第3話 妖精会議
縁談当日。
妖精たちが励ましてくれたおかげでしっかりと睡眠をとることができ、肌の調子は抜群だ。薄くきらめくアイシャドウにほんのりと頬を染めるピンク色のチーク。いつもとは違うほんのりウェーブのかかった髪にナチュラルでいて上品なメイクはよく似合う。
そして服は深い青に染められたロングワンピース。龍宮家のしきたりで正式の場では青がドレスコードとして決まっているのだ。
あとは、身につけるジュエリーだけ。
『今日は私がついていくわっ!』
一番初めに元気に名乗りをあげたのはラピスラズリだ。
『私の石言葉は愛・永遠の誓い。縁談の席にふさわしいと思うの。どう?』
最終的に身につけるのは私だけど、こういう話は妖精たちが中心で進められる。
おそらく妖精たち本人が最も、自分のもっている力をはっきりとわかっているのだ。
それゆえ、お互いが持ち主にもたらす力もよくわかっている。
『僕は……ルビーが行った方がいいと思う。ルビーとダイヤモンドのリングは龍宮家の象徴みたいなものだし、なによりルビーは経験が豊富だ』
『私もそう思います。ルビーは古くから恋愛において重要な石として親しまれてきたんですもの。それにルビーの石言葉も愛ですわ』
まるで人間たちが行う会議のように、反対意見もしっかりと述べられる。それはいつものことだ。私のためによりよい選択を、と必死で話し合ってくれている。
でも今日ほど激しい話し合いは今までに見たことがなかった。なにしろルビーを推す妖精とラピスラズリを応援する妖精とで、まっぷたつにわかれてしまっている。
『経験の差で決めるのはおかしいかと。一度目がなければ、経験は積まれません。ルビーにも一度目の経験があるからこそ、その後の経験があるのでは?』
『そうよ、私にもチャンスが欲しいわ』
『チャンスとか簡単に言うなよ!!今日は亜紀様の人生が決まっ……』
『待ってくれ』
異を唱えようとした妖精を止めたのはルビーだった。
『僕を推してくれるのは嬉しいし、もちろん僕だって行きたいよ。でもラピスラズリたちが言っていることは正しいし、紅い僕は亜紀さまの着ているワンピースと合わせるのは難しいと思う。ジュエリーはあくまで引き立て役だ。主役にはなっちゃいけない』
黙ってルビーを見つめる妖精たちに、彼はひとつ深呼吸をして言った。
『だから僕はラピスラズリに行ってもらった方がいいと思うんだ。……亜紀様は、どう思う?』
妖精たちにいっせい目を向けられ、私は口を開いた。最後には、身に付ける私が決めるのだ。
「私が今まで、物事の失敗をあなたたちのせいにしたことがあった?そんなことは絶対になかったし、これからもない。断言するわ。みんな、ラピスラズリにチャンスをあげて」
私の言葉でラピスラズリのイヤリングをメインにすることが決まった。
何人かは心配そうな顔をした妖精たちもいたけれど、その後はスムーズに決まっていった。
あとは、時間を待つだけだ。