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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
月島雪音との日常
91/248

90.次は絶対

 熱い。

 風が吹く。肌が焼ける。

 ああ、“懐かしい”。


「さあ、始めようぜ!!」


 *


「近付いている……?」


北風(ボレアース)南風(ノトス)。強くなっているね」


 紅は、力を付けている。段々と。

 でも、“それだけじゃダメ”。

 最後まで巻き込むなら、最後まで責任を持たなきゃいけない。

 だから、


「助けなきゃ」


 私が、紅を助けるんだ。


 *


「……精製(クラフト)


 上空から大量の銃が刀夜の周りに落ち、地面に突き刺さる。


「させるか!」


 だが、それを黙って見てやる義理も無い。

 すかさず攻撃を仕掛ける!


「悪いが、俺と踊ってもらうぞ」


「お誘いはまた今度にしてくれや!」


 だが、やはりと言うべきか。和也が立ちはだかる。

 ここからは一瞬の勝負だ。


「シッ!」


「邪魔だ!」


 和也が分銅を投げ、俺がそれを風で弾く。

 だが、鎖の影から大量の触手が現れ、俺の足を絡め取ろうとする。

 絡め取られる前に空中へと飛ぶ……と、刀夜の銃撃が俺を襲う。

 だからここは、特攻!

 烈に使った超ダッシュの感覚を思い出せ! 足に風が集中し、荒れ狂う力を推進力に無理矢理変える感覚を!

 あの時は、力の制御が出来ないため、兎に角必死だった。

 だが、今は力が制御出来る分、必死な感覚が無い。

 だから、自分を追い込め!

 触手が少しずつ足に巻き付く。動きを阻害する。重くなる。

 風が、もっと欲しい。もっと、もっと!

 地面が、爆発する。


「なっ!」


「らあっ!」


 ダッシュの勢いで、和也の顔面目掛けてパンチを繰り出す。咄嗟の回避行動を行う和也。

 一撃を入れることは叶わなかった。が、“あの”和也を抜いた!

 一気に加速し、今度は刀夜目掛けてダッシュする。


「勝負だ刀夜!」


「……発射(ノヴァ)


 手近な銃を取り、狙いを付け、指を引く。

 俺には、ここぞという時に、都合良く思考が加速して周りの風景がゆっくりと動いて見える……なんて都合のいいことは起こらない。自分が危機的状況に陥った時、稀に起こることがあるぐらいだ。

 だから、銃を撃たれれば、まず回避は出来ない。

 人間、どんなに動体視力を付けようと限界がある。銃弾、ましてや刀夜の銃が吐き出すのは雷だ。

 だから、ポイントとなるのは、“撃つまでの数秒間”。

 銃を構え、狙いを付ける。狙われてる場所を見る。左足。

 指を引くタイミングをしっかり確認して、今!

 雷鳴にも似た音が、鳴り響く。


「うっらあああああああああああああああ!!!」


「……ほう」


 引く瞬間に左足を体で隠す。

 刀夜の雷は、本来左足のあった場所を貫いていた。

 まあ、パズズの風の加護のおかげだがな。


「もう見切ったぜ! 刀夜!」


「……なら」


 だが、ここからが刀夜の“攻撃”だった。

 刀夜は雷の軍勢を出すことも無く、一人で戦う。勝機はそこにある……と思っていた。


「……今度は、俺と踊ってもらうぞ」


「野郎にモテても嬉しく……!?」


 セリフの途中だったが、刀夜は容赦無く攻撃を入れる。

 右手で銃を構え撃つ。刀夜の銃は単発式だ。だから、その時点で次の銃撃まで隙があると思っていた。

 だが、それは“俺でも”気付ける事だ。俺の倍以上、この命がけの戦場に生きる刀夜だって、解決策は考えるはずだ。

 雷の軍勢はその一つだろう。大量の兵士に銃を持たせての波状攻撃。だが、今の刀夜は一人。だったらどうするのか。答えは単純だった。

 慣れと経験と技術。それだけだ。

 空になった銃を投げ同時に左手で銃を持ち、撃つ。そしたら今度は左の銃を投げ、右手で銃を持ち、撃つ。

 絶え間無く空からは銃が降り注ぐ。

 刀夜はまるで踊るかのようにステップを踏みながら、次々と銃のある場所まで移動し、的確にこっちに狙いを付けて銃撃してくる。


「うわあ!? 危ねえ!?」


「……どうした。……もっと踊ってみせろ」


 余裕しゃくしゃくといった態度で、その間にも銃撃を重ねる刀夜。

 ただ必死に避け続ける俺。

 だが、俺だって何もしてないわけじゃない!

 刀夜が次の銃を取ろうとする。が、


「っ!」


 弾かれるように、刀夜は銃のグリップから手を離す。

 かかった!

 俺は銃撃が収まったこの一瞬を逃さず、刀夜に一気に距離を詰める。


突風(ガスト)一撃(・インパクト)!!」


 南風(ノトス)の熱風によって、高温までその熱を上昇させた灼熱の風が、刀夜に迫る。

 素早く別の銃を取り、俺と自分との間に割り込ませ、防ぐ。だが、衝撃までは消せず、吹っ飛んだ先でコンクリートの壁にぶち当たる。


「はぁ、はぁ」


 やったか?

 そう思った矢先、崩れたコンクリートの中から閃光がっ!?


「ぐあっ!?」


 何の反応の出来ず、左手への直撃を受ける。

 ……油断した!

 この程度で終わるわけもないのに!

