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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
ゴールデンウィークでの日常
63/248

64.時の迷子

ガキィィィイイイイン!と金属が鳴り響く。


「何を!?」


和也(カズヤ)は剣は使わねえ!反応も遅え!テメエは、誰だ!」


パズズも一気に警戒モードに入る。

だが、


「…暴露てはしょうがないですね」


「っ!やっぱり!」


「だけど、そんな疲弊した体で何が出来ますか?」


「なっ!?」


口調が変わるのに驚きは無い。

だが、“軽く振るわれた剣に押し返された事に驚いた”。


「軽い軽い。身の丈に合わない力は身を滅ぼす…まではいかなくとも、十分にガタがくる程度にはダメージがあるようですね」


「ちく…しょう」


(コウ)!』


事実、風は先ほど(ジェネラル)を倒した時と比べて断然弱い。

体も思うように動かない。

そして、この状況に追い打ちをかけるように、さらに状況が動く。


「あと、一応下手に動くのもやめてくださいね。でないと」


「お兄ちゃん!」


「ふふっ」


(アオ)!」


輝雪(キセツ):偽が蒼の首筋に刀の刃を近付ける。

しまった!


「テメエら…何が目的だ」


「そうですねー」


和也の姿と声で喋る和也:偽。見ているだけで気持ち悪い。


「本当は、そこにいる(クレナイ) (アオ)の死体だけが目的だったんですよ。我々の目的のために、ね」


「「『っ!!』」」


「おっとっと、口をつい滑らすのは私の悪い癖ですね。何時までもゆっくりしてたら怖い風紀委員長さんが来てしまいます」


「ちょっとー。さっさと殺しちゃってよねー。人質があるうちにさ」


「っ」


こいつらは無駄に話す気が無いようだ。

にしても、怖い風紀委員長…九陰(クイン)先輩が?

だが、こんな時間がかかるか?

九陰先輩の事だ。多分、とっくに向かってきてくれてるはず。

まさか、


「お前ら…九陰先輩に何を」


「おや?私たちが何かやったと?嫌ですねー。そんなこと出来るわけ無いじゃないですか。まあ少し

、“何時もより魔獣に絡まれてるかもしれませんが”」


「なっ!?」


『魔獣を…けしかけた…!?』


本能が伝える。

…こいつらは、やばい。


「さーて、お兄さん?妹さんのために、素直に死んでくださいね?」


蒼の死体を欲しがってただけに、どうせ俺を殺した後に蒼も殺すだろう。

だが、俺にはどうする事も出来ない。

俺は…こんなとこで終わるのか?

誰とも知らない奴に、何処とも知れない場所で、無抵抗で殺されて、その後は蒼も殺され、死体は奴らのために使われる。

そんな事が、許されてもいいのか?

…許せるものか。

チャンスは…チャンスは無いのか。


「…あの」


不意に、蒼が呟く。


「なーに?子猫ちゃん」


「つまり、あなた達はもう話す気が無い。そう解釈してもいいのですね?」


「え?えぇ、そうよ」


「なら」


いきなりの事に、ちょっと驚いた様子を見せる輝雪:偽。

だが、俺も蒼の真意がわからずにいた。

その時、一気に状況が動き出した。

起きた事象は、3つ。

1つ目。


「なら、あなた達は用なしです」


ぐるん、と輝雪:偽が回る。

回る、回る、回る…逆転する。

頭と足が、逆転した。


「がっ!?」


「動くな!」


今度は蒼がその場を支配する番だった。

輝雪:偽は頭を地面に強打し、地に伏せる。

蒼は刀を奪い輝雪:偽の首に添える。


「っ!」


「しまっ!?」


その状況に弾かれたように、俺が動く。

和也:偽も、素早く下がる。

が、遅…え!?


「ぬおっ!?」


限界に近かった体に限界が来た。

ガクン、と俺の膝が崩れる。

それを見て、和也:偽は笑みを浮かべる。

剣を持った手を、後ろへと引き絞る。

あれは、投剣!?

