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お姫様とステータス:3

これ書いてて思った。


──俺、今日中学最後のテストじゃねぇか。


 3.23.ステータス、文章を訂正しました。



 一瞬にして視界を埋め尽くした爆発的な閃光は、風船が萎むように徐々に収まっていった。


 ゆっくりと瞼を開いて一番最初に目に飛び込んできたのは目の前を覆う一枚の大きな壁画だった。縦横一〇メートルを超えそうなその絵画は陽光を背にして微笑む一人の聖女だった。彼女の周りを舞う様にして沢山の天使が描かれていた。実に美しい壁画だった。実に素晴らしい壁画だった。


 それから目を逸らすようにして悠斗は周囲を見渡した。よくよく見れば、立っていたのはなんというか、神殿のような場所だった。床は大理石でできているようで、磨き抜かれたそれは、美しい光沢を放っていた。


 天井はドーム型になっており、敷き詰められたガラスから光が大量の影を投じていた。それを支えるようにしてこれまた美しい彫刻が刻まれた柱が四方に置かれていた。


 ──お、おおっ! 成功だっ!

 ──ゆ、勇者さまだっ!


 悠斗たちの周りを囲んでいた騎士の様な人やローブを着た人たちは悠斗たちを知覚した瞬間、大声で騒ぎ始めた。それを見た悠斗は、


 ……何があった


 とまぁ、現実に思考が追いついてなかった。取り合えず周りを確認するべく首を回した。澪華に詩織先輩、瑠夏と霞に国綱もいる。良かった、全員無事か……。


 悠斗は一先ず、自分の友達を見つけて安堵のため息をついた。落ち着いた所でまずは現状を確認しなければ。


 そう決めると悠斗は自分たちを囲んでいる人々を見渡した。今確認できるのはローブを着込んだ人──魔術師? のような輩が十三人。甲冑を纏った騎士が五人。その奥にいる豪華なドレスを身に纏った同い年位の少女一人、彼女を守るように立っている騎士が三人、計二十二人が目にとれる。


 と、悠斗と同い年位の少女が一歩前に出てきて、よく通る声で話し始めた。


「よく来てくださいました異界の勇者様! 私は『聖ヴァージニア王国』の第一王女、シルヴィア=ディン=ヴァージニアです。私たち『聖ヴァージニア王国』はあなた方を歓迎します!」


 なに?


 顔には出してはいないものの、悠人の心は驚愕に染まっていた。


 悠斗の耳に引っかかった事は二つ。一つは『聖ヴァージニア王国』。悠斗知識の中にはそんな国は存在しなかった。二つ目、『異界の勇者』。それに加え先程の『魔法陣』。あれはコイツらが出したものだろう。王女のいった『異界』という単語から察するに、……ここは異世界、なのか……?


 と、今までの情報を元に、現状を分析し始める悠斗。彼の周りでざわざわと騒ぎ続け、静まる気配のないクラスメートを宥めながらシルヴィアは話を続ける。


「どうかご静聴ください。この国は今魔族を率いる魔王の手によって危機にさらされています。勇者様方、その巨大な力を私たちにお貸しください! お願いします!」


 と、凄惨な表情で頭を垂れるシルヴィアの前に、一人茶髪の少年が歩み出た。


「――一つだけ、確認したいことがあります」


 今立ち上がったのは長谷川聖也はせがわせいや。一応クラスのリーダー的存在なのだが……如何せん自分が絶対正義という奴で……ぶっちゃけ面倒くさい。


「僕達は神様からギフトという強大な力をもらっているんですよね? そう聞いていますが、それで大丈夫ですか?」


「はい、強大なスキルや高い魔法の適性など様々なギフトが付与されているはずです。後程ステータスプレートをお渡しします。それで確認できるはずです」


 という、長谷川の質問に対しシルヴィアはそう答えた。心なしか、その表情は先程より幾分か緊張が解けていた。


「そうですか。ありがとうございます」


 それを聞いて満足したのか、長谷川は微笑を浮かべながら一歩下がる。それを尻目に悠斗は再び周りを見渡した。


(……どこかおかしい)


