ドラゴンクイーン現る
どれくらいボーッとリックの小屋の前に居ただろうか。昼の合格者発表から見て、辺りは薄暗くなっていた。
他の生徒とドラゴンは訓練に行っているのだろう。獣舎のなかはしん、と静まり返っている。
すると、入り口の方から一人の足音が聞こえた。
誰か帰ってきたのか。そう思って後ろを向くと、見たこともない少女が立っていた。
黄色いシャツに白の短いベスト、ダークグリーンのショートパンツに、長い髪を一部リボンで止めている。レイズがポカーンと少女を見つめていると、少女もこちらに気付き、
「こんにちわ!!」
と、屈託のない笑顔で話し掛けてきた。
「ど、どうも…」
「こんなところで何してるの?」
いや、こっちの台詞だよ。と、レイズは思ったが、特に言う必要も無いだろうと思い、さっきの事を話した。
少女は少し悩んでから、
「ちょっと入るね。」
と言って、リックの小屋にいそいそと入っていった。
「ちょっ、待てって!アブねーよ!!」
慌てたレイズが必死に止めるも、少女は既にリックの目の前に立っていた。
もし、リックの機嫌が悪かったら、こんな華奢な少女など一撃で仕留めるだろう。
ましてや自分のようにグローブもドラゴン用のジャケットも着ていないので尚更だ。
レイズが慌てふためいているなか、少女は細い腕を躊躇なくリックに伸ばした。
“喰われる…!!”
レイズが小屋に飛び込もうとした、その時。
信じられない光景が現れた。
なんと、リックが少女の伸ばした腕に、頬を擦り付けているのだ。
「よしよし、いい子だね!」
少女はリックの頬を優しく撫でると、そっと小屋から出てきた。
少女は唖然としているレイズを見て、
「あの子、少し神経質みたいだから、接するときは優しくしてあげるといいと思うよ。」
そう言って、笑った。
「あ、ありがとう…」
レイズがそう言うと、少女は「じゃあね♪」と言って、手をヒラヒラと振り、立ち去っていった。
「誰だったんだ…、アイツ…」
レイズがそう呟くと、丁度夕食のチャイムが鳴った。
生徒達は夕食を全員で食堂で食べることになっている。今日の夕食は、パン、鶏肉のトマト煮、サラダだ。
レイズが6列あるテーブルの3列目、真ん中の辺りに座ると、隣に一人の少年が座ってきた。
「よっ!レイズ!また一緒だな!!」
「お前も落ちたのか、アミノ」
アミノと呼ばれた少年は、ははは、と笑ってパンにかじりついた。
「ふぁあ、へもへいふふぁいふぇ、ほふぁっふぁふぇ(まあ、でもレイズが居て良かったぜ)。」
「なに言ってっかわかんねーよ。」
レイズがアミノを適当にあしらった時、丁度食堂の扉が開かれた。
静まり返る食堂。開かれた扉からは、リドとバリィが入ってきた。
「そう言えば、ドラゴンクイーンが来るらしいな。」
そう言えばそうだった。レイズはそう思いながらも、自分には関係無い、と水の入ったコップを口に運んだ。
「えー、皆のなかにも既に知っている者も居るだろうが、今日からドラゴンクイーンであるサクラ殿に特別講師として、次の審査までおいでいただくことになった。お前達、失礼のないようにするように。
それでは、サクラ殿に挨拶を頂く。」
リドが横に退くと、扉が開き、一人の少女が入ってきた。
「ぅぶっっ!!えほっ!ゲホっゲホっ!!」
「うわっ!!汚ねぇ!!何すんだよ~!」
レイズは少女の姿を見た瞬間、盛大にむせた。そして、目の前のアミノの肩までの赤い髪に思い切りぶっかけた。
レイズがむせるのもしょうがない。
何故なら――
ドラゴンクイーンと呼ばれた少女は、夕方獣舎で出逢ったあの少女だったのだ。
少女はスカイブルーの瞳を細め、笑った。
「はじめまして!!今紹介にあがりました、サクラ・リスティエラです!よろしく!!」