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70.メール

「みんなー。弁当だ。ほれ」


「やたー!」


(コウ)、いつもありがとう」


「今日も楽しみ!」


「…ん」


「ああ、助かる」


 五人、自分合わせて六人。

 日常的にこの数の弁当を作る人はそういないだろう。


「もう、紅くんったら私たちのお母さんね」


「待て。何故そうなった輝雪(キセツ)


「言い得て妙だね」


「紅がお母さん…たしかに」


「…ん」


「まあ、面倒見もいいしな」


 おいこらてめえら。

 それ以上に九陰(クイン)先輩。目が弁当に釘付けだぞ。会話に加われ。


「ああ、そうか。ならお前らにこれは無しだ」


 これ以上“お母さん”を伝染させるわけにもいかない。奥の手をさっさと出す。


「何よそれ」


「クッキーだ」


 何か弁当作ってるうちに甘い物食いたくなって同時進行で作ったのだ。


「っ!!」


 九陰先輩は目を見開いた!効果はバツグンだ!

 …やべえ。想像以上の食い付きだ。


「紅!酷いよ!」


「あんまりだ!」


 (ホムラ)(ショウ)が抗議してくるが…知ったことか。お母さん呼ばわりしたのを後悔するがいい!

 …て、あれ?


「クッキーは自分が持っていると、いつから錯覚していた?」


和也(カズヤ)!?てめえ!」


 軽くネタを入れながら俺の手から容易くクッキーを奪取する和也。


「やったー!ありがとう紅お母さん!」


「ありがとな、お母さん」


「…いつまでも俺が黙ってると思うなよてめえら!!」


「わー!紅くんが怒ったぞー!」


 こうして、昔懐かし鬼ごっこの火蓋が切って落とされた!


 ・・・

 ・・

 ・


「ぜぇ、ぜぇ」


「大丈夫?」


 結論を言おう。

 あっさり置いてかれた。

 九陰先輩が他の追随を許さぬスピードで。(あれは絶対5秒代だろ)

 晶が焔を背負いながら。(人を背負った状態で学校まで走れるってどういう体力だ)

 焔は言わずもがな。(寄生虫め)

 輝雪は…寸前で回避されまくった。(まさに紙一重)

 和也…いつの間にか見失ってた。(幽霊かあいつは)


「…なんか疲れた」


 マジで疲れた。

 今日は寝よう。睡眠学習だ。

 その矢先。


「紅!何とかしろ!」


 最近絡んでくる葉乃矢(ハノヤ)だ。


「うっせえぞ葉乃矢。最近 (アオ)関係で活躍してるからっていい気になってんじゃねえぞ。後、俺は眠い」


 そうやって机に突っ伏し…


「このメールを見ろ!」


 きれずに起こされた。

 …何だよ、たく。



 差出人:紅 蒼

 宛先:×××××××××

 RE:葉乃矢さん休みは暇ですか?

 どうも、蒼です。

 ご機嫌いかがですか?私は元気ですよ(^_^)

 ふふふ、こうやってると、ついこの間まで赤の他人という事が不思議ですね♪

 あ、用件を話さないとですね。用件は、今度こちらで新しいお店が開店するのですが、開店セールで全品半額で、何より良さそうな雰囲気なんですよ!だから今度の休み、良かったら一緒に行きませんか?

 いや、いいんですよ?無理して来なくて。そちらにはそちらの都合がありますしね。たしか…赤井さんと葵さんですよね?いやー、良さそうな友達ですね。仲良し過ぎて嫉妬しちゃいますよw

 もしかしたら親と何処かに出かけるんでしょうか?でも、たしか親御さんは今度の休みはお仕事でしたよね?兄弟もいませんよね?たしか。

 ああ、もしかして動きたくないという理由でしょうか?だったらそちらに伺いましょうか?住所は××××××××××でしたよね?ええ、そうすればいっぱい一緒にいれますよ♪