 普通ならここら辺で罵倒が飛び交ってもおかしくない。いや、飛び交ってもいないこと事態おかしいのだ。そう、まるで事前に教えてもらっている、とでもいうように。


「勇者様方。私の父、この国の国王が謁見を望んでおります。私についてきて下さい。謁見の間までご案内します」


 思考を巡らせているとシルヴィアから悠斗たちに声が掛かった。シルヴィアは踵を返すと、どこかへと歩き始めた。行く当てのない悠斗たちはシルヴィア姫について歩いていく。


 神殿のような場所を抜け、数分程歩く。すると大きな扉が見えてきた。目の前には衛兵がおり、大事な場所であることが解る。


「皆様、ここが謁見の間です。どうかご静粛に」


 悠斗たちが静かになるのを確認するとシルヴィア姫はその場で一礼し、ドアに手を押し当て、開いた。


 ドアを開けるとそこには豪華な椅子に座ったとても大柄な男性がいた。周りには王子や皇后、大臣のような人もみられた。


 その部屋は、悠人が見たこともないくらいに豪華絢爛といった部屋だった。体育館なんて目ではないほどの大きさ誇るその部屋には、素人である悠人から見ても達人が作ったとわかるような調度品、絵画が飾られていた。地面は柔らかいカーペットで敷き詰められており、悠人たちが立っている場所から一直線にレッドカーペットが引いてあった。


 シルヴィアがゆっくりとした足取りで玉座の横まで歩いていくと、その横で踵を返してこちらを向いた。


「よくぞ来てくれた、異界の勇者達よ。私は『聖ヴァージニア王国』の国王をしているイヴァン=ディン=ヴァージニアだ。この国を代表してあなた方を歓迎しよう」


 鷹揚に立ち上がって、国王イヴァンは腕を大きく開いた。

 オールバックにしたブロンドの髪、その上には豪奢な王冠が乗っていた。ラテン系の堀の深い顔立ちをしており、服の下には鍛えられた筋肉があることがわかった。


「……突然で済まないが、今、この国は魔族を率いる魔王たちによって危機にさらされている。……正直、今の私たちに勝ち目は無い。このままでは私たちは魔族に虐殺されてしまう。……この国の一人の民として、あなた方に頼みたい。どうか、その強大な力を私達にお貸しいただけないだろうか?」


 そう言ってイヴァンは頭を下げた。横にいた大臣のような人々がそれを止めようとするが、それを手で制している。


「国王様、失礼ながら質問、よろしいでしょうか?」


 スッと伸ばされた腕の先にいたのは詩織だった。それに対し、イヴァンは鷹揚に頷く。


「勿論だ。私に答えられる事ならば全て答えよう」

「では失礼します。――共存は、不可能なのでしょうか?」


 詩織の質問は触れられたくないところを的確に突いていたようで、イヴァンはその顔を苦しみに染める。葛藤を混ぜた声で、告げる。


「……すまないが、それは無理だ。奴らは我々人族を見下しておる。共存は不可能だ」

「そう、ですか……」


 すると詩織先輩は美麗な顔を悲惨に歪ませた。当たり前か、人を殺すのは誰だって嫌だ。


 それはともかく、相手を一方的に非難するのは自覚有り無しに関わらず油断ならない。注意しておくに越したことはない、か。


 少し空気が重くなったにも関わらず、長谷川が立ち上がり言い放った。KYここに極まれり、である。


「わかりました、僕達に出来ることであれば手伝いましょう」

「な、何を言っている長谷川!」


 大声を張り上げて詩織に咎められているにも関わらず、長谷川はさも当然という表情で話を続ける。


「僕達にはこの国を守る力があって、この国の人達が助けを求めてる。それなら話は簡単だ。僕達が救ってあげればいい」


 これには流石に愕然とした。驚愕を禁じえない。偏った正義感を振り回すのはかなわないが、これは命懸けなんだ。更には、他人の命も掛っている。もっと慎重になるべきだ。


「それに、この国を助ければ何か報酬があるんですよね?」

「はい、成し遂げてくれればこの国が用意できるものならば全て用意します」


 感情が、爆発する。


「マジか! 豪華な暮らしができるのか!」

「やった~」

「これでハーレムを作れる!」

「それに私たちみんな強いんでしょ!」


 それも、楽観的な方向へと。

 悠人の想定する、最悪のシナリオへと。


「……我々を、助けてくれるのか?」


「はい、僕達はこの国、聖ヴァージニア王国を助けることをここに誓います」


「ありがとう、異界の勇者達よ」


 長谷川の返答に、国王イヴァンは顔を綻ばせてそう言った。

 こうして、戦争への参戦が、決定した。




 ✳︎✳︎✳︎




 その後、国王との謁見は終了し、シルヴィア姫に連れられて、悠斗たちは訓練所に来ていた。


「ではこれよりステータスプレートをお配りしますので少々お待ちください」


 そうシルヴィアが言うと後ろで待機していた兵士達が銀のようなプレートを持ってこちらに向かってきた。


 その間にシルヴィアがステータスプレートの説明を始める。使い方は至って簡単だ。


 最初に血液を一滴垂らす。そうすることによって登録者以外、そのステータスプレートを使用することが出来なくなる。あとは何時でも【ステータス】と念じれば何時でも見ることができるらしい。


