81.拡大していく日常
……ここは、どこだ?
……俺は、どうなったんだ?
たしか、空気が震えた瞬間にヤバイと思って、烈を飛ばして……。
ダメだ。そこから思い出せない。
俺は……
「お兄ちゃーーーーーーん!!」
*
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
デジャヴュ!! なんか凄くデジャヴュな感じがする!!
と、騒ぎながらも腹に頭をグリグリと押し付けている蒼を引き剥がす。
「むぅ、冷静過ぎるよお兄ちゃん」
「うっせえ。……って、ここは? 何で元の世界に戻ってんだ?」
俺の最後の記憶はエルボスで終わっている。だが、今は元の世界の裏路地だ(物凄い快晴なのですぐわかる)。事情を知りたいのだが。
「あ〜、それなんだけどねお兄ちゃん」
「何だ?」
「ごめん! やっちゃった!」
最後にテヘ☆とでも付きそうなくらいお茶目に謝る蒼。
その後ろで集まっている皆。
皆に介抱されている……烈。
…………。
ゴスッ、と重い音が鳴る。
「いったああああああい!お兄ちゃん何すんの!」
「アホか!お前こそ何やりやがった!」
「ちょっと反射的にボコっただけだよ!!」
「それがダメなんだよ!!」
この妹は……交戦的過ぎる。
「……というか、皆いるんだな」
頭の上のパズズ、焔、九陰先輩の被害者ーズ、そんで晶に葉乃矢もいる。蒼と俺を合わせれば、ほぼ今回集まったメンバーだ。
……木崎双子。
「む……ぅ、貴様の妹は過激だな、紅」
「悪かったな」
「思ってもない口調で言うな」
「そうかよ」
烈も起きたようだ。
さて、これで今回の話に……ん?
「焔、晶、なぜ俺を睨む」
「……どうして教えてくれなかったのさ」
「烈が来てるなら、私たちにも言ってよ。私たちも、あの事件の関係者なんだよ」
「いや、あれは俺のせ」
「違うよ!! 皆が負うべき責任だ!! 何で紅だけ背負うのさ!? 辛い役目ばかり背負って、僕と焔は何のためにいるにさ!!」
「そうだよ!! いつもいつもそうやってカッコつけて、紅が傷ついたら私たちも悲しむんだよ? 私たちも巻き込んでよ……」
「……済まん」
まさか、この二人にそういう風に思われてたなんてな。
……本当に俺はバカだな。カッコつけて、か。その通り過ぎて坂路できねえや。
「お〜い。シリアスなとこ悪いんだが」
「お、おう葉乃矢か。デートはどうだった」
「いや、どうだったってお前……まあいいか。お陰様で妨害なく思いで作りにいそしめたよ」
「……そうか。付き合うのか?」
「どうしてそうなる。……まあ、告白はされたさ。だけど、まあ……」
「葉乃矢さんは私の所有物です」
「……というわけだ」
「……爆ぜろ」
「何故に!?」
まあ、葉乃矢は蒼をあまり知らんから「にしても喉乾きました」「だったらファンタ飲むか? 好きだったろ」「え? 何で知ってるんですか?」「毎日メールでいろんなこと伝えられたらわかるって」「あ……ありがとう、ござい……す」いやはや、良く知っているようで。あっはっは。
「死ねええええええええ!!!」
「危なっ!?」
ちぃっ! 渾身のパンチが!!
