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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
ゴールデンウィークでの日常
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56.今はただ

(アオ)に嫌われていた。

その事実だけで、俺は目の前が真っ暗になっていた。

体が力が抜け、膝から崩れ落ちる。


「あ、(コウ)


(ショウ)に体を支えられる。だが、それすらも意識の外だ。

俺は決めたはずだった。

もう、俺の日常は誰一人欠けさせない。

魔狩りだって、その一つだ。

なのに、俺は…。


「考えた事も…無かった」


「紅…」


「蒼は、いつも俺を慕ってくれて、だから、嫌われてるなんて考えた事も…無かったんだ」


「紅、僕や(ホムラ)だって気付かなかったんだ。しょうがない」


「しょうがなく、ない。蒼は常に俺の側にいたんだ。俺が気付かなきゃ、絶対に気付かなきゃいけなかったんだ。なのに、自分の事だけで、頭の中全部埋めて…。なのに蒼は、俺よりも辛かったはずなのに…」


俺の事が大嫌いだった蒼。でも、蒼はいつも俺のことを。


「俺は!蒼が由姫を大切に思ってたなんて知らなかったんだ!いつも自分のことばっかで!蒼だって、俺の大切な“日常”だったのに!俺はそれを蔑ろにしたんだ!」


全てを吐き出した俺に残っていのたのは、胸に穴が空いたような巨大な虚脱感だった。


「俺は、最低だ」


俺は、自分の覚悟がどれだけちっぽけな物か気付いてしまった。

もう、前を見たくなかった。


「それだけか」


だが、そこに届くのは冷たい声だった。


「お兄ちゃん、ちょっと」


「それだけかと聞いている」


先ほどまで、いた事すら気付かなかった人物。

和也(カズヤ)だ。


「で、お前は今日どうする」


「お兄ちゃん!今紅くんは」


「輝雪。黙っていろ」


和也の放つ気はとても強大で、それこそ、輝雪に集中してなければ今の俺は、いや普段の俺すらきっと気絶してるだろう。


「っ」


「先に行っていろ、輝雪」


「…わかったわ」


そう言って、輝雪はここを後にした。


「和也」


「わかっている九陰(クイン)先輩も行ってくれ」


「…やり過ぎないでね」


九陰先輩は晶と焔にも出るようにジェスチャーを送る。


「え?でも紅」


「焔、今は出よう」


そして、和也と二人きり、いやパズズと見えないがコクもいるだろう。


「…何だその腑抜けた顔は」


「…うるせぇ」


「魔狩りをどうする気だ」


「うるせぇよ」


「自分で決めた道だろう」


「うるせえって言ってんだろ!」


俺は思わず和也に殴りかかる。が、


「甘えるな!」


「がっ!?」


逆に殴り返された。


「て、めえ…!」


「所詮お前はその程度だ」


「…んだと」


「自分のミスで人を殺し、自分の日常を大切にすると言いながら目の前の危機は見逃せない中途半端、弱いくせに出しゃばり、勝手な勘違いを起こした挙句妹に嫌われてる事を知り挫折、さらには自分から始めると言った事さえ投げ捨てる。所詮お前はその程度の小さな人間だと言ってるんだ!」


「っ!…てめえに何がわかる。てめえに、何がわかってるってんだ和也!こっちだって精一杯なんだよ!一生懸命やってんだよ!だけどもう無理なんだよ!全て全てが空回り!もう俺にこれ以上何をやれってんだよ!」


「知るか」


和也はただ、突き放す。


「それはお前の決める事だ。俺には関係無い。だが一つだけ言っておく。お前がこのままいると言うのなら、お前はまた失うぞ。…行くぞ、コク」


そう言うと、和也は扉へと向かう。コクはまるで、影から漏れるように現れる。その目は俺を見下していた。


「…今のお前、つまんねえよ」


「…黙ってろよ」


ただ、そう言い返すしかできなかった。

無音の空気感が一帯を支配する。


「俺…どうすりゃいいんだ」


何もわからなくなっていた。

何をやるのか、何を考えるのか、何が必要なのか。

自分という存在が希薄なっていく。


「誰か、助けてくれよ」


「助けるのはあなたでしょう?紅」


だが、不思議な力を持つ深緑の二つの瞳は俺をこの世界に繋ぎ止める。


「助けるって…何を…」


「わかってるはずですよ、正義の味方さん」


「…やめろよ、俺はそんなんじゃねえ」


「そうですね。あなたはそんないい人じゃない」


「…からかってんのかパズズ」


「さあ?どうでしょう」


こいつは、本当に何を考えてるんだ。


「だけど、周りは違うでしょう?少なくとも、晶さんと焔さん、何より蒼さんにはあなたが正義の味方に見えた」


「んなわきゃねえ。蒼は俺を嫌ってたんだぞ」


「本当に嫌ってる人が、あなたをあそこまで溺愛しますか?」


「………」


「私はそうは思わない。彼女は、混乱してるだけです。あなたの死が間近で迫ったために、ちょっと暴走してるだけです」


「…例えそうだとしても、あいつの、蒼の言った事は本当だろ。あいつは、俺が嫌いなんだ」


「あなたは蒼さんが嫌いですか」


「そんなわけねえ!」


つい、声を荒げてしまった。


「例え蒼が俺を嫌っても、俺が蒼を嫌う理由が無え!感謝こそすれ、嫌うなんてありえねえ!」


「ですがあなたは、蒼さんが迫ったら拒否してましたよね?」


「あ、当たり前だ!実の兄と妹だぞ!」


「ですね」


こ、こいつ…。


「で、少しは元気は出ましたか?」


「……は?」


「本当にあなたは世話が焼けますね。和也はあんなにも親切に正義の味方を引き立てる役目をしてくれてると言うのに」


「はぁ?」


どういうことだ?


「その様子じゃ和也の言った事なんか殆ど覚えてないでしょう。しょうがないので教えてあげます。

『お前がこのままいると言うのなら、お前はまた失うぞ』

と言っていましたよ」


「失う…?何を…?」


「ばっっっっっっっっっっかですねー」


いちいちイラつく。


「魔獣は一度出たら全滅させないと毎日出ます。特に夜。今も夜。和也たち魔狩りのメンバーなら、共鳴転移(マーキング)のおかげでエルボスに引き込まれても、私含む他の猫が反応、コンマ1秒のズレも無く一緒にエルボスに行けます。ですが、“一人”いるでしょう?パートナーの猫がいない人が。あなたの、大切な存在が」


「……まさか」


脳によぎったのは、紅 蒼。


「行くぞパズズ!!」


「ええ。あなたとなら、何処までもついて行きますよ」


もう、迷いは無かった。いや、やっぱある。

だけど、そんなものは後で悩めばいい。今は、走らなければならない。

突風のように、俺は夜の街を疾走した。

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