064 新人選手の雑な考え方
「己の戦い方を今一度見直すべきだな」
「確かにそうかもしれないが……」
「どうした。何か言いたい事があるのか?」
野球選手の多くがそうだ。結局は怪我の対処が最優先なのだ。
「怪我を恐れて前に進む意欲を失ってはいけないと思っている」
「だからどうした」
「だ、だからどうした?」
「その程度の考え方でMLBの第一線を生き残れると本気で思っているのか」
長年、野球界に身を投じてきた鬼崎喜三郎だからこその言葉だ。70歳を超えても現役選手生活を貫いているなど、普通ではありえない。とすれば、誰よりも自分の身体と向き合っているからこそ成せる技だと、新人選手達も気が付くべきだ。AAAから上がったばかりの半人前選手が、鬼崎とまともな会話を成立させているだけで奇跡だと言うのに。
「ああそうだ。気合さえ入れればなんとかなるさ」
「その考え方が命取りだと何故気が付かない。怪我が多いメジャーリーグで全試合出場を達成するのは至難の業だ。儂のように頭を使ってプレーを続けないとあっという間に引退まで追い込まれるぞ」
「いいや……あんたは考えすぎだよ。俺に限ってそんなことはありえないさ」
ありえないというのだった。




