44.「絶望を表すなら何色?」「蒼でしょ」
「ふぁ~、ねみ」
公園のハウス遊具とかいうらしい場所で横になる男子高校生。
見た目不良。
夜。
ここまでの条件が揃っていて捕まらない奴はいないだろう。
そんな条件を全部クリアしちまってるのがこの俺、紅 紅という事実に涙が出そうだ。
そして、気付いた。
「生肉じゃ無くて、ウインナー食べときゃ良かったな…」
今更だがな。
「さて、どうすっかな」
中学の頃は晶や焔の家に泊まったもんだ。
最初の数日間は公園で野宿。残りはギブアップで二人のどちらかの家に泊まる。
懐かしいな。
だが、今は本当にやばい。
泊まる場所が無い。
「…はぁ」
とにかく、今は目先の事だ。5月とはいえ、まだ肌寒いしな。ダンボールとかどっかに落ちてねえかな?
「………ん?」
体を起こし、少し周りを見渡した。
そこで、あることに気付いた。
「…喧嘩か?」
向こうで何か言い合う男女の二人組がいる。痴話喧嘩か?でも、今は深夜だぞ?
それに、なんか不自然だ。女の方はバッグを気にしてる。
普通、言い合ってる時にバッグ何か気にするか?
そう考えていると、男は翻し、行ってしまう。ところで、
…女が動いた。空いている手をバッグの中に入れ、引っ張り出す。手には、月明かりを反射し、鈍く輝く刃。
「やばい!」
そこまで認識した時点で、俺はハウスから飛び出し、走り出した。
「危ない!」
思いっきり叫ぶ。女は驚き、男も女の手の中にある物に気付いた。
焦った女は、握っている刃、包丁を突き出し…
・・・
・・
・
「お兄ちゃん!」
「紅!大丈夫!?」
「無茶しないでよ紅!」
場所は警察署。
昨日の事と夜中に学生がいることについて聞くため、仕事熱心な警察官に夜中の内に引っ張られた。
その後、いくつか質問と注意をされ保護者の代理という事で舞さんに身元引き受けという事で来てもらった。のだが、
「お前らまで呼んだ覚えは無いぞ」
「あらあらー」
蒼、晶、焔までちゃっかりついて来ていた。
「お兄ちゃあああああああーーーーーて、その手どうしたの!?」
蒼は俺に抱きつこうとしたところで、急停止。手の方を見る。
俺の手は今、両方とも包帯を巻かれていた。
「ああ、これは昨日」
そして、蒼にスイッチが入ったっぽい。
「…誰だ。お兄様を傷付けた輩は。ああ?自分で悪いことしといてお兄様を傷付けるとはいい度胸ですね。ふふふ、お礼に何かしてあげませんと紅 蒼の名がすたりますね。お兄様、誰ですかお兄様を傷付けたクズは。あ、いえ、やはりいいです。自分で調べます。時間があった方が拷問の内容考えるのにちょうどいいですからね。さあ、何をしてあげましょう。まず爪の間に針をぶっ刺してあげましょう。そのあと痛みから開放してあげるために爪を剥ぎます。どんな悲鳴を上げてくれるかいまからゾクゾクしますね。その後は丁寧に関節の一本一本を折って上げましょう。折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折って折ってリアル軟体人間を作りますか。体が柔らかくなりますし、相手も喜んでくれますよね?そのあとは皮膚を焼き石を使って焼きます。全体をこんがりと黒くなるまでね。あとは舌を抜きますか。眼球を潰し、耳をブチ切り、頭蓋を割って脳内をぐちゃぐちゃにかき回してそれで内臓を一つずつ潰していきます。いまから楽しみです。なら、用意すべきは裁縫用の針にペンチにゴム手袋に眼球はホルマリン漬けにでもしましょうか?ああ、かき混ぜるさいには何を使いましょう?ガラス棒?箸?泡立て器?ハンドミキサー?すりこぎ?いっそゴム手袋も手に入れるんですから手でかき混ぜるのもいいかもしれませんね。あとは頭蓋割るのにトンカチも必要ですね。血を被らないためにレインコートも買いましょうか?身長がばれないように大きめのかっと厚底の靴も買いましょうか。捨てる場所は勿論別々。ああ、遊んだあとは燃やすのもいいですね。樹海の奥で眠らせるのも。海に鎮めるのもありでしょうか。死体を捨てるならゴミ袋が欲しいですね。ふふ、ふふふふふふ、心がズタボロのゴミカスになるまで痛めつけて、肉体は歴史に刻まれるぐらいグロくして、ただ死ぬよりもよっぽど苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ苦シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ狂シイ死ヲ与エテヤリマスヨ」
『………』
「あらあらー」
途中止めようとするが、雰囲気がおかしくなりはっきり言って恐怖で動けなかった不甲斐ない兄。
晶と焔も口を挟めず震える。
そして、何故か平常運転の舞さん。
「オ兄様。安心シテ下サイ。オ兄様ニ仇ナス者ハ私ガキッチリ処分シマスカラ」
「安心できねえよ!?」
「優シイ優シイ愛シノオ兄様。心配シテクレテアリガトウゴザイマス。デモ大丈夫DEATH。生カサズ殺シマスカラ」
生かさず殺さずだろ!?