そして、俺には避ける術が、無い。

そこに、2つ目に事象が起こる。

“鎖”が、和也:偽の手を絡め取る。


「なに!?」


「さっきは、世話になったな」


「和也…本物か!」


突然の襲来に驚くが、今はそんな事も気にしてられなかった。

和也もいるということは…。

そこに、スッと、和也:偽の前に現れる人影が出る。その人影は…とても凶悪な笑みを浮かべ…


「ば・い・が・え・し♪」


楽しそうに、心の底から楽しそうに、そして見るだけで心が恐怖を感じる満面の笑み。

和也:偽も、顔を引き攣る。


「消えろ」


笑顔一転、いきなり無表情になる“輝雪”が、和也:偽を吹き飛ばす。

それはもう激烈に、痛烈に、鮮烈に、吹き飛ばした。


「ぐっ!」


だが、和也:偽もそれだけでは終わらないようだ。


「まだだああああ!」


何かを放とうと、大量の力を集める。

集まった何かは光となり、どんどん大きさを増す。


「おい!なんかやばくねえか!?」


「お兄ちゃん!あれ防げる!?」


「わからん!」


「お兄ちゃん!こっちはどうすればいいの!?」


「ちょっとー!?私もいるんだけどー!?」


下は下で大騒ぎだ。

どう考えても、防げる規模じゃ無い。

唯一防御技のある和也が厳しいと言う。

さらに、和也:偽の仲間であろう輝雪:偽も慌ててる。相当やばいのだろう。

だが、ここで事象3つ目が起こる。


「消えなさい!リアリティ・トゥ・エン」


その技名は全ては明かされなかった。何故なら、超高速で飛んで来た黒い“何か”が、和也:偽にぶつかった…いや、“突進した”。


「「「「「………」」」」」


『強烈ですねー』


『まあ、あいつだよな』


『わお、派手ねー』


猫'sだけが普通だった。

パラパラ…と、突進したさいに激突した建物が崩れて行く。

その中から、むくっと起き上がる人影。


『途中で止まれよ!?』


「なんか危なそうだったし」


『いや!?これどう見ても和也…が二人ぃ!?』


「いや、こっちの和也はなんかおかしい」


いやー、なんか、皆おかしい気がするけど。

というか、さっきまでのシリアス感は?和也と輝雪結局どこにいた?九陰先輩は大丈夫なのか?


「さーて、蒼ちゃん」


「ええ輝雪」


「えーと、何カナ?」


後半片言になる輝雪:偽。


「とりあえず…私の姿やめろよ三下」


「ひぃい!?」


「ちょっと!違うでしょ輝雪」


そう言って蒼は、おもむろに輝雪:偽の指を一本掴み、“折った”。

…折った?


