大空へ
リックの本当の気持ちを知った、次の日。
獣舎に向かうレイズの足取りは軽やかだった。
「おはよう!!リック!!」
レイズが扉を開けて小屋の中に入っていくと、リックは嬉しそうに鳴いた。
小屋の掃除をし、水を変えると、レイズはリックを外に連れ出した。
「天気もいいし、外に出てるか。」
レイズがそう言うと、リックは楽しそうに辺りを飛び回ったり、匂いを嗅いだりしていた。
「あ、レイズ先輩!!リック君と仲良くなったんですね!!」
レイズが小屋の前に立っていると、上空からドラゴンの背に乗ったリリカが現れた。
「おお、リリカ!そうなんだよ、お前がアドバイスしてくれたからサクラさんに聞きに行ったんだ。そしたら…」
レイズが昨日の夜のことを話すと、リリカは少し寂しそうな顔をして、「そうですか…」と小さく呟いた。
が、直ぐにいつもの笑顔を取り戻して、
「そうだ、先輩。リック君に“飛翔許可”貰ってきたらどうですか?」
“飛翔許可”とは、ドラゴンの飛翔訓練の際に必要な教官からの許可で、これがあればドラゴンを自由に飛ばせたり、背にのって飛ぶ訓練をすることができる。
「飛翔許可か…。うん、そうだな…。ありがとうリリカ!!ちょっといってくるわ!!」
レイズはそう言うと、教官室へと走っていった。
「先輩!!頑張ってください!!」
リリカはそう言うと再びドラゴンと共に飛んでいった。
養成所の左端にある教官室にはバリィとリドの二人がいた。
「いやー、今日も平和っすねぇ!」
バリィが窓の外を見て呟いた、その時
「教官!!レイズです!!飛翔許可、飛翔許可下さい!!」
と、レイズが扉を勢いよく開けて飛び込んできた。
リドとバリィの二人は、一瞬何がおこったのか判らず固まっていた。
「なに…?飛翔許可、だと……!?」
リドが信じられない、と言うような顔をしていると、レイズが不安そうに言った。
「え、だ、ダメっすか…?」
「あぁ、いやそういうことではない。分かった。今書いてやろう。」
リドはそう言うと机から一枚の書類をだし、必要事項を書き込んだ。
「……よし、これでいい。これを入り口の者に出せば…」
「教官、ありがとうございます!!」
レイズはリドが説明をする前に書類を受け取り、走り去っていった。
「こらぁ!!教官の話は最後まで聞け!!」
そう怒鳴るバリィだったが、その顔は嬉しそうだった。
「アイツ、とうとうやりましたかね!」
「ふ、そうかもしれんな。次の審査が楽しみだ。」
リドはそう言うと黒い眼鏡を指で押し上げ、小さく笑った。
「よーし、リック!!飛んでいいぞ!!」
レイズがそう言うと、リックは後脚で強く地面を蹴り、前肢を羽ばたかせ、大空に空高く舞い上がった。
「うわー!!凄いねー!!」
いつの間にか後にいたサクラが感嘆の声を上げた。
「あ、サクラさん…。昨日はどうもありがとうっす。」
「ふふふっ!気にしないで!!」
サクラは仔犬のような笑顔でいった。
「あ、自己紹介、まだだった…。俺、レイズ・アルキルって言います。18です。よろしく。」
そう言ってレイズが右手を差し出すと、サクラも、
「サクラ・リスティエラです!同じく18歳!!よろしくね!!同い年だから、タメ口にしてほしいなw」
と、言ってレイズの手を握り返した。
「えと…、またもしかしたらアドバイス貰うかもしんないけど…、その時はよろしく…。」
「もちろん!!これから仲良くしてね!!」
地上でレイズとサクラが楽しそうに笑ったとき、上空でリックも雄々しい咆哮を上げた。