻撃魔術を得意とする瑠夏たち攻撃魔術師が後衛と、バランスの取れた構成だった。
ザンッ! と長谷川が燐光を放つ両手剣を振るってラットボーンの上半身と下半身を両断した。
長谷川の持つ純白の両手剣は“聖剣”と呼ばれる聖ヴァージニア王国の管理するアーティファクトの一つだった。有する能力は〝黎光〟。光源に入る敵の能力を一段階ランクダウンさせる能力だ。なんとなくゲスいと思ったのは悠人だけの秘密である。
その横に佇む詩織は視認できない速度でラットボーンの胸に風穴を開けているところだった。彼女の手に握られているそれは大きな槍だった。青白い閃光の残滓を空間に残しながら嵐の如く槍が振るわれる。
「──世界を構成する五大元素の一つ、偉大なる火の精霊よ。
黒炎は地を渦巻き、天へと続く柱となる。
司るは南。冠されし名は炎。
土は土へと、灰は灰へと。万象一切を灰塵と為せ。
────〝朧炎〟」
瑠夏が紡いでいた呪文が完成したと同時に地面から業炎が溢れ出した。その黒い炎は大きな柱のように上へと勢いよく登った。キッ──ッ! と甲高い断末魔を発しながら、ラットボーンは炎に吸い上げられるようにして、その体を燃やし尽くされた。
長谷川たち召喚組にとって、一階層のモンスターは敵にならないらしい。
前衛の長谷川や詩織先輩が殆どの敵を葬り去ってくれるため、悠人は倒し逃した魔物を倒すくらいしかしていなかった。
はぁ……と大きくため息を吐きながら数メートル先で魔物相手に無双している長谷川の表情を見て若干眉を顰める。とても楽しそうに顔を綻ばせていた。
ドンッ! と唐突に、右から鈍い衝撃が走った。グゥッ!? と声を漏らしながら数歩たたらを踏む。
相手を確認する間もなく腰に下げた鞘に手を置くと、すぐに抜刀できるよう数センチほど鍔を押し上げた。
衝撃の主、それは銀色のスライム──シルバーズスライムと呼ばれる魔物だった。シルバーズスライムは攻撃力は低いが経験値が豊富で初期のレベルであれば一気に上がるため、駆け出しの冒険者には格好の敵である。しかし、俊敏、防御が無茶苦茶高いため中々倒せない。……メ〇ルスライムかよ!
────刀術系初級スキルアーツ〝銀月〟
右足で地面を蹴って弾丸の如く駆け出すとその勢いのまま鞘に収めてあった刀身を一気に抜刀した。銀の霧を纏わせた刀を右斜め上に凪ぐ。
「シッ!」
銀色の刃は抵抗なくシルバーズスライムの体に入り込んだ。すぐさま腕に力を込めて振り抜いた。
ガキィィイイン! と、硬質な音と共に刀身に硬い感触が伝わった。
両断されとシルバーズスライムはふにゃふにゃになると、その体から色が抜け落ちていつた。アルビノのように全身の色素が消え去ると黒い粒子となって夢散した。カランッ、と二つに切り落とされた魔石が地面にころがる。しゃがみこんでそれらを手に取ると、腰につけていた大きめのポーチにしまった。
よし、と一息ついていると、体を深紅の粒子が包み込んだ。レベルアップか、と悠人は一人感慨深げに物思いに耽る。
ドロップアイテムが無いのを確認するとビュッ! と刀についた血を払うようひ一振りして刀身を鞘に仕舞った。周りを見渡して魔物がいないことを確認すると悠人はクラスメイトたちを追いかけ始める。
気がつけば、一〇階層のボス部屋の前まで来ていた。デリックがこちらを振り向くと口を開いた。
「このダンジョンのボスはリザードマンヴァイカウントといい、リザードマンの上位派生です。通常のリザードマンより知能が高い上に筋力や速度も遥かに上です。心してかかってください」
デリックが最後に確認すると女子は神妙な面持ちで頷いたのに対し、悠人と国綱を除く男子は談笑していた。
「長谷川、話を聞いておけ。戦場での油断は命取りになるぞ」
「大丈夫大丈夫。僕たちだったら余裕だよ」
悠人は長谷川に忠告したものの全く相手にされなかった。デリックは苦虫を噛み潰したような顔になると、気を付けるように言おうとしたが、長谷川たちがボス部屋の扉を開いて入っていく。
「待ってください!」
デリックも遅れながらにボス部屋に入っていく。俺たちも互いの顔を見て頷き合うと、ボス部屋の扉をくぐった。
ボス部屋は全面石で作られており、壁に松明が置いてある。悠人達がボス部屋に入ると同時に青白い炎が松明に灯る。長谷川たちが武器をとって構えるのを尻目に、悠人も鞘から刀を取り出すと腰を落として武器を下に構えた。
「────グルァァァァアアアアッ!!」
──リザードマンヴァイカウントの咆哮を皮切りに、ボス戦が開始した。
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