 まあ、万が一、億が一、他の女が理由だとしたら気を付けてくださいね?もしかしたら事故に合うかもしれないので。

 ああ、だからと言って悪いのは葉乃矢さんではありません。悪いのは女の方ですから。葉乃矢さんは何にも悪くないです。

 そもそも葉乃矢さんはお兄ちゃんと同じで優しいんですから、変な女には気をつけるべきです。

 でも安心してください。私が近くにいる限り、ずっと守ってあげますから。

 ええ、ずっとです。

 ずっとずっとずーっと、私が葉乃矢さんを守ってあげます。お兄ちゃんの変わりではなく、葉乃矢さんを守ります。

 もし変な女が葉乃矢さんを誑かしたらすぐにこの世からご退場してもらうので安心してください。

 葉乃矢さんを騙そうものなら深海の冷たさをその身で味わってもらいましょう。

 葉乃矢さんを傷付けるものなら樹海の奥地でサバイバルでもやってもらいましょう。

 でも、それに葉乃矢さんは関係無いので安心してください。

 葉乃矢さんは私が守ります。

 ずっとです。

 永遠を誓いましょう。

 今こうやってメールを送ってる時だって、常に葉乃矢さんを守っているのですよ?

 ああ、話が盛大にそれてしまいましたね。

 それでは葉乃矢さん。今度の休みを楽しみに楽しみに楽しみに楽しみにしてますね♪


(添付画像:特殊メイクでリストカットしたような手首に仕上げられた画像)









「怖えよ!!」


「…うーむ、あくまでヤンデレをそこまで感じさせない文章で送るとわ…」


「というか最後の画像…」


 蒼の底が知れない。


「…やばい、やばい、マジでやばい」


「ど、どうした?」


「あ、蒼には空と海の事は教えてないし家族構成だって教えてないんだ…。それどころか住所だって…」


「「「「…………」」」」


 何とも言えない空気になった。


「…しかも、今度の休みは…ああ、最悪だ」


「何で?蒼ちゃんと新しいお店に行けばいいんじゃ…まさか」


 輝雪が言いかけて、気付く。

 俺も何となくだがわかった。晶と、焔も。


「…今度の休み、中学時代の後輩と出掛ける約束があるんだ」


「「「「…………」」」」


 やばい。変な汗が出て来たぞ。


「ついこの前、偶然会って、そこそこ仲も良かったから話し込んでるうちにそんな話に…」


「…それ、やばくね?」


 蒼は本気と書いてマジと読むタイプの有言実行人間だ。

 …きっと、本気で何か起こるだろう。


「紅!頼む!今度の休み俺を守ってくれ!」


「はあ!?」


 いや、諦めて蒼の方へ行けよ!


「いや、その子。今度遠くへ引っ越すんだよ。だから、その、最後の思い出作りで行こうぜみたいな感じで…だから」


「………」


「「「………」」」


 なんか、断り辛いし、三人から変な視線感じるし…。

 選択肢をくれよ。お願いだから。


「…わかったよ」


「っ!あんがとな!」


「というか、親友二人に頼めばいいだろ」


「いや、あいつらは…」


「何か問題でもあるのかい?」


「…デートだからな」


 新事実発覚。赤井空と葵海は付き合っていた。


「付き合ったのは割と最近…」


 しかも最近だった。


「へえー!恋人同士なんだー!」


「こ、恋人!?」


 焔、うるさい。

 輝雪、お前この手の話は苦手なのな。顔が真っ赤だ。


「と、とにかく!助かる!」


「おお。…高いぞ」


「…いくらだ」


「昼食一回」


「…わかった」


 こうして、今度の休みは葉乃矢を守ることに…


『殺してやるよおおお!』


『否定だ。否定してやる』


『お前の正義、壊してやる』


「っ!?」


 な…んだ!?


「紅!?大丈夫!?」


 晶が慌てるように声をかける。

 気付けば俺は、呼吸が荒く、汗をかなりかいていた。


「紅?」


「あ、ああ。大丈夫だ」


 大丈夫じゃない。

 はっきり言って、気分は最悪だ。

 …何だったんだ、今の。

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