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古希の星  作者: 千路文也
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067  究極の負けず嫌い


「悩む必要などない。そんな暇があったら身体を動かせ!」


「そうはいってもよ……これだけ調子が上がらないと不安にもなるって鬼さん」


「じゃかましいわい。そんな腑抜けだから24打席ノーヒットにもなるんじゃ」


 チームメイトのニックは6試合で1本もヒットを打っておらず、絶賛スランプ中だ。なお、余談ではあるが鬼崎喜三郎は過去に162試合連続ヒットのアンタッチャブルレコードを叩き出している。その頃は調子が悪かったので猛打賞が少なく、シーズン終了の打率はむしろ低いぐらいではあったが、余裕で打率3割越え、200本安打、20本塁打を達成した。メジャーで最も優れた中距離バッターとして異例の現役中に殿堂入りを果たした生きる伝説からしてみれば、結果に悔やんでいても仕方がないというのだ。


「あんたみたいに気持ちが強かったら良かったらと何度思ったことか」


「なんじゃそりゃ。ワシの精神が強いだって……?」


「だってそうだろ。70歳過ぎて現役でいられる身体自体が摩訶不思議なのに、それでいて生涯年俸は軽く100億ドルを超えている……普通は引退して余生を楽しみたいと思うだろ。なのに鬼さんはストイックに野球を続けてる。どう考えても気持ちが萎えていない証拠だって」


「確かに精神は萎えておらん。じゃがな、ワシは精神的に弱いから野球を続けられると思っておる」


 だと言うのだ。気持ちの面で弱いから野球が続けられるのだ。一見すれば矛盾した考え方だと思うかもしれないが、実際には違う。そう感じさせられる程の圧倒的な存在感を放っている。実際に70歳を超えてMLBのスタメンを任せられる超越的な選手なのだから言っていることはあながち間違っていないと。


「精神的に弱いから野球を続けられる? どういう意味だそれは」


「簡単なことじゃ。ワシは大の負けず嫌いだから精神的に弱ったまま現役を終わりたくない」


「そ……それはつまり生涯現役を意味している!」


 どうやらニックも分かったらしい。


「ああもちろんだとも。ワシの性格はワシ自身が一番良く知っておるから、恐らくそうなるじゃろ」


「鬼さんにとっては精神的屈辱こそ飛躍するチャンスなのか」


「チャンスなのじゃ」


「今がチャンス」


「ああそうじゃ」


 そうなのだ。絶不調に陥っている時こそ壁を超えるチャンス。鬼崎は常に進化を続け、年齢という壁さえも超えてしまった。ということは、負けず嫌いである以上は誰にも平等にチャンスが与えられるのだ。


「よーし、俺だって負けず嫌いだ。とことんやってやるぞ」


「その調子じゃ。頑張れ頑張れ」


「あたぼうよ。このニック様がこんなところで負けていられるか!」


 ニックは力を取り戻したようで、翌日は5打数5安打3ホームランの暴れ打ちだった。

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