ブレスレット
左手首で、いくつも連なる紅い花々が繊細ながら大胆に咲き誇っている。
窓辺にもたれて、女はそれを憂いた瞳で見つめていた。
紅玉の散りばめられた煌びやかなブレスレットは恋人からのプレゼントだった。華美なものを好まない性格故に、女はこれを素直に喜ぶことが出来ずにいた。試しにつけてみたのだが、やはり過剰な燦めきを持て余すばかりで、どうしても美しさからほど遠い自分に似合うとは思えなかった。
あの人は本当にこれが私に似合うと思ったのだろうか。
女はプレゼントを貰った日の恋人の顔を思い返してみる。
「君に似合うと思って」と、浮かべた微笑みに衒いなどなくて。
女は嬉しげな笑顔で必死に取り繕った。恋人の選択に落胆する自分が後ろめたくて、恋人も自分自身も欺いたのだった。「ありがとう」「とてもうれしい」と心にもない言葉を尽くして。
居たたまれなくなって、女はブレスレットから視線を逸らした。どこにでも売っていそうな簡素な机と棚があるばかりの飾り気のない部屋。選ぶ物は、いつも地味な方へと手が伸びた。
あの人だって私の趣味は知っているはずなのに。このブレスレットが私に似合うだなんて、あの人は私の何処を、何を見てそう思ったのだろうか。
女は再びブレスレットに目をやった。紅い耀きが容赦なく目を射って、惑う心を乱反射する。
この華が私に相応しいというのだろうか。相応しい私が、私の中にいるというのだろうか。
あの人は、そう思っている。
女の脳裏に、あの日の微笑んでいる男が再度浮かんだ。愛おしそうにこちらを望むあの眼差し。
女は部屋の片隅にある姿見の前へと行き、己の全身を鏡に映した。
休日の、誰にも見せるつもりのない本当の自分がそこにいる。灰色の部屋着に身を包んだ、色のない女にやはり華は不似合いで、場違いな鮮やかさは滑稽でしかない。それはまるで傷のようだった。
このブレスレットが相応しい女が私の中にいるのだろうか。わからない。もし彼が思っているような女が私の中にいるのだとしたら、あの人が選んだブレスレットに選ばれる女にはどうすればなれるのだろうか。
否定的な思いは無理矢理に心の隅に追いやって、女は恋人の言葉を思い出してみる。直接的なことをいう人ではないのだけれども、と淡い手掛かりを記憶から手繰り寄せる。
アイメイクを深く、髪をアップにしてみるのはどうかしら。前に彼が褒めてくれたから。首筋を大胆に晒してみようか。少しタイトな服を着てみるのもいいかもしれない。ダイエットもしよう。あの人は喜んでくれるだろうか。喜んでくれるのならば。
鏡の中の女が、微笑んでいた。その唇にも真紅を許してみよう、と女は思った。




