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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ちーちゃんとイミシュ

作者: 璃雨

帰宅途中それは突然に訪れた。


ひょろっと足を滑らせた俺は親友の袖を引っ張ってしまった。まさか親友もバランスを崩してしまうとは思わず二人で河川敷側へ転がった。


天地がぐるぐる回ってコロコロ転がり終わると


俺があいつであいつが俺でみたいに俺と親友の魂が入れ替わる――。

「……」

 なんてこともなく、反射的に閉じた目を開いたら大の字になって親友に覆いかぶさっていた。ちょっと期待したけどなぁーやっぱそんなことないかー。リアルに笑えなくなるからマジ勘弁だけどねー。上体を起こして親友から退いて制服についた葉や土を払い落とした。


「……ちーちゃん。大丈夫?」

「……」

 ちーちゃんはぴくりとも動かない。えっうそ。


「ちーちゃん! 起きてよちーちゃん!」

 ちーちゃんの頬をペチペチ叩いてみる。返事がないただの屍のようだになったらあかんぜよーーっ!

「ちーちゃん! 死んだらあかんぜよー!」

――バチン。と、ちーちゃんと目が合った。

「ちーちゃん!」

「……誰だ」

「えっ……」

 手も付かずにちーちゃんは腹筋だけで上体を起こした。腹筋力すげぇ……とかじゃなく。俺だよっ。朝倉祭、貴方の親友ですよ! 幼稚園からずっと一緒だったじゃん! もしかして打ち所悪かった?! ぐるぐる回っただけなのにっ。まさか岩がむき出しになってそこにちーちゃんの頭がドーンとぶつかっちゃったっていうのかっ。許せん岩! 岩どこだっ! ない! 当たり前だ!

「ちーちゃん」

「ちーちゃんなどではない。我はイミシュである」

「……」

 どうしよう、ちーちゃんが記憶喪失どころかとんでもないこと言い出したんだけど俺は何を言ってあげたらいいんだろうか。あぁそうだ。メガネをしていないからだ。きっと。メガネメガネ。

「ちーちゃん、これメガネ」

 ちーちゃんにメガネを掛けてみた。逆に。

「……」

「…………」

「何をする」

「おっそい!すっごいおっそい反応がっ」

 切れのある暴力という名の突っ込み期待してたのに! 俺がツッコミになってるよっ。

「我はイミシュである。ここは地球か」

「意味わかんない質問しないでよ、ちーちゃんっ」

「ここは地球かと聞いている」

「はいはいそうだよ地球だよ!」

「そうか……なに……お前は」

 ふいっと、ちーちゃんは空を見上げてブツブツと独り言を呟きはじめた。痛いよ、痛すぎるよ。こんなちーちゃん見てられないんだけどっ! 

「もうやめてよっ! どこみてんのさっ!空は相変わらずの晴れだよっ。 そんな電波なちーちゃん誰も望んでないってっ!」

「朝倉祭と言うのか」

「思い出したっ?!」

「……どうやら我は佐治千尋という人間と入れ替わったようだ」

「えっ」

「我はイミシュであり千尋、千尋はイミシュとなった」

 一瞬の沈黙。あいつが俺で俺があいつで……。誰?!

「それどこのゲーム設定だよっ?! 笑えない冗談はもういいよっ!」

 全力のギャグで俺を試してるんだろっ。昔からちーちゃんはそういうところあるからなー。今はイミシュと入れ替わったっていう設定で俺をからかっているんだ。てか入れ替わるなら一緒に転がった俺であるべきじゃないかっ!

「祭。我は地球に用がある。手伝うのだ」

 がっしり寝首を掴かんで俺を引きずるちーちゃん。あぁよかった。口調はちょっと……いや大分おかしいけど暴慢な態度は変わってないや。やっぱからかってんだな。それなら俺もそのノリに乗っかるか。

