レイズとリック
獣舎のなかには既に何人かの生徒がドラゴンとの訓練を始めていた。レイズも自分のドラゴンの元へ向かった。
「おはよう、リック。」
レイズが開けた扉の先にいたのは、薄い紫の色をしたドラゴンだった。頭には2本の角が生え、長い尻尾、前肢が他のドラゴンとは異なり、翼となっている。“ワイバーン”というドラゴンだった。
リックと呼ばれたワイバーンは、レイズが扉を開けた途端、三メートルはあろうかという巨体を低く屈め、うなり声をあげ始めた。
「お、落ち着けってリック!」
レイズがリックに一歩近付いたその時、リックがレイズに向かって襲い掛かってきたのだ。
「うわっ!!」
レイズは間一髪、リックの鋭い牙を避けた。
「はぁ…、危ねぇ…。リック~、どうしたんだよ~…。」
そう、レイズが審査に合格できない訳、それは
“まだリックと信頼関係を結べていない”
為だった。此処に入所して既に一年半、未だにリックとの絆を結べていないのだ。
「はぁ……。」
レイズがリックの小屋の前でため息をついてしゃがんでいると、後ろから声をかけられた。
「あれ?レイズ先輩?なにやってるんですか?」
振り返ってみると、一匹のドラゴンを連れた少女がいた。セミロングの黒髪に、ぱっちりとしたオレンジの瞳を持つ、背の少し小さな少女だった。
「ああリリカ…。」
リリカと呼ばれた少女は、レイズとリックを交互に見た。
「まだリック君のことで悩んでるんですか?」
「ああ…。だーもう!!何でうまくいかないかなぁ~!」
レイズは頭をわしわしと掻いた。そんなレイズを見て、「あっ!」とリリカが何かを思い出したように言った。
「先輩!!知ってますか?今日“ドラゴンクイーン”が此処に来るらしいですよ!!」
「ど、ドラゴンクイーン?」
レイズが首をかしげると、リリカは驚いたように言った。
「先輩知らないんですか!?ドラゴンクイーンとは、エンシェントドラゴンから知識を授かり、ブラックドラゴンを乗りこなす、伝説の人ですよ!?」
「うーん…聞いたことあるような…。で、それがどうした?」
「その人に仲良くする方法を教えてもらえばいいんですよ!!」
「はぁ!?」
レイズは思わず大声で聞き返した。
「いやっ、無理むり…」
「先輩、頑張ってください!!」
リリカは、良かった良かったと言うような顔をして、自分のドラゴンと外に出ていった。一人残されたレイズは、
「ドラゴンクイーン……、どんな奴だろ…。」
そう呟いて、リックの檻に寄りかかった。