第4話 創造
「あとは君たちで過ごしなさい」
初めはどちらの親も仕事の話をしながら同席していたが、たった今、席を外していった。
私と紀洋さんは緊張のためか全く話すことができず、挨拶と軽い自己紹介しかできていなかった。
ずっと親の話に相槌を打つのみで過ごしていたのだ。
これはまずい。そう思ったときだった。
「あの……よかったらなんですけど、僕が経験したちょっと不思議な話、聞いてもらえますか……?」
「もちろんです。どうぞ、話してください」
話が始まったことに安堵しながら私は笑顔でうなずく。彼の声はかすかに震えていた。
笑われちゃうかもしれないんですけどね、とそっと前置きをしてから彼は話し始めた。
僕、生まれて初めて手にした宝石が父からのプレゼントだったんです。大きなオパールがついたペンダント。肌身離さずつけてたんですけど、ある日壊れてしまって。
ペンダントトップの飾り部分が少し欠けてしまって、チェーンも短く切れてしまったんです。
父が言うにはだいぶ落ち込んでたみたいで。それで見かねた父がジュエリーデザイナーだった祖父に頼みこんで、僕に仕立て直すための技術を教えてくれたんです。
祖父と一緒にデザインからなにから考え直して、石は変えずに新しいペンダントを作ったんです。
それがこの今日もつけてるこのペンダントなんです。もう、本当に嬉しかったんですよ、宝物がまた戻ってきたことが。それでずっと眺めてたんですけど……
そしたら、聞こえたんです。ありがとうって。
いつもより強くきらっと光って、生まれ変わったみたいで嬉しいよって聞こえたんです……
彼は少し恥ずかしそうに笑いながら私の目を見ながら付け加えた。
「信じられないかもしれないですけど、僕がジュエリーデザイナーになったのはそんな出来事があったからなんです。またいつか、ありがとうって言ってもらいたいなと思って」
驚いた。とても、驚いた。
彼も私と同じようにわずかではあるが、感じることができる人なのだろう。妖精たちの存在を。
オパールの石言葉は創造。オパールの妖精がそのときから今も、彼につくりだす力を与えているのかもしれない。
「きっと喜んでくれていますよ、紀洋さんにデザインしてもらったジュエリーたち。私にもその声が聞こえるもの」
彼の胸元でオパールがきらりと輝く。
彼は私が本当に聞こえるとは思っていないだろうけど、それでも私に向かって本当に嬉しそうにありがとうと言って笑った。