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96.犬耳少女

「さてと、買い出しに」


「わん」


「……何の真似だ九陰先輩」


 突如現れた犬耳少女。つーか九陰先輩。


「躾けるって言ってたから」


「……どうしてこうなった」


 そういう意味で言ったわけでは無かった。


「兎に角、俺は今から買い出しだから」


「私もこれから風紀委員」


「だったらさっさと私服に着替えて来い!!」


「風紀委員とばれないよう、休日は私服可」


「……はいはい」


 だからって、この犬耳少女と隣り合って歩けと?

 ……悪くて、警察沙汰だな。

 そこで、九陰先輩は何かを差し出す。


「はい」


「……一応聞くが、これはなんだ?」


「リード」


 手渡されたリードを辿ると、しっかりと首輪があった。

 ……九陰先輩の首に。


「100パー通報もんだよ!!」


「じゃあ行こう」


「お前の中の常識はどうなっている!?」


 つい九陰先輩にお前と言ってしまったが、気にしてる余裕は俺には無かった。

 というか羞恥心は無いのだろうか。


「おい! 躾けるとか言ったって、九陰先輩は俺に躾けられていいのか!?」


 これなら流石の九陰先輩も引いてくれるはず!


「え? ……あ、その……紅なら、いいよ」


 頬を赤らめながら上目遣いで言ってきた瞬間、俺の理性は思いっきり崩れ落ちる。

 ギリギリのところで耐えた俺は、思考を立て直す努力をする。

 ……凄えぜ九陰先輩。俺たちにやれないことをやってのける。そこに痺れも憧れもしないけど。


「……いいから犬耳と首輪外して来い。俺が捕まる」


 これなら流石の九陰先輩も(ry。


「私が説明すれば大丈夫。じゃ、行こ」


 さすが九陰先輩は格が違った。

 と、そういう事じゃなくて!


「ダメだから! 行かせねえよ!?」


「後輩が先輩に勝つなんて百年早い。……それになんか、気持ちよくなって」


「だあああああああ!! 言うな! 聞きたくない!」


「もう、このまま紅色に染まるのも……」


「正気に戻れええええ!!」


 だが、九陰先輩の進撃は止まらなかった。

 ぐんぐん進む九陰先輩に、首が締まるのを恐れてリードを強く引っ張る事が出来ない俺。

 ドアは目前だった。


「……ああ、もう!」


 一瞬でいいから隙を作ればいいんだ! 後は適当に抱っこでもして、戻せばいい!


「九陰!!」


「え?」


 うわああああああ! 慣れない! すっごく慣れない!

 とりあえず今のうちに


「ねえ、紅」


「あ、はい。なんすか」


 あ、はい。なんすか。じゃねえよ! 運べよ! 反射的に反応しちまったよ!

 俺は兎に角、何を聞かれても大丈夫なよう臨戦体制を取る。


「今、呼び捨て?」


「……はい」


 機嫌損ねたか? ああ、やっぱり呼び捨てとかするんじゃなかった!


「………………で」


「……へ?」


「もう一回呼んで」


「よ、呼び捨てで?」


 怒りを底上げして攻撃力を高めたいのか?

 それとも俺の犯した罪の再確認?

 だが、ここは呼ぶしかない!


「く、九陰」


「……もう一回呼んでくれたら犬耳と首輪を取る」


 新手の羞恥プレイか!?


「く、九陰!」


 恥ずかしくなってすっごく早口になってしまったが、三度目の呼び捨て。

 ああ、もう怖いし恥ずかしいし!


「……♪〜♪〜」


 だが、何かをするでもなく、九陰先輩は鼻歌を歌いながら、随分と上機嫌に階段を登って行ってしまった。


「……な、なんだったんだ」


 とりあえずこの短時間で俺の精神はガリガリ削られたのだった。

 というか、犬耳とか首輪がなんであるんだよ。

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