065 年寄りは頑固
「ヒットを打つために技術なんぞいらん。気合があればええ」
「それはちょっと……次元が違い過ぎませんかね。あなたみたいな偉大な選手とは比べ物になりませんよ」
「じゃかましいわい。ワシだって最初は素人だったんじゃ。その素人がここまで結果を残してきたんじゃから、お前さんも言い訳せずにしゃんしゃん動け!」
MLBを代表するレジェンドプレイヤーの鬼崎喜三郎は、同じチームメートのペーニャ内野手と熱い議論を交わしていた。その議論とは、どうやってヒットを量産するかだ。人によって回答は様々違うが、この問いに対して鬼崎は先程のように述べたのだ。ヒットを打つためには技術はいらないのだと。
「私が鈍足なのは知ってるでしょう。右打者ですし、あなたみたいな芸術的な内野安打は望めません」
「そんなもんおまえの努力次第でどうにでもなるんじゃ!」
「努力次第ですか」
「努力次第だ!」
そうなのだ。結局、天才と凡人の差など地道な努力によって埋まる。一応はMLBの第一線で活躍するレベルにペーニャは到達しているので、幼少時代からそれなりの練習を積み重ねてきた筈だ。それならば技術レベルなど遠い昔に最高潮にまで達しているので、後は精神力の問題ではなかろうか。
「だからと言って内野安打には拘りたくないですね。私はこれでもチームで1、2を争うホームランバッターですので」
「内野安打をお粗末にする者は内野安打に泣くぞ」
「ええ……? どういう意味ですかそれは」
鬼崎はあらゆる意味で常識を超越した存在だ。それゆえに、相手に何を言っているのか伝わらない場合が多々見受けられるが、これはもう仕方がないのだ。古希を迎えた男が今更何をやっても、根本的な部分など変えられない。このままいくしかない。
「そんなことも分からんのか!」
「なんでですか、急に目の色変えて怒らなくてもいいでしょう」
「ワシの言ってる意味が分かるまでグラウンド走り回れ!」
「ちょっとちょっと、高校野球の監督みたいな言い方になってますよ」
「やかましいわい。とっとと行け! ワシの言ったことを理解するまで帰ってくるな!」
どんな組織にもこういう先輩が必ず一人だけいるのだ。




