プロローグ
『お前は大きくなったら何になりたい?』
『おれは、大きくなったらお父さんみたいな“どらごんますたー”になって、お父さんのお手伝いをする!!』
『ははは!!そうか!楽しみだなぁ…』
空にはドラゴンが舞い、町のなかには私達の世界にはいない生物が共に暮らす――
そんな世界にアルクスという大きな街があった。
周りを自然にかこまれ、家や店がある、活気のある街だ。街の奥には白い壁が美しい、大きなアルクス城が青空に映えて聳え立っていた。
そのアルクス城の近く、街の外れにある森のなかに、大きな施設があった。その施設の名は、「龍使い養成所」。龍使いとは、王室へ献上するドラゴンを育成する云わばブリーダーのようなものである。ここはそんな龍使い目指す者達の学校だった。今、その施設の屋上に沢山の生徒達が集まっていた。
「――以上、7名の者が新しく龍使いの称号を得る。その7名の者はこの後私の元へ来るように。それ以外の者は、次の審査へ向け訓練に励むように。それでは、解散!」
今話していたのは、ここの養成所の教官リドである。リドは話が終わると、さっさと屋上を降りていった。
リドが出ていった瞬間、歓喜に包まれる屋上。抱き合うもの、涙を流すもの、様々いるなかで、一人肩を落として項垂れている一人の少年がいた。歳は17歳ほど。銀色の髪に、エメラルドグリーンの瞳をした、美しい少年だった。少年が項垂れたまま屋上から出ていこうとすると、後ろから背中を思い切り叩かれた。
「いっっっってぇ!!」
少年がきっ、と後ろを振り返ると、一人の若い青年が立っていた。
「なんだ、バリィか…。何か用かよ。」
バリィと呼ばれた青年は豪快に笑うと、少年の頭をわしわしと掻き回した。
「がはははっ!!レイズ、ま~た落ちたのかお前!」
レイズと呼ばれた少年はバリィの手を払い除けると、「ほっとけ。」と呟いた。バリィは自分のブラウンの髪を掻きながら、
「お前はいつになったら俺と一緒に仕事が出来るん
だよ。ずっと待ってるんだぞ!」
と、拗ねたように言った。レイズは、そんなバリィを横目で見ながら呟いた。
「次こそ…、次こそ合格してやる……!」
「おっ!いい心構えだ!!そうだ!まだお前には次がある!頑張れよ!!」
バリィはそう言うと再びレイズの髪をわしわしと掻いて、立ち去っていった。レイズはバリィが去っていった方を見て、
「俺とバリィは一緒に此処に来たんだ。あいつにできて俺にできないことなんてないはず!!よっしゃぁ!次こそ頑張るぞ!!」
と、空に大きくガッツポーズをした。
この養成所では、入所したときに一人につき一匹ずつ、自分のドラゴンが与えられる。生徒はそのドラゴンと共に、2ヶ月に一回行われる『昇格審査』に望むのだ。この審査で合格すれば、晴れて龍使いとなれる。大抵の者は最初の審査は駄目でも、次の審査で合格するのだが…、レイズは今まで二月、四月、六月の三回の審査を受け、三回とも失敗しているのだ。
「次こそ…絶対に……!」
レイズはそう心に決めて、ドラゴンの獣舎へ向かった。