第5話 僕の想い
「どういうことですか、父さん」
僕の焦った声とは裏腹に、父はゆったりとした革張りのソファに身体をあずけている。
「あぁ、聞いたか。悠翔くんがな、彼女なら大丈夫だって言い張ったもんだから」
自分の父親ながら、ため息が出る。
いくら息子の親友だからって、息子の人生の一大事をそいつに任せるか。
「彼なら恋愛経験も豊富だろう?だからその類いの目には優れているのではないかと思ってな」
だから、その目を簡単に信じるなって。どうせ父さんは、悠翔の爽やかなキラースマイルに一発でノックアウトされたのだろう。
「……はぁ」
話にならない。僕は盛大にため息をついて、部屋を立ち去った。
あのあと悠翔が口にしたのは、想像を絶する言葉だった。
「お前来月に……龍宮さんとお見合いだぞ」
「……っ!?」
……今、なんて言いましたか、悠翔くん。お見合い、なんて言葉が聞こえましたが。
「いいじゃないか。お見合いなんだからさ、気に入らなかったら断ればいいだけの話だし」
だからって勝手にお見合いの準備整えるか、普通。しかも、本人に知らせずに。
なんでも、父さんが仕事で龍宮社長と顔を合わせたとき、そろそろ娘に縁談をさせようと思っているということを聞かされたという。
その数日後に悠翔と父さんは一緒に酒を飲み、話を聞いた悠翔は、ぜひ龍宮さんに紀洋をと勧めたらしい。
どう断るか。気に入るか気に入らないかなんて、問題じゃない。
まず、龍宮家のような一族がわざわざ僕のところへ縁談を持ちかけてくるはずがない。
そうすると、確実に縁談を持ちかけたのはこっちだ。
そして相手は格上の家だ。
……断れないじゃないか。なんてことをしてくれた。
頭を抱えたそのときに、悠翔がおずおずと口を開いた。
「お前、本当に、なんにもないのか……?」
「……なにがだよ」
「俺、てっきり紀洋は龍宮さんが好きかと……」
僕が?龍宮さんを?
「……いや、ないから」
「いや、あるな。お前、嘘つくとき絶対……」
「いい、いい。言わなくていい」
そんなこと言われたら次からちゃんと嘘をつける自信がない。
そう……
僕は、龍宮さんが好きだ。
気づいたら、好きだった。
パーティーに行っても、無意識のうちに瞳が彼女の姿を探していた。
自分が作り出したジュエリーを龍宮さんが、亜紀さんが身に付けてくれることを想像して、デザインは呼吸をするようにどんどんと出てきた。
縁談を断れないのは好都合だ。でも、断りたい気持ちもある。
だって絶対、破談になるに決まっている。きっと、好きなひともいるだろう。
振られるなんて、ごめんだ。立ち直れる気がしない。
「お前、プレゼントでもつくっていけよ」
デザイン出来るのがお前の取り柄だろ、と言い捨て、悠翔はそそくさと部屋を去っていった。