「……ねぇちーちゃん。何を手伝えばいいのかね?」

「花だ。名前は分からないが地球にしかないものだ。我はそれを探している」

「花……ってどんなの?」

「……わからない」

「えっ。わからなかったら探しようないけど」

「我が記憶している」

「うーん」

 自分で記憶してても手伝いを求めるなら口で説明してくれなきゃ俺もわからないんだけどな。

「何で花が必要なの?」

「……いえぬ」

「ふーん。そこの設定は考えてなかったんだね、ちーちゃん」




 河川敷をしばらく歩いていたちーちゃんはぺいっと俺を前に放り投げた。

「いって!急に投げなるなよなっ」

「ケルベロス……!この地球にも存在していたというのかっ……?!」

「ケルベロス?」

 焦る親友の視線の先を追うと、おばちゃんと可愛いワンコがお散歩中であった。お。あの犬ゴールデンレトリバーじゃないか。可愛いなぁ。

「あの凶暴かつ残忍な魔獣を手なずけるとは……まさかあやつ……ケルベロス使い?!」

「ケルベロス使い?!」

 親友がまたしても電波を飛ばした。ケルベロスって犬の顔が三つあるギリシャ神話の番犬、だよな。似ても似つかないんだけど……。

「祭、さがっておれ。成敗!」

 ちーちゃんがダッシュでおばちゃんと犬の元へ向っていった。あっれれ、ちーちゃんってあんなに足速かったっけ。もうっ成敗とか動物虐待で訴えられても知らないよっ! ていうか俺が許さんっ。

「ケルベロス……覚悟っ……!しまった武器がないっ。ならば四大精霊の」

「ばう!」

「こらっゴーちゃん!」

「ふぐっ……!?」

「こらっゴーちゃん、じゃれちゃだめでしょっ」

「ぐぉっ……!」

 ちーちゃんが犬に顔面を舐められている。なにダメージ受けたみたいに唸ってんだよちーちゃん。

「ごごご、ごめんなさーいっ! こいつ大の犬好きで犬見みると触りたくなっちゃうらしいんですよーっ。散歩中にすみませんーっ」

「お、おのれケルベ」

「可愛いワンちゃんですねーははは。ちーちゃん行くよ!」

「うふふ」

 おばちゃんと犬に一礼をして俺はちーちゃんの手を掴んで坂を登って歩道を走った。



「祭!ナゼとめるっ」

 俺の手を払ってちーちゃん大激怒。なんでそんなに怒ってんだよ。顔びちゃびちゃだし怒っても迫力ないぞ。

「ちーちゃんタオル貸すから顔拭いて」

「ふぐ……」

 ちーちゃんは言われた通り顔を拭いた。あらやだ急に素直。

「祭!ナゼとめるっ」

 リテイクですねわかります。

「ちーちゃん、あれはケルベロスでもなんでもないし、おばちゃんはケルベロス使いでもないのっ!犬に向って成敗って、信じられん!」

「あれと共存している、というのか?」

「ペットとして飼われてるのっ! もう勘弁してよ……」

「そうか……」

 ちーちゃんはアゴに手を当て首を捻って、押し黙った。

「……我が早まったのか」

 おっと、凹んでる?

「ケルベロスによく似ていた……」

「そうなんだ。よくわかんないけどもうやめてね」

「祭、すまなかった」

「う、うん……犬は可愛がってあげてね」

 こんなに凹んだちーちゃん始めてみた。いつも偉そうに踏ん反りかえってるのに。だとすればちーちゃんが俺をからかっている説が消える。消えて欲しくないのになー。

「イミシュ?だっけ」

「なんだ」

「ちーちゃんはどこに、いるの?」

「千尋はイミシュになり我の世界にいる」

「……」

 異世界のイミシュの魂とちーちゃんの魂が入れ替わった……って本当のことなのかもしれない。パラレルワールド……っていうのかな……違う世界? あぁもう、わけわかんないわ! この場にちーちゃんがいたら乏しい俺の脳内を簡単に整理してくれるのにっ。ううう、ちーちゃんが恋しい……。

「我は花を求めてここまで来た。花を手に入れるまで我は千尋であり続ける。イミシュも千尋であり続ける」

 なるほど。花さえ見つかればイミシュは元の世界に戻るのか。それなら答えは簡単だ! だって俺にも……転がってちーちゃんを巻き込んだ責任ある、し。それが引き金っていう確信はないけど責任感じちゃう。

「よし見つけよう! 花をさっ!」

「頼もしい」

「別にイミシュのためじゃないよ。ちーちゃんのためだよ」

「ほう。恋人か?」

「おっー違う!」

 恋人なわけないしー! 俺とちーちゃんはそんな関係じゃないしー! 大親友だしー!

「そうか」

 


 こうして俺とちーちゃん(イミシュ)の花探しは始まったわけで。


無事に花を見つけてちーちゃんを取り戻すんだ! 待ってろよっ。ちーちゃん!



 




会話文が多めです。

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