「ひ…ぎゃああああああああああああああああああ!!!」


「さあ、話しにくいからその姿をやめてもらいます?次は…」


俺が蒼に慄き、行動停止しているとまた、蒼は指を折ろうと…


「待って!違うの!私じゃ解除できないの!これはあっちのライがやっているの!」


それを聞くと、輝雪は和也に目配せして、和也が和也:偽改めライに近付く。

だが、その前に九陰先輩が首を振る。


「ごめん。気絶している」


「大丈夫だ。輝雪。悪いがそのままやってくれ」


「しょうがないわねー。…あ、紅くん。悪いけど離れててくんない?」


「え?何で?」


「指折るシーンだけで思考停止行動停止に陥ってる紅くんにこっから先は見せられないでしょ」


「お兄ちゃんは基本優しいですから。汚れ役はいつも私専門ですし」


「ぐっ」


何も言い返せなかった。


「だが、紅もこっちの世界に来るなら、慣れさせた方が良くないか?」


「は?これそんな日常茶飯事なの?」


「ああ、紅くんには説明するのわすれてたわね。いろいろ」


「またですか…」


蒼がもはや呆れてはいるのだが…。

というか、


「あんの!?こんな事が!?」


「そんな多くは無いがな」


「年に数回は」


あるのか。


「まあ、魔狩りも慈善事業じゃないからな。命かけてるわけだしな」


「それなりに報酬もある」


「ファンタジーが急にリアルに持ってこられた気がするぜ…」


まあ、いいんだけどさ。


「んー、じゃあ紅くんに決めてもらおう。紅くん。残る?」


「お兄ちゃん。無理だけはしないでくださいね」


そこまで言われると、なんか引きにくい。


「残るよ。どうせいつか経験するんだ」


「OK。じゃ・あ♪」


「ひぃ!?」


とりあえず輝雪はドSだと思う。


『…ねえ輝雪。ちょっと』


「なに?」


『おかしい。私たちの気配がしない。この人、正確にはあっちのライってのも、多分契約してない』


「なんですって…?」


雰囲気が一気に変わる。全員の目付きが厳しくなる。

契約してない?


「ライ…てのが姿変えるってんだったら、それは変装っていうより変身…だよな。それにこの精密さ…。猫の力じゃねえのか?」


「いい読みだ紅」


「さらに加えるなら、見た目を変えるなら幻惑系の神。有名なのはロキ。雷神トールがミョルニルを取り返す話とかの時、トールの変装が暴露ないようにフォローしたりとか、そこらへんから来てると思う」


「なるほど」


無名神では無いのか。厄介そうだ。


「さて、じゃあその力はどうやって使ってるの?」


「ええ、“エクス・ギア”!皆はそう言ってる」


「エクス・ギア…名付けたのは中二病患者ね、絶対」


「俺たちも似たようなもんじゃねえか」


勢いとかは大切だと思う。


「早く…早く…」


「何が“早く”何ですかね?」


「ひっ!」


「援軍でも来るのか!?」


だとしたらやばい。

もっと強いのがいたらそれこそ大変だ。


「さ、邪魔が入る前にちゃちゃっと聞き出しますか」


「う、ぐっ」


輝雪が輝雪:偽に刀を向け、脅す。

……ここだけ見ると、こっちが偽物だよな。

その時、ビイイイイイ!と音が鳴る。


「来た!」


「何だ!?」


「蒼ちゃん!抑えて!」


「はい!…きゃっ!?」


蒼が抑えようとするが、その瞬間輝雪:偽が光に包まれ、蒼が弾かれた。


「蒼!」


「大丈夫です!」


蒼はちゃんと着地し、怪我はなさそうだった。

しかし、


「…何だ、それは」


「ふ、ふふふ、緊急脱出ようのエクス・ギアよ。使うにはチャージ必要だし、チャージが終わってから少しの間しか効果を発動させる事が出来ないから時間に融通が効かないけど…一度発動させればもうどんな攻撃も届かない」


「っ」


「とんだアイテムね」


「紅!」


九陰先輩が叫ぶ。なんだ?


「こっちのライっていう奴も光ってる!」


「へえ…攻撃された時にでも使ったのかしら。抜け目無いわね」


吐き捨てるように言う輝雪:偽。


「………」


「そう睨まないでくれる?こっちだって指折られてるんだから」


「…蒼は殺させねえぞ」


「大丈夫よ。どうせ見張り用意するんでしょ?こっちもチャンスは一回って思ってたしね」


「そうかよ」


「そう怒らないでよ。いいこと教えてあげるからさ」


いいこと、だと?


「私はね?ゲームはやるよりも見る方が好きなのよ。だから、今回も任務で強制的に出されたけど、乗り気じゃ無かったのよねー。だから、腹いせみたいなもんよ」


「まあ、いい。情報が入るなら願ったりだ」


「私たちの組織は“マキナ・チャーチ”。これからも、“紅 紅、あなたの前に現れる”」


「「「「っ!!!」」」」


「俺の…前にだと?」


「そろそろ時間ね。じゃーね、“時の迷子”くん」


そう言って、輝雪:偽とライは消えた。


“エクス・ギア”

“マキナ・チャーチ”


そして、


「…“時の迷子”?」


完全に俺に向けられた言葉。

それが意味するものは、誰にもわからなかった。

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