51.秘密披露宴
「くそっ、どうして、いつもいつも!」
妹を巻き込みたく無い。
たったそれだけの願い。
なのに、何故ここまで思い通りに行かない。
「お、兄ちゃん」
そこで気付く。
こんなとこに急に来ても、流石の蒼でも混乱す
「これがあなたの知りたかった事」
…は?
「紅。早く来る。いろいろレクチャーしながら行くから」
「いや、でも蒼が」
「大丈夫、だよお兄ちゃん。“このぐらい、覚悟してた”」
どういう事だ?蒼が知ってる?覚悟してたってどういう事だ?
俺の知らないとこで何が起こっている?
「紅、時間がありません」
「あ、ああ。頼む」
「ね、猫が喋った!?」
そこは驚くのかよ!?
「我が契約者・紅紅に大いなる風の加護を与えよ!」
不思議な文様が浮かび、発光する。その光に包まれいつもの装備一式となる。
「風よ」
風を纏い、戦闘準備万端。
「もういい?」
九陰先輩もすでに装備が変わっていた。黒いマフラーは顔の下半分を覆い、端も地に尽きそうだ。服の方は忍者の黒装束のようなイメージだ。腰には漆黒の小太刀が二刀下がっていた。
「ああ、いいぜ」
「変身してる!?」
…とりあえず、
「説明は後でする!行くぞ蒼!」
「はにゅわ!?」
蒼を抱える。
この世界に安全な場所なんてない。その場にとどまる事が一番危険なのだ。戦える俺や九陰先輩の近くにいた方がいい。
「賢明。急ぐ。魔獣の強さに決まりは無いから把握してないうちに戦うのは危け」
その瞬間、鈍色に怪しく輝く騎士のような“何か”が剣を振り上げていた。
「九陰!!」
思わず呼び捨てにしてしまうが、気にしてられなかった。
「…シッ」
だが、九陰先輩は慌てず、腰に下がっていた小太刀二刀を抜き放ち、瞬く間に相手を何度も斬りつける。
騎士?は見事に解体されていた。しかも、よく見ればガードの薄い手足の関節、鎧の継ぎ目など、斬りやすい場所だけが斬られている。
「相手の強さはわかった。対して強くない」
「あんたが強過ぎなんだよ!」
「血が掛かってるよ!?」
ああ、そういえば九陰先輩に盛大に騎士の血が掛かってる。…これを見てどうも思わない俺はもう元の日常には戻れないんだよな。
そういえば、九陰先輩の属性って?
『おーい。そろそろ行かないといけないんじゃね?』
そこで、聞き慣れない少年のような声が聞こえた。
「白夜、黙って」
『えー。今までずっと黙ってたろー?少しぐらい喋らせろよ。俺は九陰みてーに無口じゃいられんっつの!』
「私は白夜がなんでそれだけ無駄口叩けるか知りたい」
そんな会話をしているうちに騎士?が集まる。
「…どうすんだよ、これ」
「斬り抜ける」
「だからどうや」
「言葉にまま」
瞬間、黒い“何か”が九陰先輩を覆う。
「な!?」
それは染み込むように、それはまるで、空間に穴が空いてるのかと思うような黒へと九陰先輩は染まっていった。
「白夜」
『へーへー。ま、好きにやれ。フォローしてやる』
騎士?が近付く中、あくまで冷静に、というか自然体で会話する。
『3、2、1、0!』
「始動」
視認出来なかった。
血が飛び散り、何滴か付着するが、そんな事は意識の外だった。
首が飛ぶ。体が分断される。四肢が解体される。
切り口も綺麗だ。全て一太刀で斬られている事がわかる。
「お兄ちゃん!」
「っ!」
しまった!後ろから迫っていた事に気付かなかった!
だが、俺の頬を掠めるように黒い線が空間を走る。
黒い線は騎士?の兜を凹ませ隙を作る。
「お兄ちゃん!昔みたいに!」
すると蒼から叫びが入る。
昔。
それは、“正義ごっこ”を示している事だと、すぐに気付いた。
頭に痛みが走る。
「っ!」
蒼を降ろした瞬間、蒼は体を丸め、地に手を付ける。そして一気に手の力で飛び上がり、同時に足を伸ばす。
ボーガンのような勢いを持った蹴りは騎士?の顎を撃ち抜く。
「ラァッ!」
喉元が晒され、反射的に貫手のモーションを取り、刺す。
だが、それだけでは騎士?も倒れない。剣を振り上げようとするのが見える。だが、一歩遅い。
「突風の一撃!」
手に力が送り込まれ、大量の風の奔流が発生する。敵の体内を荒ぶる風が掻き毟る。
騎士?はまるで水風船が破裂したように破裂し、鎧だけがガシャガシャ落ちていく。
「こっち!」
九陰先輩が叫ぶ。すでに何十という数の亡骸が転がっていた。
俺が蒼の手…というか足を借りて一体倒すうちに、九陰先輩は単体であの数を全て殺ったのだ。
…強え。
「行くぞ!蒼!」
「うん!」
蒼の手を取り九陰先輩の開いた道を進んで行く。他の騎士?が道を塞ぐ前に。




