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98.阿修羅紫

「ここかー」


「……帰りたい」


 ん? なんか聞こえるな。ま、空耳だろう。

 ということで、現在紫が通っている学校の校門前に来ている。

 着いた事を知らせようとしたらメールも電話番号も知らない事に気付き、刀夜から聞こうとするが刀夜も連絡先ばれるたびにメアドも番号も変えて、勝手に登録されても即で消すらしいために知らなかった。

 つまり、


「あくまで紫さんの関係者で行かないといけないわけだな」


「……無理だ」


「だが断る。行くぞ」


「……魔狩りでは背後に気を付けろ」


「撃つ気か!?」


 ・・・

 ・・

 ・


「賑わってるなー、グラウンド。お、あっちらへんに親が密集しているな」


「……どうしてこうなった」


 いい加減諦めればいいのに。

 ……まあ、焔からくらったダメージ分、刀夜に八つ当たりしているのは否定しないが。

 というか、


「紫さんの何がそんなにダメなんだよ。某特殊システムを取り入れた学校のFクラス代表だって11巻では熱烈な告白したんだぞ」


「……あれはなんだかんだで好きだったからだろ。……俺があいつに感じているのは恐怖一色だ」


「だから、何でそんな苦手なんだよ」


「……冷華が、俺のためにいろいろやってくれてる事はわかっている。……あそこまであからさまに向けられている好意に気付けないほど鈍感じゃない。……だが、あいつが頑張れば頑張るほど、最終的に俺に被害が集中するんだ」


「……例えば?」


「……冷華が俺を褒めちぎるたびに、たいして得意でもない歌や料理などをやらされた挙句、変な期待が混ざってる分最後は全員微妙な顔をする。……冷華が紫がいるのに俺に絡んでくると、紫は俺に対し敵意を向け、挙句攻撃をしてくる。……俺の作業を手伝おうとして、全部水の泡にされて最初からやり直す事もあった。……他にもあるが、これだけの事をやられて苦手に思わない人間がいるか?」


「それは済まんかった」


 そこまでとは思わんかった。


「……はぁ、今更だ。……ここまで来たら最後まで付き合うさ」


「お、ようやく諦めたか」


「……しょうがないからお前の八つ当たりも我慢してやる」


「……いつからだ」


「……ついさっきで、鎌をかけてみたら当たった、というとこだ」


「俺の周りは察しが良過ぎて困るな……普通なのは俺だけか」


「……お前が一番普通じゃない気がするするがな」


「おい、俺のどこが普通じゃ無いんだよ」


「まず、魔狩りの時点で普通じゃ無いだろう」


「………………」


 論破。

 何も言い返せやしなかった。


「……それに、初見の一発目で俺の銃弾をよける事がすでに異常だ」


「いや、初見ってお前……俺はお前の戦闘を見たことあるぞ?」


「……ああ、そうだな。……だが、それだって動きが緩慢(カンマン)(ジェネラル)相手に秒殺するのを遠巻きに眺めてただけだろう? ……確かに、お前と同じようにして避けた者もいるが、そいつらは全員熟練の戦士で、何度か戦った事がある奴のみだった。……お前は異常だ」


「……そう、かもな」


(……まあ、それにも理由があるんだが)


