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古希の星  作者: 千路文也
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068  悪しき風習


「ワシが若かった頃はステロイドの全盛期じゃった」


「そうだな。今はステロイドなんて使ったら一目で分かるし、誰も使っていないが……」


「昔は当たり前のように使われていた。実に恥ずべきことじゃ」


 鬼崎とペーニャは試合終了後のロッカールームで話しを咲かせていた。今回の議題内容はステロイドについてだ。筋肉増強剤を使って成績を伸ばそうとする行為はMLBでは禁止にされている。MLBというかほとんどの主要リーグでも使用禁止だ。ところが昔は今よりも厳しくはなく、ホームランランキングトップ5圏内の大半はステロイド使用を認め、殿堂入りすら黙認されない状態だ。薬を使った者はたとえトップクラスの生涯成績を残したとしても、ファンは参考記録程度にしか思っていない。それだからか、鬼崎のようにナチュラルな身体で好成績を残してきた者がやたらと称賛されるようになったのは言うまでもない。


「いくら俺様でもステロイドを使ってまで好成績を残そうだなんて思わない」


「当たり前じゃ。人間としてやってはいけないラインは踏むなよ」


「ラインを踏みはしないさ。肉体改造ぐらいならやるかもしれないが」


「肉体改造……? やめておけ身体の動きが鈍くなるぞ」


 野球界には馬鹿みたいに身体を大きくするのが成績を維持するのに大事だと思い込む輩が多すぎる。身体が大きくなることはすなわち、膝に大きな負担がかかる。徐々に足腰が弱くなって肉体を支えなくなり、怪我の頻度が増す。怪我さえしなければ野球界では平等にチャンスを与えられるが、怪我をした者はあっさりと斬り捨てられる。怪我人など戦力にならないからだ。その点、鬼崎のように70歳を超えても身長体重が20代と変わらず、背筋が伸びている選手は長生きして、年齢の壁を越えた大きな活躍をしている。


「なにいってんだじいさん。パワーをつけるには体重を増やすのがてっとり早い方法だろうが」


「そんなわけあるかい。体重なんか無くても身体のバネをしなやかに動かせばホームランは量産可能じゃい」


「あんたがそういうなら正しいのかもしれない。だけど、人には人のやり方ってのがある」


 まさにその通りだ。万人受けなど有り得ない。


「その点は否定しないから安心せい。お前の好きにやればええ」


 結局は好きにやればいいのだ。自分の人生は自分で決めるしかない。


「ああ。させてもらうぜ」


 ペーニャはオフシーズンに肉体改造を行い、体重を増やすとここに宣言した。果たしてその選択は正しいのか……現時点では何とも言えない。

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