 思考の海に浸っているとおい、と声をかけられた。驚いた悠人は勢いよく顔を上げた。


 目の前に一人の兵隊が立っていた。手に抱えた薄型の銀盤と小さい針を悠人に手渡す。次のクラスメイトにステータスプレートを渡しているの横目に、針で指の先に軽く突き立てた。人差し指から滴り落ちる血液をステータスプレートに垂らす。これで登録が完了した。後は念じるだけなだが、コツが掴めない。


「【ステータス】」


 取り合えず声に出してみた。画面にノイズが走り、文字列が表示される。




ユート・カンザキ

 Lv:1

 種族:人間族 性別:男

 職業:ーー  魔術属性:ーー

 筋力:C 俊敏:C 防御:D  魔力:J 魅力:S 運 :E

 《アビリティ》

 【限界を超えて進化せよグレア・エヴォルツィア

 ・種族進化の上限解放。

 ・進化経験値の常時取得。

 ・一定値を超えると進化する。

 《スキル》

 【 】

 《魔術》

 【 】

 《称号》

 異界から来し者

 ?%£*&




 ……攻撃系のスキルがない……だと……っ!?


 しかしこのアビリティの欄にある【限界を超えて進化せよグレア・エヴォルツィア】ってのは何だ? イマイチ全貌が掴めない。まあ、それはともかく何故に文字化けしている?


 これといった理由が思い浮かばない悠人は首を傾げつつシルヴィア姫に声をかけた。


「すいません、シルヴィア姫。この文字化けしているのはどういうことなんですか?」

「はい。……えっとこれはですね、まだ詳しい理由が解明されていないんです。何らかの影響を受けると表示されることがあるそうですが」

「そう、ですか。わかりました。ありがとうございます」


 とシルヴィアに礼を述べつつ軽く会釈をすると元の場所に戻っていった。

 兵士の脇に抱えてあったステータスプレートが全てなくなったのを確認するとシルヴィアは、悠人たちの方を向いて声を上げた。


「確認は終わりましたか? ならば兵士にステータスを教えて下さい。訓練の内容を決めるための参考とさせていただきます」


 するとクラスメイトたちが順に兵士の所へ並んでいった。悠人も仕方ないと、兵士の所へ並ぶ。


 悠人の順番になると兵士にステータスプレートを見せる。一瞬兵士の顔が驚愕に染まる。しかし直ぐに表情を取り繕うとこう言った。恐らく攻撃系のスキルが無いことに驚いたのだろう。


「……確認は終わりました。少々お待ちください」


 そう言われると俺は先程まで自分がいたところに戻っていった。


「全員分の確認が終わりましたね。それでは明日より訓練を開始します。今日は早めにお休みになって下さい。それでは部屋にご案内します」


 そう言うとシルヴィア姫の後ろにいたメイド達が悠人たちを訓練所の外へ連れていった。本当にメイドだ。リアルメイドだった。訓練所を抜けて数分歩くいて王城の中に入っていく。


 ギギィ……と重々しい音を鳴らしながら城門が開いた。メイドに付き従うようにして階段を上っていくと、幾つもの部屋がある階にたどり着いた。


「ユート様。ここが客室です。夕食の時間なったらお呼びします」


 そう言うとメイドさんから鍵を渡される。ドアの鍵穴に入れて回すとガチャリという音を鳴らしながらドアが開いた。


 悠人は自分の部屋に入るとざっと部屋を見渡した。


 部屋はそこそこ高級なホテルの一室のような感じだ。ベッドもふかふかで気持ちいいし、なかなかいい部屋だ。シャワーがないのが少し悲しいけど、ま、文句も言ってもしょうがないか。


 悠人はブレザーを脱ぐと近くにあったハンガーのような物に掛けて片すと、倒れこむよつにしてベッドへと飛び込んだ。天井を向いて、目を閉じる。


 ……母さんたちは俺たちがいなくなったことに気づいているはずだ。『元の世界』はどうなっているのだろうか?


 一人物思いにふけっていると地面から天井に向かうようにして光り輝く粒子が昇っていた。


「ッ!」


 またもや転移魔法の一種なのかと思い、咄嗟に立ち上がった。しかしそこなは魔法陣は無く、光の粒子だけが散っていた。


 首を傾げる暇もなく、


 意識が、暗転した。


ああ、死んだ。なにもかもな(キリッ!)


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