「待て!話を聞け!これはなあ!」
そう言って、俺は昨日あった事を話すことにする。
蒼の逆鱗を、鎮めるために。
・
・・
・・・
「危ない!」
俺は、もう間に合わないと思いながらも、そんな事お構いなしに走った。
全てがスローモーションのように流れて行く。包丁が少しずつ、男との距離を縮めていく。
ダメか…!
そう思った時だった。
足に、風が纏った。
「…は?」
急加速。
「うわあ!?」
驚きながらも俺と二人の距離は一気に縮まる。
…間に合う!
「行っけ…!」
だが、タイミングはギリギリ。掴む位置も考えてられなかった。
ブシュッ、と嫌な音がした。
「ぐっ…」
…つ…ぅう!
掌に火が着いたかのように熱くなった。赤い液体が流れる。
「あ、ああ…!私、そ、そんなつもりじゃ…」
女の人が慌てた様子で俺の手から包丁を離し、地面へと放る。服の裾を切り、手に巻く。
「ま、待って。ここに包帯が…」
「て、てめえ!俺を殺そうとしたのか!」
「っ!」
なーんか、ややこしいな。
「どういう、事だ?」
「はん!誰が教えるか!テメエもさっきの話聞いてたな!」
「いや、聞いてな」
「うっせえ!」
そう言って男は懐から銃を…銃?
「ちょ、待っ!?」
「死ね!」
ダアアアン!と、耳につんざくような音が聞こえる。咄嗟に上げた左手が弾丸をくらったのか、一瞬の後の灼熱が身を焼くようだ。
「ぐっ!」
弾丸は左手を貫通し、顔面へと近づき…。
「あなたはもうちょっと考えてください」
風が、吹いた。
「な、なんだ?」
「な、なに?」
弾丸が消える。
というか、さっきの声…いや、足に風が纏った時点で薄々思ってたけど…
「あなたに死なれたら、私も困るんですから」
「…パズズ」
猫を思わせる耳のように立ち、闇に溶けるような漆黒の髪。丈の合わない黒のロングコート。白い肌に可愛らしい顔。
…最初の時以来、見たこと無いけど間違うわけが無い。
俺のパートナー、パズズ
逃亡者生活終了のお知らせ、だな。
「だ、誰だ」
「女の子?」
「はあ。警察には電話しました。大人しくしててくれません?」
え?どうやって?
「いつかけたんだ!?」
「え?今ですけど。あなたがアパートに忘れてた携帯を使いました。制服の中に入れっぱなしでしたよ」
「…あ」
そうだった…。
「け、警察だと?ふ、ふ、ふざけるな!そこをどけ!」
パズズに銃を向ける男。ちょうどいい!
「私より後ろに気をつけた方がいいんじゃないですか?」
「え?」
遅え!
