58.記憶の欠片
「はっはっは…どこだ、くそ!」
「焦っても見つかりませんよ」
頭の上でパズズが冷静に指摘する。
…そんな事はわかってる。だが、背筋に走るうすら寒い“何か”はひたすらに俺を動かす。
「お前も、気付いてんだろ。何故かはよくわからねーけど、今すぐに行かなきゃなんないんだ」
「…ええ。わかってます」
普通に考えれば、そうないことだ。
蒼は俺と違って不幸が周りで起きやすいわけでも、不幸体質やら巻き込まれ体質でも無い。
一般人だ。どんなに特殊であろうとも、例え魔狩りの存在を知っていても、この事実だけは変わらない。
だから、普通に考えれば町中に散ってる魔狩りと蒼一人、どちらが魔獣と接触しやすいかは明白だ。
魔狩りが接触すれば共鳴転移で全ての方が付く。その後にゆっくり探せばいい。
筈なのに、
「お前が俺に言ってから、よくわかんねえけど、頭が変なんだよ。普通に考えれば蒼は魔獣には接触しない。なのに、“接触する”って確信している俺がいる!お前もそうだろ!パズズ!」
「…ですが、こう闇雲に探しても」
それも事実だ。
どこかに、手がかりは無いか。
「紅!」
「んな!?」
路地裏で絡まれている奴を発見してしまった。
………。
「風紀委員…」
「…仕事ですね」
例え妹に死が近付いていても、目の前の事から目を背ける事は出来なかった。
風紀委員の腕章は…運が良いのか悪いのか、ポケットの中に合った。
…ああ、もう!
「てめぇら!風紀委員の名の下に粛清だ!」
「「「げ!?」」」
振り返る3人の不良ども。
悪りいけど、憂さ晴らし及び八つ当たりだ。悪く思うなよ!
・・・
・・
・
経過時間3分。
「っし、終了」
きっちり全員叩きのめしておいた。
本当ならここで警察に引き渡すんだが、時間が惜しい。捕縛して電話をかけることだけした。
で、
「大丈夫かお前」
「あ、ああ」
…こいつ、どっかで見たことあるな。
「お前、名前覚えてないだろ。一応同じクラスだぞ」
「わ、悪りい」
全く覚えてない。
「白 葉乃矢だ。助かった。角曲がったらぶつかっちまってな。そんで絡まれてた」
「そうか。今度から気をつけろよ」
残念だが話す時間すら惜しい。
和也に言われた通り中途半端な俺は妹の命がかかってるというのに、こっちの方を優先してしまったのだから。
だから、別れようとすると、
(待って)
パズズが小声で話しかけてきた。
時間が無い今、少しイライラしながら返してしまったのは仕方ない。
(んだよ。急いでんだろ)
(彼から、蒼さんの匂いがします)
(本当か!?)
(風の神の加護持ちを舐めないでください)
それは嬉しい誤算だ。
「おい。葉乃矢って言ったか」
「あ、ああ」
「えと、俺の妹…ツインテールで、緑色の目をした少女見なかったか?」
「緑色?…ああ、見たぞ。というかお前に妹が」
「見たのか!?場所を教えてくれ!」
「ちょ、ちょっと待てって!」
ちぃ!今は1分1秒が惜しいってのに!
「何だよ!早く教えろよ!」
「いや、教えにくいっつーか何つーか」
くそ!はっきりしねえ!
だが、そんな焦りも次の言葉で消え去った。
「あいつ、悩んでたから」
「…え?」
悩んでた?
誰が?
蒼…が?
「待て…よ。…おかしいだろ。それ」
蒼は、怒ってたろ?
