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67.晴れる心、晴れぬ心

 陽桜家(ヒオウケ)について少し説明しよう。

 まず、親二人に兄・陽桜烈(ヒオウレツ)、妹・陽桜由姫(ヒオウユキ)の四人家族。

 烈と由姫は四つ年が離れており、俺たちと由姫が初めて会った時、俺たちが小学六年生の時、烈は高校生だった。

 由姫は病弱で、烈はそんな妹のために将来は医者になると、成績も良く素行も良く優等生で、高校も有名な所へ行った。

 だが、その高校は自分の家から距離があり、いろいろと話し合った結果父と兄が引っ越し、由姫と母が残ったのだ。

 本来は全員で引っ越せば良かったのだが、由姫は何故か今の町を気に入っており、烈が親に無理言って別れたらしい。

 その時に、俺たちと由姫が出会ったのだ。

 だが、俺たち、いや俺のせいで由姫は死に、病院で俺と烈は初の邂逅をした。


『お前のせいで!』


『お前のせいで由姫は死んだんだ!』


『お前が由姫を連れまわさなければ!』


『お前なんて…いなければ良かったんだ!!』


 酷く頭にこびりつく、俺を責める言葉。

 由姫の父親と母親は、どんな顔をしていたのか。

 烈は、どんな顔で俺を睨んでいたのか。

 こびりつくのは言葉だけで、俺は顔を思い出せない。

 床を見てたのかもしれない。

 …ああ、そうか。

 “この顔だ”。

 “この顔で”俺を見てたのだ。


「俺は…お前を絶対許さない」


 その言葉が、

 表情が、

 記憶が、

 俺を凍りつかせた。


「何か言えよ、人殺しが!」


「………」


 ああ、ダメだ。

 塞ぎ込みたい。

 逃げ出したい。

 そんな事しか考えられない。

 何も成長してない。


「初めまして」


 そこに、輝雪が入ってきた。


「…何だお前」


木崎輝雪(キザキキセツ)(コウ)くんの友達です」


「…ほぉ。なら友達やめた方がいいぜ。こいつは人殺しだからな」


「ご忠告どうも。だけど、それは無理な相談かな」


「はあ?」


「わ、た、し、は」


「っ!?」


 ちょっ!?


「私は紅くんが大好きですから」


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


「はぁ!?紅を!?」


 腕に抱き付いて爆弾を落としやがったー!?


「っ、…いいご身分だな紅紅(クレナイコウ)。由姫を殺したようにこの輝雪とかいう女も殺すのか」


「紅くんに守られるほど私は弱くないので大丈夫です。べっ!」


 舌を出すって…子どもか。


「…くっくっく、くはははは!殺すだけで飽き足らず、今度は我が身可愛さに守ってもらうか!お前にピッタリだよ!」


 だが、輝雪のセリフに勝機を見たか、まくし立ててくる。

 でも、俺は…


「…ああ、そうだ」


 否定は出来ない。

 俺は弱い。

 今までも、守られながら戦ってきた。

 何も、出来ない。


「出来るよ」


「え?」


「紅くんは、出来るよ。何でも、出来る。(アオ)ちゃんも、(ショウ)くんも、火渡(ヒワタリ)さんも、皆紅くんに救われたんだから」


「…輝雪」


「…だからどうした。そいつが、そいつが俺の妹を殺したのに変わり無えだろうが!」


 そう言って、烈は走り去って行った。


「………」


「紅くん」


「…輝雪。…俺は、てえ!?」


 背中をばん!と叩かれる。


「全く!寂しかったんだからね!私の心はデリケートなんだから!もっと丁重に扱ってよね!」


「あ、ああ。悪い」


「…あと、由姫、って言ってたよね。あの人。蒼ちゃんが怒った時に言ってた…」


 …あれを覚えてたのか。


「…ああ、そうだ。軽蔑するか?」


 多分、この時の俺の顔はとても酷かったと思う。

 でも、輝雪は真面目な顔で返してくれた。


「…私だって、酷いことしたよ」


 ポツリと、雨の中、とても消え入りそうな声で、呟いた。


「中学時代、裏で皆を操ってたって言ってたでしょ?ユッキー何だけどね、酷い目会ったって前に言ったよね?」


「ああ。出会い頭のパンチとかドロップキックとか投げナイフとかだっけ?」


「うん。私もそれなりに対抗したんだ。それが、皆を操ること」


「………」


「表面の笑顔で近付いて、上っ面の言葉で騙して、チェスの駒のように思い通りに動かして、時には傷付けたりもしたよ。でもね、私その事に何も思わなかったよ。罪悪感も、何も」