「両手の分だこの野郎!」
「片手は女だぶっ!?」
顔面に右足でハイキック。相手の体制が崩れる。まあ、ある程度手加減したからな。吹っ飛ばれても困る。
で、本命はこっち。
蹴りの勢いを使って体を思い切り回転。今度は右足を軸に一気に左足を相手の胴体へと埋める。回し蹴りってやつか。
「行っけええええええーーーーーーーーーーーーーー!!!」
全力で、蹴り飛ばす。
「へぶううううううううう!?!?」
男は気絶。
「はわわ!?」
女の人は。
、一人テンパっていた。
その後は落ち着きを取り戻した女の人が手を治療して、事情を話してくれた。
どうやら男は裏の運び屋で、結構危ない物を専門に取り扱ってたらしい。先程使った銃も、商品の一つだ。
女の人は夫と離婚していて、娘が一人いるらしいが、結構借金をしてたらしい。そんな時、娘が病気に掛かったそうだ。
お金が無い貧乏家庭。娘の治療に使える金なんて1円も無かった。
そんな時、男と会った。
その時、男も警察に疑われてたらしい。だから、自分の言うとおりに動く駒が欲しかった。そして、女にこの話を持ち掛けた。金と引き換えに…。
危険だが金が入る。全部終われば、必要な分の金をやる。
女は汚い仕事でも娘の為ならと、すぐに了承した。そして、必死に配り続けた。
そして今日、やっとか全てが終わった。後は金を貰うだけ。それで元通り。
…のはずだった。
男は言ったらしい。
“ご苦労。もうお前に用は無い”
だが、金を貰っていない。
“金?は、あんなもんお前を騙す為の口実だっつーの。騙される方が悪い”
そして、男は去ろうとする。それが、最初の部分だった。
後は知っての通り、女の人が包丁を突き出し、俺が止め、男が銃を取り出すが、パズズのおかげでぶっ倒した、と。
警察の人も来て、説明をしたとこで連れてかれることになった。
その時、女の人が悲しそうに言った。
“私、薄々わかってたの。お金を渡す気なんて無いんだろうな、て。だから包丁を持って来たんだと思う。結局、私もあの男と同じなのね。でも、君に会えてよかった。最後の最後で人を殺さずに済んだ。…止めてくれて、ありがとう”
パトカーに乗る前、女の人は飛び切りの笑顔で、行ってしまった。娘の方は、仕事熱心な警察の人が何とかしてくれるらしい。
…そこまで聞いたところで帰ろうとしたら、残った警察の人に「君も来るんだ」と言われ、署の方でまた女の人に会った時はとても微妙な空気が流れた。
ともかく、これが昨日起こった事だった。
・・・
・・
・
「と、言うことだ」
「あらー。凄いですねー」
「さすが紅だね」
「だねー」
パズズのとこは勿論伏せた。少女パズズはすぐ猫に戻ってアパートに帰って行った。
「だから蒼、余計な事はするなよ」
「一つ尋ねるけどお兄ちゃん」
良かった。元に戻った。
「その男の人って組織かなんかに所属してるの?」
ああ、そういえばそんな感じの事も警察の人が言ってたような。
「いや。単独らしい」
あれはさも当然のように。振舞った。ふっ、俺もレベルアップして
「なるほど。組織か」
「………」
え?こいつ何なの?
「ふふ、お兄ちゃんが私に隠し事なんて無理だよ」
「無理とか言うな!怖いから!」
もしかして心読めるのか!?
「お兄ちゃん限定だよ」
「読むなあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
いろいろ怖い妹。それでも俺の妹。
…何で兄妹でこんな違いが出るんだろうな?
・・・
・・
・
後日、ニュースで巨大な密輸組織が捕まったことが報道された。警察が見つけた時はほぼ壊滅状態で、全員の左手には何故か×印が付いていたらしい。
…この場合、俺は笑えばいいんだろうか?
どうしてこうなった…。
気分良く書いてたら蒼が怖過ぎて「あれ?これ大丈夫か?」と思い始めた今日この頃。
誰か蒼を止めて…。
何処までも蒼のターン。多分、次回も。
蒼「私のターンフェイズはまだ終了してないよ!」




