65.男女平等らしい
「じゃあ、俺も学校行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい紅くん」
舞さんは本当にいつも笑顔だなー。
そんな事を思いながら俺はアパートを出て学校へと向かった。
・・・
・・
・
「あはははははは!紅くんらしいわ!」
「うっせえぞ輝雪」
こいつは…。
「まあ、紅の不幸はいつもの事だから」
「ちげえ。巻き込まれただけだ。…というか首突っ込んだだけだ。俺が不幸なわけじゃねえ。周りが不幸なんだ」
「…そろそろ諦めて認めなよ、紅」
哀れみの目で見る晶と焔。
だが、これだけは譲れん。
「まあ、一時間目には間に合ったからいいじゃないか」
「そうね。…ふふ」
「こ、こいつ…」
そう、現在は一時間目終了して休み時間。
だが、
「体育か」
「休み明けに体育ってどういう教育よ…」
休み明けに動いた後というのは、果てしなく怠いものだ。と、しみじみ思うのであった。
そこに、
「おい、紅」
「ん?…葉乃矢か」
よし、名前は言えた。
「何の用だ?」
「何の用だ?じゃねえ。妹はどうだった」
ああ、その事か。
だが、それは、
「ああ、お前のおかげで間に合う。ありがとうな。あの後いろいろごたついてて、忘れてた」
正直、葉乃矢の事は忘れてた。
「いや、俺はいい。まあ、お前の言葉を信じるなら大丈夫だな、うん」
イマイチ信用しねえなー。
「だったら、ほい」
「ん?何だこれ」
「蒼のメルアド」
そう、蒼には「私に声をかけてくださった方にはこれを渡しといてください」と言われたのだ。
…名前は互いに名乗ってないようだし、俺もすっかり忘れてた言ってないのに、何故見知らぬ人と俺が同じ学校の生徒という事がわかるのか不思議でしょうがないが、まずいいとしよう。
「へえ、あんたの妹のねえ…はあ!?」
「良かったな。あんたは蒼に気に入られた。滅多に無いぜ。しかも自分からなんて、多分お前で二人目だ。誇っていいぞ」
蒼は極端に人見知りな部分がある。
まあ、過去に異端としてはぶられてた事もありゃあ、当然か。
晶とは俺繋がりで焔とはまだ溝が埋まってなく、アパートの住民ともそこまで親しくしようとはしなかった。(紫あたりとは上手くやりそうだが何故かこの二人は会ってない)
蒼が自分から歩み寄ったという点では一人目は多分由姫だから、こいつで二人目だろう。
そしてこのケースはかなりレアだ。兄の俺でさえ、最初は無理矢理だったしな。
「ええ!?蒼ちゃんが自分からメルアドを!?」
「嘘お!?あの雌ぶ…蒼ちゃんが!?」
「…意外ね」
晶は普通に驚き輝雪も目を見開いている。…焔、お前…。
「いいい、いいのか?」
「なんだ、異性のメルアドは初めてか?」
「いや、そういうわけでは無いんだが…」
なんかブツブツ「海は異性として認識していいのか?だが…」とか言ってるが…そろそろ時間だ。
「次体育だから考えるなら後にな。ほら行くぞ」
「あ、ああ。…ちょっと待て?お前、こんなもの預かっておきながら俺のこと忘れてたのか?」
「…行くぞー」
「忘れてたんだな!?」
「あ、あとあいつ独占欲強いから頑張れよ!」
言うだけ言って全力ダッシュ。
…うん、「おい待てやああああああああ!!」この程度なら逃げきれる。
「ちょっと!置いてかないでよおおお!」
…焔からも。
・・・
・・
・
「今日は自由!自分で考えてやれ」
何ともありがたい自由体育。楽できる!
「ぜぇ…ぜぇ…し、死ぬ」
「いや、流石に疲れすぎじゃないか?」
「にゃー」
「うわあ!どっから出たの!?」
パズズを見て焔は驚きの声をあげる。
…なんか、今日の焔はうるせえなー。
「どっからって…最初からいたぜ」
「嘘!?全然気づか「にゃー」にゃああああああ!?」
おお、背後からクロが現れ不意打ち。知能があるからやりたい放題だな。
「あはは!紅くん聞いた?にゃああああああ!?だって!」
「「「声真似うま!?」」」
未だに俺は輝雪がわからない。
「ふっふっふー、これでも私は中学生の卒業式には“百面相”と言われた女!声真似ぐらうちょろいもんよ!」
「凄え!何が凄えかって卒業式に百面相って言われてんのが凄え!」
何があったんだ卒業式!?輝雪が一発芸でもしたのか?
「うんとね、中一の春から裏で皆を操ってるのが卒業式に暴露てそう言われた」
「「「すごっ!?」」」
中一の頃から暗躍して、暴露たのが卒業式ってどういう事!?