「ん? なんか言ったか、刀夜」


「……いや、何でもない」


「ふーん……あ、あそこにいるの冷華さんじゃね?」


「っ!!!」


「いや、臨戦体制取るなよ」


 情緒不安定かこいつは。


「あ、紅くん。……刀夜も来てくれたの?」


「……悪いか」


「ううん、嬉しい」


「……俺は嬉しくない。……紅に無理矢理連れて来られたんだ」


「それでも、いいの」


 おおっと、何故かわからんが二人だけの世界が構築されている気がするな。

 では、サンドイッチ置いてお邪魔虫は退散退さ


「……動いたら殺す」


「サー、イエッサー!」


 いつの間にか俺の首には冷たく鋭い何かが押し付けられていた。

 うん、動いたら殺られる。


「二人ともやめて。あまり騒ぎ起こして中止にでもなったらどうするの」


「っ!?……あ、ああ」


 何故か刀夜が驚いているが、気にしない方向で。

 大方、自分を襲わずまともに接する冷華さんに驚いているのだろう。


「冷華さん。紫は?」


「紫なら今」


「いやー、疲れたー。って、紅さんじゃん!」


 お、噂をすれば。

 紫はタオルで汗を拭きながら戻ってきた。


「よ。サンドイッチ持ってきたぞ」


「助かります。あ、今ちょうど昼休みなんでどうぞどうぞ」


 うん、いい子だ。一歳しか違わないのに何故蒼はああなってしまったのか。

 まあ、兎に角のんびりした空気だ。“紫が意図的に刀夜を無視さえしてなければな”。


「……おい」


「あっれー? なんか幻聴が聞こえるぞー?」


 うわ、白々しい。


「紫。めっ」


「ちっ、何で刀夜さんまでいんの」


「ああ、俺が呼んだんだよ。学校何処にあるかわからなくてな」


 あと嫌がらせ。


「そうなんですか。じゃあ用事はもう済みましたね。お帰りください。出口はあっちでございます」


 す、凄え。笑顔は絶対崩さねえ。


「……紅、前言撤回していいか?」


「いやいや刀夜、男に二言は無しだぜ」


「……何の拷問だ」


 No.2の実力者刀夜。だが、唯一氷雨姉妹には敵わなかったのだった。


「紫、そういうこと言わない」


「ふん!」


「ほら、さっさと飯食おうぜ。いっぱい食え」


 何か野次馬が増えてるから。それ以上騒ぐな紫。


「あら、氷雨さん」


 その時、見た感じ四十代の女性が現れた。


「ああ、大久保さん」


「今日は賑やかですね。いつもは一人なのに」


「……ええ、まあ」


 何だ? この嫌味なババアは。

 ついイラっとしていると、紫が耳打ちしてきた。


「お姉ちゃん、まだ若いでしょ? 容姿も世界一綺麗だし。そのおかげで授業参観とか来るとやっぱり先生とか他の子の父親とかに比べられちゃって、ああやって一部のババアがこういう機会に嫌がらせしてくるのよ」


 サラッと入ってきた姉自慢はいいとして、たしかに冷華さんは美人だ。それに冷華さんは親代わりで来ているが実際は紫の姉であり、年齢もそこまでじゃあない。二十代だったはずだ。

 前に焔に、女性に体重と年齢の話題はNG、とか聞いたし、美人で若いというステータスを持つ冷華さんに嫉妬しているのか。


「そちらのお二人は?」


「彼らは」


 その時、刀夜は一瞬にして青ざめた。

 刀夜の恐怖はわかるが、このタイミングでその反応は酷くないか? まあ、ここで婚約者とか言われたらアウトだけど。


「やっぱり、お姉ちゃんは刀夜が好きなのかな……」


 冷華さんをもっとも知っているであろう紫もこの反応。

 かくいう俺も似たようなものだった。

 知り合いと婚約者。

 紹介するとしたらそんなとこだろうか。もちろん俺が知り合いである。

 目障りなババア、青ざめる刀夜、落ち込む紫。

 だけど、俺たちは舐めていたかもしれない。氷雨冷華という女性(ヒト)を。


「彼らは、知り合いです」


「……っ!」


 刀夜がばっと顔を上げる。

 俺と紫も驚きで目を見開いた。


「へえ……どういうお付き合いで?」


「少し前に助けてもらったんです」


「そうですか……」


 ……驚いた。まさか、既成事実を作らないとは。

 だが、ババアはそれを聞き、顔を醜く歪める。……いや、多少フィルターは入ってるけど。下方修正されてるけど。


「じゃあ、そこのあなた、私たちのところに来ない? もてなすわよ?」


 ああ、そういえば刀夜はイケメンでしたね。

 だが、これに関してはもう、心配なんてしなかった。

 冷華さんがいようがいまいが、こんなババアに媚びるわけがない。


「……興味が無いな。……どっかへ行ってくれ」


「んなっ!?」


「……こいつのサンドイッチは美味いからな」


 そう言いながら俺の頭をポンポンと叩く。

 おい、子ども扱いやめろ。


「ふ、ふふふ、冷華さん、友達は選んだ方がいいわよ?」


「はい、私は今、彼らと知り合って心から良かったと思ってます」


 おお、これはこれは凄い嫌味。


「ぐぐぐ……ふん!」


「……いいのか冷華さん。こういうのって、結構子どもたちの間でも伝染するぞ」


「………………」


 ババアが行ったあと、ふと思いついた懸念を聞くと、一気に表情が曇った。

 あっちゃー。やっちまったか? 刀夜も複雑な表情をしていた。

 そこでこの空気を破ったのは……紫だった。


「大丈夫だよお姉ちゃん! 私は強いし友達もいっぱいいるもん! 虐められたって返り討ちだよ!」


「は、ははは」


 俺は思わず乾いた笑いをしてしまう。

 ふと、アパートに来た当初に起こった紫vs刀夜を思い出す。

 ……紫に喧嘩売ったら酷い目に会うのは向こう側だな、絶対。


「紫……」


「だから平気! 任せてよ!」


 そう言うと、紫は午後のためにガツガツ弁当を食い始めた。


「……冷華」


「どうしたの刀夜?」


「……なぜ婚約者とかなんとか言わなかった?」


「言って欲しかったの?」


「……いや」


 その刀夜の反応を見てか、冷華はクスッと笑った。


「刀夜の事は好きだし、既成事実でも何でもあらゆる手段は尽くすと決意してるけど、嘘の関係はいらない。私が欲しいのは、刀夜だから」


「……お前は決意をもっと別の時に使え」


 ……俺の記憶は後ろに阿修羅のオーラを出した紫への恐怖で埋め尽くされた。

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