「見てよ焔。この状況を葉乃矢くん視線で見るとどうなると思う?」
「イチャイチャしてたらシスコンのお兄さん……おっとお義兄さんでしたね、に邪魔をされたという状況でしょうか? いやあ、王道ですね」
「僕は蒼ちゃんを惚れさせた葉乃矢くんの主人公っぷりに感服ですね」
「紅とのキャラ被りなだけあります。ここまで来ると作者はこういう主人公しか書けないのか! て感じになっちゃいますね」
「おい外野! 黙ってろ! あとメタるな!!」
一応それ以外にも書いてる……はず、だ。
「……ああ、もういい。烈と話したいからお前ら帰れ」
「私は残る。あちら側が関与したなら、関係者」
「じゃあ、僕と焔は帰るよ」
「うん」
「葉乃矢さん。送ってくれますか?」
「……しゃあない」
素直に喜ぶ蒼に口唱する葉乃矢。
…………。
俺はポンと葉乃矢の肩に手を起き、満面の笑顔で、最大限優しく言ってやった。
「手ヲ出シタラ殺ス」
「出しません!!!」
いやあ、いい返事だな、うん。
「「「……怖い」」」
帰宅組はさっさと帰れ。
・・・
・・
・
そんじゃ、
「話そうか。何があったのか、烈」
「……ああ。わかっている。あの後、お前は雷をその身に受けた」
「雷?」
「ああ。マキナ・チャーチどもの攻撃だ。我々の戦いの後、疲弊したお前を狙ったのだ。だが、契約してたおかげでお前はギリギリ命を保っていた。相手がわざと威力を落としたというのもある。なんせ、至近距離で見聞きした俺の視聴覚が無事だからな。だがその後お前は虫の息。俺が背負い運ぶも戦闘でガタがきてた俺の体もたいして動かなかった。そこに現れたのがウェザーと名乗る男と、ダークと呼ばれていた俺にエクス・ギアを渡した女だ」
「ウェザーとダーク? そこを詳しく」
「九陰……だったか? 残念だが俺はたいして知らん。が、名前から天気、闇であることはたしかだ」
「天気……ゼウス、かな。闇は……」
「続けるぞ。その後その二人に先回りされ、紅を渡せと言ってきたのだ。だが、渡す気も無い。だから少しの間が空いた。そこに、一人の女が現れた。……俺と紅をこっち側に返し、お前を治した女だ」
「誰だよ、そいつ」
「……済まんが、口止めそれている」
そこで烈が複雑な表情を浮かべる。だが、どこか悲しそうだ。
「……だが伝言もある。『すぐに会える。会えばきっとわかるから』だそうだ」
「なんだそりゃ」
意味がわからない。わかるわけがない。名前も何も教えてもらってないのに。
「……ねえ、ちょっといい?」
「何だ九陰」
「紅は雷に撃たれ重症。直したのは謎の女。じゃあ、紅をどうやって治したの? あと、あっちからこっちに戻すなんて」
「……戻す事に関しては脱出用のエクス・ギアだ。何故か二個も持っていて一個くれたのだ。脱出までの約一時間も護衛してくれた。傷に関しては、自分の不死生をすこしだけ譲渡する、と言っていた」
「不死生? いったい何の神……」
「……ちょっと待て。じゃあ、俺の体は今も」
「まあ、渡したら回収出来ないと言っておったからな。性能は“生きている限り死なない。治りは遅い”だそうだ」
「いやいやいや! 十分早えよ!! だって俺らが戻ったのって……えーと」
「今は夕刻。約七時間程だな」
「それで致死の怪我を治す!? 生きている限り死なない!? 凄すぎだろ!!」
「回収出来ない不死生を少しとは言え状況する相手も相手」
軽くチートだった。うん、怖いね。入院いらず。逆に解剖されそうだ。
「まあ、以上が紅が倒れてからの出来事だ」
「……そうか」
マキナ・チャーチの干渉、俺を助けた謎の女。
……問題が増えた気がする。
「紅」
「ん?」
不意に、烈が呼ぶ。
「俺はまだ怒っているし憎んでいる。だが、“殺し”は俺の正義じゃない。よって、俺は別の方法でお前を超える。だから、超えられるその日まで、楽しみにしていろ」
「……やれるもんならな」
俺たちの関係は決していいものじゃない。
だが、俺たちにはこの距離が一番最適なのだ。
だから、俺は
「待ってるぜ」
「……ふん! すぐに追いついて追い越してみせるわ!!」
この距離が心地いい。
そして、俺たちも別れることになった。
……のだが、
「ああ、そういえば」
「ん?どうした」
「いや、俺にエクス・ギアを渡した奴の名前を言ってないなと」
「知ってるのか?」
「流石にダークと名乗られても、はいそーですかとついて行くわけがない。幾らあの頃の暴走気味の俺でもな」
「そりゃそうだ。で、どういう名前なんだ」
「ああ、そいつの名前は
黒木八陽」
その瞬間だった。
九陰先輩が目を見開き、烈に襟首を掴んで揺すっていた。
「お姉ちゃんを知ってるの!? ねえ!! 教えてよ!!」
「うおおお!?」
「お、おい落ちつけよ九陰先輩!」
黒木八陽。
九陰先輩。
黒木九陰。
性が……同じ?
「ねえ! 教えてよ!! お姉ちゃんについて知ってること全部!!」
「し、知らぬ……名前しか……知らぬ……」
「九陰先輩! 落ち着けよ! 烈を離してやれって!!」
「嘘……嘘よ……お姉ちゃんが、マキナ・チャーチにいるなんて…………」
身内が敵。
その衝撃とはどれ程のものなのか。
さらには、エクス・ギアを配っている。確信犯だろう。
大きく見開かれた目には、混乱、驚愕、悲哀、数々の感情が混じる。
だが、その感情も怒りや憎しみなどはなく、ただ心を塞ぐ悲しい感情。
俺たちの日常は、黒く大きい何かに潰されようとしていた。
ただ、静かに。
-第七章・正義の日常〈完〉-
これで正義の日常編終了です。
ここまで読んでくださった方はありがとうございます。まだまだ続くので、完結までご一緒できたらと思います。まだまだ続くのですが(汗)
それでは、また次の章で。




