第5話 幸せに
『はじめまして!今日からよろしくお願いします、亜紀様!』
私の部屋にまた新しい妖精がやってきた。緑の宝石、ペリドットについている妖精だ。
紀洋さんのペンダントの話のあと、やっと緊張がほぐれた私たちは色々な話をした。
好きな食べ物などのとりとめもない話も、仕事に対する思いも。
彼は何に対しても真剣に向き合うひとだった。それに、自分の好きなこと、信じたことにはとことん貪欲に行動する力を持っていた。
ペリドットは縁談が終わりに近づいたとき、紀洋さんが贈ってくれたジュエリーだ。
「実は僕、前からあなたのことが気になっていたんです。食事会とかでお会いしたとき、素敵な方だなって。だから実は、この縁談も僕が持ちかけたものなんです」
てっきり親同士でもちあがった話だと思っていた私は心臓がきゅっと締められるような感覚を感じた。
それはまるで、片想いの相手の今まで知らなかったくせを見つけたときのようなきゅんとする一瞬だった。とても嬉しかったのだ。
まあ実際は、片想いされていたようだったけど。
彼はジュエリーボックスを取り出して続けた。
「これは僕からのプレゼントです。ペリドットのブレスレットなんですけど……その石の石言葉は、夫婦の幸福、信じる心。亜紀さんのためにデザインしたんです。必ず幸せにします。僕のこと、信じてください」
こんな言葉とジュエリーを贈ってもらって、頬が緩まないひとがいるなら、ぜひともお会いしたい。
彼からもらったブレスレットを眺めてみる。
細身のシルバーのチェーンが華奢さを強調していて、リーフ形の小さなペリドットがあくまで上品に、しかし贅沢に使われている。そしてその小さなペリドットの隙間に銀の天使のモチーフと小さな赤いバラがところどころにみられる。
とても、素敵なデザインだ。
『あ、亜紀様にやけてるっ!』
『私をプレゼントされて紀洋さんに惚れちゃったんですね!』
『ほら、私がついていって大成功だったじゃない!』
「うるさいな、余計なこと言わないでちょうだい!」
そう言いながらも頬が緩んでしまうのを止められない。
図星だと騒ぐ妖精たちが今までよりさらにいとおしい。この子達のおかげでこれからもずっと楽しく、そして幸せに生きていける気がする。
贈り物は人から人へと贈られる、心をカタチにしたもの。
贈り物を見て送り主のことを思い出したり、それにこめられた思いを想像したり……受け取った人は幸せな気分になれるし、贈った人もその幸せそうな様子を見てまた幸せになるのだろう。
そして人々からは幸せがあふれだし、世界はきらきらと輝きはじめる。
宝石のように。