悪いのは全部俺で、あいつが悩む必要は無い。
合っているのは全部蒼で、俺が背負わなきゃいけない。
なのに、何で蒼が悩むんだよ。
「…あいつ、後悔してた。もう少し素直になれたらって。ここ数十分でとても後悔してるって」
「…何でだよ」
その後悔は確実に俺に言った事だろう。
だが、あいつが正解なんだ。あいつが苦しんでるのは、全部俺のせい何だから。
なのに、なのに…。
「…葉乃矢。今すぐに言え。蒼は何処に行った」
「だが」
「だがもくそも無え!!」
つい声を荒げてしまった。葉乃矢も目を見開いていた。
「わ、悪い。だけど、手遅れになる」
「…俺はその蒼って子と付き合って5分ぐらいだ。だから、おれはどうこう言える立場じゃ無いかもしれない。だけど、言わせてもらうぞ」
葉乃矢の目は、まっすぐ俺の目を見た。
「もう、苦しめんなよ」
この先を右に曲がったところだ、と言われてお礼も言わずすぐに走ってしまった。
だが、あいつの言葉はしっかりと胸の奥に届いていた。
「…いい人ですね」
「あぁ。…もう苦しめねえ。俺は…蒼の兄貴だからな」
「…急ぎましょう」
俺は後のことは考えず、ただひたすらに、全力で走った。
・・・
・・
・
「そろそろ近くにいるはずだ!」
そんな確信は無い。だが、予感がする。ここの近くにいるという予感が…。
「何処だ…何処だ」
「…ダメです。見つかりません」
何処だ、何処にいる蒼。
もしかして、もう魔獣に…。
「っ!」
んなわけあるか!
マイナスな考えは捨てろ。
考えろ。
蒼は意味のない行動はしない…と思う。
なら、この先をどう行けば…。
「…何で、わからない」
「…紅?」
「何でだよ。今にも蒼が死ぬかもしれないってのに、何でだよ!」
俺は近くの塀に思い切り“頭をぶつけた”。
「紅!?何をやっているのですか!?」
もう近くにいるんだ。
頭が、心が、魂が、俺という存在が、確信している。
だが、間違ったらそれが間違いだとも気付けない。
道を間違えたら、それは蒼の死を意味する。
だから、だから!
“思い出せ”!
頭に、電流が走った…と思えた。
「っ!!」
振り返ったら、そこには影がいた。正確には、黒い“何か”。
「紅?」
「行くぞ!」
「行くぞって、場所がわかるんですか!?」
影は走って行く。
そしてそれを追いかける。
離されるも、追いつくもしない。常に一定の距離だ。
俺は、直感的にあの影が何か気付いた。
あれは、記憶の残像だ。
俺の記憶の欠片だ。
何故、とも思えた。
俺には残念ながら未来を予知する能力は無い。
なら、この影はなんだ?
だが、今はそんな事はどうでもいい。
こいつを、過去の俺を追いかければ、蒼に出会える。
その確信だけで、今は動いた。
「…ここ、だ!」
記憶はさらに流れる。
この先のT字路を右に曲がれば、蒼がいる。
角を曲がる。
そこには、
「蒼!」
蒼がいた。
安堵し息を吐く。
そして…
記憶の先が流れる。
飲酒運転のダンプが疾走する。安堵した俺は足を止めたため、蒼の所まで間に合わず退避。ダンプは蒼のいたところをスピードを緩めずに疾走。過ぎ去った後で確認するも蒼の死体どころか血痕も確認できず。1分後、共鳴転移によりエルボスへ。転移した俺の目の前に、
蹂躙された蒼の死体。
何だ、これ。
何なんだよこれは!
俺を突き動かしたのは、ただの恐怖だった。
蒼が死ぬ。
その恐怖だけだった。
「蒼!!」
走った。ただ走った。
目の前から光が現れる。記憶の中にあえるダンプだ。
あれが、蒼に接触する寸前に、蒼はエルボスに飛ばされる。
間に…合え!!
「っ!!」
俺は、ただ必死に手を伸ばし、蒼に触れた。
その瞬間、体が光に包まれる。
我が契約者・紅 紅に大いなる風の加護を与えよ!
頭の奥で、そのセリフだけが高く響いていた。




