54.吐露
「………ん」
ここは…?
「起きましたか。紅」
「パズズか…」
最初、俺がどういう状況になっているかが理解できなかく困惑した。
「ここはあなたと晶さん、焔さんの部屋ですよ」
「…そう、か」
何か、静かなせいか最初自分の部屋だとはわからなかった。いつも部屋には晶と焔がいたからな。
布団が敷かれて俺はそこで寝ていた。何となく、体に包帯が巻かれている事がわかった。
…あれ?どうして俺はこんな状況に?
そう疑問を持つと、寝起きの頭がようやく動き始めたらしく、徐々に記憶が浮上してくる。
「っ!」
自分の中にある一番新しい記憶が浮かんだところで、俺は一気に飛び上がった。
瞬間
「~~~~~~~~!!!」
痛ええええええええええええええええ!?!?
背中の斬られた部分が一気に悲鳴を上げる。
「ぉぉ……おぉ」
痛みによって一時的に伸びた背は、ゆっくりと猫背へと変わっていく。
「…馬鹿ですか?」
「…怪我人に言うことかよ」
「そうですね。軽率でした」
「ならい」
「言うまでも無く馬鹿でしたね」
「いつにもまして毒舌が冴えて~~~!?」
くぅ…ツッコミすら出来ねえ。
「馬鹿だけでなく自分の怪我の状況すらわからない命知らずでしたか」
「お前…なぁ」
くそ、動けねえ。
そうやってパズズの毒舌に耐える準備を心の中でしていたら、次に掛けられた言葉は予想外のものだった。
「…一体、どれだけ心配したと思ってるんですか」
「…は?」
「あなたも知っていますよね。私が過去、三人もパートナーを殺している事を。もうあんな苦しみは味わいたくない。目の前でパートナーが死ぬのを、何もできずに見るしか出来ないなんて」
…そうだった。こいつは、俺より“死”というものを目の当たりにしてきたんだ。
「あなたは言いました。『だったら俺に任せろ。俺は死なない。死ねない理由があるからな』と。なのに、何で真っ先に死にかけてるんですか。何で誰よりも弱いくせに、誰よりも前に出るんですか」
パズズは俺の後ろで背中に頭を押し付けながら抱きしめてくる。人間の姿になったのだろう。
そして、パズズは少し泣いていた。
「あなたには死んでほしくない。あなたは私の心に誰よりも近付いた。過去三人のパートナーは私の“力”しか見なかった。あなたのようなパートナーはいなかった。そんな奴らの死を見ても、私はとても怖かった。だから、もしあなたが死んでしまったら、きっと彼ら以上にショックを受ける。そしたら…耐えられる自身なんて無い」
「パズズ…」
その恐怖を、俺は知っている。由姫の死を目の前にした時、生きた心地がしなかった。俺ももし、晶や焔、そして蒼たち家族が理不尽な死に会ったら、きっと立ち直れない。そんな力はもう、残っていない。
「紅、今ここにもう一度約束してください。もう、絶対危険な真似を、独断での行動をしないでください」
「いや、魔狩りでそれはほぼ不可の」
「い い で す か !」
「いででででで!!」
こいつ…傷に思いっきり額押し付けやがって!
「わかった!する!するから!」
「ならいいです」
こ、こいつ…。
「これで、私たちは運命共同体ですね」
「は、はぁ?」
何言ってんだ?
「聞いてなかったんですか?」
「何をだよ」
「言ったでしょう。『もしあなたが死んでしまったら、きっと彼ら以上にショックを受ける。そしたら…耐えられる自身なんて無い』と。あなたが死んだら私も自分の舌噛みちぎって死にます」
ナニイッテンダ?
「…て、ダメに決まってんだろそんなこと!」
「だったら、生き残ってくださいね?」
こいつ、何で生き生き喋ってんだ?
「…はぁ。わかったよ。お前、聞きそうに無えし」
「わかってるじゃないですか。死ぬ時は一緒です」
「りょーかいしましたよ。ったく」
どうしてこうなったんだが。パズズとは、まだそれ程の付き合いでも無い筈なのに。
「ふふっ」
だが、そんな思考もすぐに隅へと追いやられる。パズズの嬉しそうな笑い声が、脳裏を上書きしたからだと思う。
…顔見えねえけど、可愛いんだろうな。
「ロリコン」
「いでええええええ!!!」
心を読まれた!?
「ぐお…ぉぉ」
いっっっっっっってえ…。
「全く」
パズズは元の猫の姿に戻ったらしく、俺の頭の上に乗ってくる。
…こいつは。
「はぁ。何かどうでもいい」
「どうでも良くなって自殺はしないでくださいね」
「しねえよ。守るもんが増えちまったんだから」
「光栄ですね」
「お前とは言ってねえ」
「違うんですか?」
違わねえけど。
「ほら。みんなのとこ行くぞ」
「行ってどうするんです?」
「生存報告」
そう言ってゆっくりと立ち上がる。傷に響かないように気をつけながら移動する。
「みんなは木崎双子の部屋です」
「りょーかい」
そして、木崎双子の部屋の前まで来たところで、
『これ以上お兄ちゃんを戦わせないでください!』
狸寝入りをしたくなった。
活動報告にしばらく無理と書きながら書いてしまった…。反省はしている後悔はしていない。