「…苦労って、ああいうのを言うのね」
「「「………」」」
例の、輝雪にトラウマ埋め込んだユッキーなる人物が関係あるのだろうか。
「まあ、いいわ。三人はここで何をしてるのかしら?」
「休んでる」
「僕も」
「私も」
満場一致だ。
「あ、じゃあ協力してくれない?」
「「「はい?」」」
輝雪の協力要請はろくなのが無い。
何故なら、輝雪自身十分に危機に対する能力を持ち合わせているのだから。
「じゃあ、ドッチボールで私が勝ったら諦めてくれるのね?」
「はい!」
彼の名前は…知らん。Aでいいよ生徒Aで。
理由を聞くところ、生徒Aは輝雪が好きらしい。まあ、入学当日の騒ぎを見れば、輝雪がモテるのはわからなくない。
だが、どうやらこの生徒Aはうんざりするぐらいウザい(輝雪談)らしく、いい加減うんざりらしいのだが、とにかくしつこいらしい。どのくらいかと聞くと輝雪は顔をしかめた。
さらにはこの生徒A、なんか、知らんが輝雪に公衆の面で告ったらしい。全く知らなかった…と言ったら有名な話だよと焔に呆れられた。うっせえ。
だが、振られたにも関わらず、この男は付きまとい、それで今回のドッチボールだ。
ルールは簡単。相手を倒せば自分の望みが叶う。それだけ。
そして生徒Aは人数制限をしたらしい。何故かはわからない。その人数制限というのが五人。
で、今回選ばれた五人は輝雪、俺、焔、晶、葉乃矢だ。
葉乃矢が急に上がっては?と思った諸君。彼は巻き込まれただけ。もう一度言おう。巻き込まれただけ。
「で、そっちの他4人は?」
「ふ、彼“女”たちだ!」
彼、“女”?
「「「「はーい♪」」」」
「「ぐっ」」
これで晶と葉乃矢は使えなくなった。
「あ、あんたら…」
「ご、ごめん輝雪…。でもほら、この人健気じゃん?ふられても頑張るって」
「ちょっとそういうとこに、ね?」
「恋する人には平等でいたいし…」
「ご、ごめんね?」
さらには輝雪の友人らしい。
…なるほど、それで“五人”か。
「これは…厳しいわね」
そう、輝雪が呟く。
「ちょっと、やりにくい」
と、晶。
「というか、何で巻き込まれてんだ?俺」
諦めろ葉乃矢。
「大丈夫!私がいるよ!」
「「「「いや、応援頑張って」」」」
大人しくしてろ、焔。
「私の扱い雑じゃない!?」
とりあえずパズズとクロを葉乃矢の友人である赤井 空と葵海に預けておく。
…さーて、どうすっかね。
「頑張りなさいよ葉乃矢!」
「葉乃矢ガンバー」
「…あいつら、子どもか」
「頑張れよ葉乃矢」
「お前もか紅!?」
「お前の頑張り次第で蒼との交際を認めなくも無い」
「どっから飛躍したんだおい!?」
はっはっは。何もおかしくはあるまい。
「じゃ、始めるか。みんな、ボール来たら俺に回せ」
「ん?考えでもあるの?」
「いいから」
「え、ええ」
そうやって、ゲームが始まる。
ボールは相手チームからだ。
「てええい!」
相手チームの女子がボールを投げる。
だが、
「ほいっと」
相手が悪い。輝雪にボールを取られないように当てるなら、それこそ銃弾のスピードで投げるか、裏をかくしかない。
まあ、銃弾はまず不可能だし、戦闘の中で生きてるような輝雪の裏を、一般人が出来るとは思えんが。
「紅くん!パス!」
「OK!それじゃ」
俺は輝雪からボールを受け取り、
振りかぶり、
全力で、
女子相手に、
投げた。
「きゃああ!?」
「「「「え!?」」」」
相手チームの女子1はキャッチするも勢いを殺しきれず結局落としてしまう。
倒れる女子。
驚く相手。
目を見開く味方。
止まる動き。
凍る空気。
全てを無視し、俺は言い放った。
「まず一人」
「違うでしょ!」
スパーン、と小気味のいい音を出しながら俺を何処からともなく取り出したハリセンで叩く輝雪。
「痛いぞ輝雪」
「いや違うでしょ!?何やってんの!?」
「いや、皆が投げにくそうだったから俺が代わりに投げただけだが。お前があいつと付き合いたいなら俺はわざと当たるぞ?」
「さあ、試合は始まったばっかよ皆!紅くんにどんどんボール渡すわよ!」
「「「「「えええ!?」」」」」
体育館にいる全員の声が重なった。
お前、それでいいのか。
と。
「き、輝雪。私たち友達よね?」
「ええ友達よ?だから、“友達の嫌なことをする”あなたたちには注意が必要でしょう?さあ、殺っちゃいなさい紅くん!」
「「「ちょっ!?」」」
その後、女子相手に全力でボールを投げアウトにした後、輝雪がラストに生徒Aの股間にボールを当てるという荒技をこなし、男子全員を凍りつかせて終わった。
俺はしばらく女子から敬遠され、さらには上下関係というものが再構成され輝雪が名実ともに女子のトップになった。
…今回、俺に得無えな。