「…輝雪」


「ごめん。今笑ってるのも、演技なのか、本物なのか自分でもわかんないや。…でも、これだけは言える。紅くんは罪の意識持ってる。後悔してる。だから、紅くんは優しいよ」


「…う、くぅ」


 耐えれなかった。

 多分、輝雪だったからだ。

 晶にも焔にも蒼にも、何を言われても泣けなかった俺は、今日初めて泣いた。


「よしよし」


「ぅ…く、子どもじゃひぅっ、ねえんだかっら」


「もう、泣まくりじゃない。濡れまくりだし」


「………うっせえ」


 今はまだ、俺は自分のことを許せない。

 だけど、いつかまた、俺は前を見えるだろうか。

 だから、俺は、


「…認めさせるんだ」


「ん?」


「俺の“正義”は、“日常”は、もう俺だけのじゃない。だから、撤回させる」


 許してもらおうとは思わない。

 だけど、こっちにも、譲れない物がある。


「ねえ、紅くん」


「なんだ?」


「…目が真っ赤でカッコつかないわよ」


「っ!?う、うっせ!」


「ふふふ、ねえ紅くん。あなたの日常には私は入ってる?」


「いや、入れてないが」


「ええ!?そうだったの!?」


「いやだって、お前俺より強いじゃん」


「そんなの晶くんや蒼ちゃんだってそうじゃない!」


「でもまだ、俺が助ける余地はあるしな!」


「…何よ、それ」


 何か呆れられてる気が…。

 だが、勘違いもされてるような。ちゃんと話した方がいいかな。


「なあ輝雪」


「なによ!」


「俺は強くなるぜ」


「あっそ!ご勝手に!」


「だからさ、いつかお前を助けれるようになったら、お前を俺の日常にも入れていいか?」


「っ!?え、ええいいわよ!その代わりお兄ちゃんもね!」


「お、おお」


 何で顔が真っ赤なんだ。


「…あれ?」


「お?」


 なんだ?天気が晴れて…。


「…なんか、御都合主義な天気ね〜」


「別にいいじゃん。それでも」


 それもそうね、なんて言いながら輝雪は傘を閉じる。…俺のだけどな。


「あ、そうだ紅くん」


「ん?なんだ?」


「紅くんが大好きって言ったの、嘘じゃないからね」


「んな!?」


「もちろんLIKEの方だよ」


「そ、そうか」


 や、やべえ。破壊力が。


「でも、いつかは…」


「ん?なんて言った?」


「ん?別に!さ、行こう!」


「うわわ!押すな!」


 自分の罪と見つめ直す時が来る。

 それはきっと、近いうちに。

 必ず。

 その時は…。


「…今度は、失敗しねえ」


 絶対に。

































 烈side

「クソ!クソクソクソ!」


 どうして、どうしていつもあいつの周りにはあいつを思う人がいる!!


「俺は…俺は由姫しかいなかったのに…」


 友達は多い方では無かった。

 高校は周りには優等生ばっかで、成績の事を考えると遮二無二勉強するしかなかった。

 自然と一人でいる時間が多くなった。

 そんな時、俺が頑張れたのは由姫のためだった。

 あいつのためなら、何でも出来た。出来る、はずだった。

 なのに、


「どうして、あいつがあああああああああ!!」


 許せない。許せない許せない許せない!


「…正義だ。“俺が正義だ”」


 そうだ。あいつが間違っている。なら、


「なら俺が、あいつを否定して“正義”になってやる」


 認めてなるものか。絶対に。


「その心意気、惚れ惚れしますわね」


「っ!?誰だ!」


 背後からいきなり!?


「そう構えないでください。怪しい者ではありません」


「いや、まるっきり怪しいぞ」


「いやだから…うーん。これは組織名言ったほうが早いですすね」


 …見た目は…黒ローブ。怪しさ全開だ。でも声は高いな。女か。


「………」


「警戒されちゃったわね。…まあ、いいわ」


 その瞬間だった。

 女の纏う雰囲気が変わった。

 表すなら…憎悪。


「私たちは“マキナ・チャーチ”。紅紅を許さぬ者」


「!!!」


 紅紅を…許さない。


「大事な大事な妹さんを殺された陽桜烈さん。とても苦しかったでしょう、悲しかったでしょう。そして、…憎かったでしょう」


「何故俺の名を!?」


 何故知っている!?こいつと俺は初対面のはずだ!?…なのに、

 なのに、

 なのに…

 …俺の心には女の声がとてもよく染みた。

 そうだ、紅紅が、憎い。


「なら、私たちと共に来なさい。そうすれば、紅紅を取り巻く状況を教え、打倒する力を与えます」


「…本当か」


「ええ。あなたの“正義”は、確実なものとなります」


 きっと口は釣りあがっていた。

 …面白え。

 御都合主義だな。でも、だからこそ、いい。

 都合がいいとか、怪しいとか、俺の名前知ってるとか、どうでもいい。

 俺の“正義”で、紅紅を否定できるのなら。


「…行くぜ。行ってやる」


「…いい返事です」


「あんたの名前は」


「私は____」


「そうか。____。俺に、力をくれ」


「いいでしょう」


 紅紅。

 俺はお前を許さない。

 待っていろ。近いうちにお前を、

 …否定してやる。

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