003 規格外の存在
明るくて積極的なゴンザレスとは違い、鬼崎はゴンザレスに対して冷たい態度を取っている。それは彼をもっと強力なバッターとして目覚める可能性が残されていると考えているからだ。だからこそ、こんな老人に筋力で劣っているのが鬼崎には許せなかったのだ。
「ワシに喋りかける暇があったら、もう少しウエイトトレーニングをしたらどうだ? 貴様はチームの主軸のくせに70歳の老いた肉体にも負けるというのか」
「おいおい冗談はよしてくれよ。筋肉であんたに勝てる奴は世界中探したっていないって……この俺が保証するぜ」
それだけ、鬼崎の筋力は圧倒的に優れているというのだ。メジャーリーグは世界中から力自慢の選手が集まってくるのだが、それでも70歳を超えた鬼崎を上回るパワーを持つ選手はいないというのだ。この事実は鬼崎にとって癪に障る話しなのは言うまでもない。現に鬼崎は自分よりも優れた選手が出てくれば即座にチームキャプテンとしての地位も明け渡すとかれこれ10年近く言い続けている。だが、現実で考えても未だに彼を超える選手は出てこない。これは別にメジャーリーグが人材難という訳ではなく、鬼崎喜三郎という男が規格外の存在だという訳だ。
「だったら貴様がワシを超えて見せろ。いいな」
そう言うと、鬼崎はユニホームに着替えてストレッチを始めるのだった。