 ガラガラとコンクリートを崩し、中から刀夜が立ち上がる。


「……その風で俺の銃のグリップを熱し、お前自身が回避しながら動くことで仕掛けた銃まで誘導。……俺がその銃を取れば、いきなりの熱に驚き銃撃が止む。……その一瞬を狙う。……考えたな、紅」


「お褒めに預かり光栄だよ、刀夜」


「……ああ、“俺だけと”戦うなら上手い作戦だったよ」


 そして、その刀夜の言葉で俺は自分のミスを“思い出した”。

 漆黒の鎖が、俺の体に巻き付く。


「おい、俺のこと忘れていただろ」


『紅、これ取れませんね』


「うわあ!? やべえ!?」


 そういえば和也は、“倒してはいなかった”!!


「……終わりだ」


 刀夜が指を引く。

 銃身から閃光がほとばしる。

 終わ……り?

 そう思った瞬間、影が舞い降りた。

 一瞬の炸裂音。爆発的な発光。

 聴覚と視覚が奪われる。

 だが、俺には痛みが無かった。

 ……麻痺でもした? でも、何の衝撃も無い。


「大丈夫? 紅」


「その声は……雪音?」


 視覚がゆっくりと回復していく。

 そこには、巫女服姿の月島雪音がいた。

 だが、そこには普通の巫女服とは違いがあり、通常白衣の上は黒、言うなれば黒衣。下も赤い袴では無く、紫に近い青だった。

 だが、真に注目するのは腕だった。そこには、刀夜から一撃をもらったという証拠になる、焼けただれた皮膚……。


「おい! その腕!」


「ああ、これ? 大丈夫、見てて」


 雪音は腕を天にかざす。すると、雪音の腕は淡く発光し、傷がどんどん塞がって!?


「……なるほど、確かな不死性だ」


「でしょ? 簡単には死なないし、捕まっても四肢ぐらいなら切り離してもすぐに回復するわ」


 四肢って、手足じゃねえか!

 和也を見ると、少なからず動揺してるのが見て取れる。

 だが、この状況をどうするつもりだ?


「さて、本題と行きましょうか」


「……本題だと?」


「私たちの攻撃を止めてくれないかしら」


「……そいつは出来ない相談だ」


「勿論、ただとは言わない」


 おい、ここで何を持ち出すつもりなんだ。


「私はあなたたちの許可なく、勝手に儀式をしないわ」


「儀式?」


 もしかして、それが世界を壊すっていう?


「……信じるとでも?」


「信じさせるわ」


 そう言うと、雪音は舞さんを見る。


「ねえ、舞さん。私をあなたのアパートに住ませてくれない?」


「なにい!?」


 アパートに!?


「……そう来るか」


「これなら、アパート内は皆で、学校では木崎和也と木崎輝雪、放課後ではさらに黒木九陰が加わり、エルボスに逃げても舞さんが来れる。最高の信用だと思わない?」


「……ほう」


 たしかに、それなら四六時中見張れる。

 だけど、


「……だが無理だ。お前を本部に連れて行った方が早い」


 そう。アパートに住ませるぐらいなら、最初からそっちの方が早い。


「そう。でも、この条件を呑むといい事があるわよ?」


「……何だと?」


「木崎和也が生きられるわ」


『…………は?』


 この場の男性陣が、一様に抜けた声を出す。

 だが、それを無視して雪音が手から光を……て、でけえ!?


「これは紅が戦ってくれる時に集めた、純然たる“力”の塊。力の源たる月から作ったの。そして」


 巨大な光の玉から、少しだけ光が落ちる。

 落ちた光が地面に触れた瞬間、ドスンッ!という音と共に、地面が“割れる”。


「……そう来るか」


「私は本気よ。私はまだ、自由を盗られるわけにはいかないの」


 和也が人質とは……。こいつ、凄え。

 空気が張り詰め、緊張の糸がぴーんと張る。

 そこに、声を出す者がいた。


「皆さん」


 東雲舞さん。


「少し落ち着いてください。別に私たちは殺しあってるわけではありません」


「……ああ」


「そうではあるが」


 刀夜と和也が渋る。

 たしかに、ここまでやっておいて、ってのはある。


「月島雪音さん」


「はい」


「入居を許可します」


「はあ!?」


 俺が驚いてしまった。


「ほ、本気ですか舞さん!?」


「ええ、本気です。危険な存在は、どこか遠くで見張るよりも手元に置いた方が安全です。それに、紅紅と月島雪音はどうやらマキナ・チャーチに重要視されてるようですので。ねえ、月の巫女さん?」


「……知ってたんですか」


「ええ。本部より、報告がありました」


 月の巫女。

 俺の時の迷子と同様なのだろうか?

 そもそも、こいつもマキナ・チャーチに追われてる?

 一体、どういうことだ。


「月島雪音さん。今回のことは“警告”です。刀夜くんも和也くんも、少し頭を冷やしてください。紅くんも、あまり無茶をしないように。本部には私から脅は……お願いしておきます。今回の件はこれで終わりでいいでしょう」


 そう言って、舞さんが締めくくる。

 ……ちくしょう。

 結局、何も出来なかった。

 新しい力も入って、あんなに啖呵切って、でも、最後は結局何も出来なかった。


「紅」


 不意に、雪音から声がかかる。


「ありがとう。紅が私を叱ってくれなかったら、こんな事出来なかった。私は紅に救われた」


「でも、あんな事言っといて、結局俺は……」


「なら、強くなればいい。強くなって、そしたら今度こそ、守ってね」


「……ああ、必ず」


 こうして、雪音を巡っての俺と魔狩りの戦闘は、雪音の機転と舞さんの仲裁によって幕を閉じた。

 だが、あっちの世界ではもっと厄介な事が残ってた。

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