86.出会い
「はぁー」
「何でため息吐いてんだよ」
「ああ、別ルートの主人公葉乃矢じゃないか」
「何だ別ルートって。俺が主人公の晶でも出るのか」
「いや、絶対無いな」
「……そうかよ」
「ため息は特に理由は無えな。ただ何と無くだ何と無く」
「何と無く、ね」
「意味深に言ってんじゃねえよ」
「へーへー」
現在学校。だが、俺の周りにやはり、いつものメンバーはいなかった。
いない、というよりも、
「俺だけ弾かれたんだよなー」
「ん?……ああ、なるほど」
教室前方には人だかりが出来ている。
その中心にいるのは晶と焔だ。
「昔からだよ。ある程度期間が経つと、周りは皆、小説と焔を俺から離すんだ」
「それは被害妄想じゃねえか?」
「だといいがな」
まあ、昔からと言っても中学からだが。
「何でいつも俺だけ……」
「まあまあ。俺がいてやるから」
「…………」
葵と赤井を見る。
「今度さ、映画行かない?」
「恋愛映画?」
「ダメ?」
「海となら、何処でもいいさ」
「……空」
見事なラブラブっぷりだ。
「なるほどな」
「うっせえ!」
言ってしまえば、あの甘ったるい空間にいたくなかったと。
「蒼と電話してればいいだろ」
「それが蒼のやつ、学校で電話暴露て携帯三日間没収になっちまったらしくて」
「……溢れたわけだ」
『はぁ』
今日も仲良く二人ぼっちだった。
「紅×葉乃矢……クフ」
悪寒がした。
*
もうすぐ、もうすぐ会える。今日、やっとか会えるよ、紅。
“今回も”、君は私の味方でいてくれる?
私の隣に、いてくれる?
紅、今会いに行くからね。
君の日常を、守ってみせるからね。
晶くんも焔ちゃんもアパートの皆も、私が絶対守るから。
*
「ん?」
何だ? 今、何か……。
「どうした? 紅」
「いや、何でもない」
気のせいか。周りを見ても特に変なとこないし。
「そうか」
……あ。
「そういえば葉乃矢。今日だっけ、転校生来るの」
「はぁ? 転校生? 初耳だぞ」
「え? ……あれ? 何で転校生が来るなんて思ったんだ? 俺は」
「おいおい、大丈夫かよ。風紀委員大変なのか?」
「あ、いや。……あれー?」
なんだ?このムズムズする感じ。
・・・
・・
・
「おーし、みんな席付けー。今日は転校生を紹介するぞー」
…………え? 転校生?
葉乃矢が目線で何か訴えてくる。
ド ウ イ ウ コ ト ダ
俺が知りたい! 何なんだ! わけがわからん!
結構前から、全く知らない記憶に助けられたりしてるが、やっぱり慣れない。
そもそも、烈と戦った時、最後の最後で俺の記憶とは異なった終わり方をしている。
くそ、どうなってんだ。
葉乃矢は俺が焦ってるのを見てか、事情を何となく察したのか視線を前に戻す。
「センセー。凄く急ですけど何でですかー」
多分、誰もが思った疑問だろう。クラスの女子が質問する。
「ああ、親の急な出張らしく親について来たんだそうだ。皆、仲良くしろよ」
「センセー! どんな子なんですか!」
「可愛いですかー!」
特に深い理由は無さそうだと判断したのか、クラスの皆が次々に室内する。
だが、俺は胸騒ぎがしていた。
何処かで、同じ状況になった気がする。
何故、俺が転校生が来るとわかったのか。
「一回静かにしろー。ほら、入って来い」
「はい」
っ!!
転校生の声を聞いた瞬間、体が、脳が、心が、魂が、震えた。
『初めまして』
何処かでずっと求めてたような感覚。
『親の都合でこちらに転入することになりました』
あり得ない。今までそう感じた事は無かったのに。
『ーーーーです』
時間がゆっくりと進んで行く。
ゆっくりと、ゆっくりと、ドアが開き、転校生が入ってきた。
「…………嘘」
焔が横で息を飲む。
ああ、似ている。とても、似ている。
「由姫……ちゃん」
前で晶が名前を出す。
だけど、違うんだ。
あいつの、名前は、由姫じゃない。
喉が、口が、まるで昔、何度もその名を呼んだかのように、何の抵抗も迷いも無く、その名を出した。
「月島……雪音」
「初めまして。親の都合でこちらに転入することになりました。“月島雪音”です」
酷く懐かしい感覚だった。
前世は相棒だったかのような。
見てるだけで安心する。
自分の半身に出会えたかのようだった。




