25.白木 刀夜②
「刀夜の部屋に入る時は気をつけてね」
と、冷華さんはいった。
「渡すだけならドアの前に置いとけば。?危ないから」
と、紫は言った。
「まあー、注意してれば大丈夫ですよー。死にはしませんー」
と、舞さんは言った。
「慣れれば平気」
と、黒木先輩は言った。
「やめておけ」
と、和也は言った。
「紅くんなら大丈夫じゃない?」
と、輝雪は言った。
結論:刀夜の部屋は何かある。
・・・
・・
・
「ここが、刀夜の部屋…」
「ちゃんと準備してから行きましょう」
「シュークリームは守るよ!」
魔王城前の勇者みたいな心境で、俺たちは刀夜の部屋の前にいた。
「じゃ、開けるぞ」
と、ドアノブに手を掛ける…直前で、
「ストップ」
紫の制止がかかる。
「どうした紫?」
「刀夜の部屋に入る前の必需品をすっかり忘れててね。届けに来たの」
「なになに?」
「それはねー」
紫は少し溜めて、
「知りたい?」
と、抜かしやがる。
「歯を食いしばるか、デコを地面に擦り付けるか、好きな方を選ばせてやる」
「すいませんでした」
流れるようなDO・GE・ZA。こいつ、慣れてやがる。
「…涙が」
「何で!?」
紫が驚く。いや、土下座に慣れる人生って大変だったろうなー、と。
「それで紫ちゃん。必需品て?」
ここで晶が話を戻す。ナイス。
「ふっふっふ。ならば教えて」
「開けるぞー」
待てなくなった俺はドアノブに手を伸ばす。
「ちょ!?待っ」
紫が止めようとするが、俺の手はドアノブに触れた。そして
「あばばばばばばばばば!?!?!?」
強い衝撃が身体中を駆け巡る。電気が流れるような…電気!?
「……かは」
『紅!?』
「あちゃー」
晶と焔が擦り寄る。紫はやっちゃった、という風な表情だ。
「今のはどういう事ですか?」
「刀夜の部屋のドアノブには、死なない程度に電流が流れてるの。で、必需品というのがこれ。ゴム手袋」
さっさと出せよ。と、言いたいが、紫の制止を無視して触ったのは俺だ。…それ以上に体が麻痺して上手く動かないだけだが。
「紅、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。もう動ける」
「…やっぱ紅さんって化け物だね」
「化け物言うな」
ぐっ。力が上手く入らん。とりあえず晶の肩を借り、立ち上がる。
「と、いうことで。焔、任せた」
「ええ!?私!?」
「大丈夫。焔ならできるよ」
「晶!気軽に言うけどさ!」
「お、完全回復。もう行けるぞ」
よっしゃ。じゃあ開けるか。しっかりとゴム手を装備。
「て、何を普通に動いてるの!?」
「うっせーぞ紫」
「なんで2、3分で回復できんの!?意味がわかんないんだけど!?」
「紫ちゃん。紅との付き合い方を教えてあげる。心の中で『紅だからしょうがない』と思えばいいんだ」
「そうだよ紫ちゃん」
「おいお前ら。俺の行動にいつもそんな風にして納得してたのか?」
『うん』
こ、こいつら……。
「あ、不思議と慣れました」
「慣れた!?慣れたのか!?本当に!?」
「はい」
「…俺、そんな不思議な人間か?」
「不思議と言うよりは奇怪かな?」
「やることなすことめちゃくちゃだもんね」
「人間じゃ無くて化け物かと思いました」
一言一言が俺の精神を削って行く。なんかもう……泣きたい。
「じゃ、私はこれで」
紫は満面の笑みで去って行った。…疲れた。
では、気を取り直して。
「行くぞ」
「うん」
「いつでもOKだよ!」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか、勝負!
ガチャ、と扉を開ける。目の前を見ると………
視界いっぱいに広がる巨大なハンマー。
「があっ!?」
バキッと俺の顔面を叩き、後ろへと戻ると、扉も閉まって行く。
「こ、紅。大丈夫?」
「代わろうか?」
「…いや、いい」
上等だ。だったら、
「全部叩き潰してやる!」
ガチャ、と扉を開ける。ハンマーがくる。
「らあっ!」
だが、このハンマーはよく見れば木製じゃねえか。だったら…
俺の拳の先一点に全体重と全力を集め、ハンマーに当てる。
…壊せる!
「はあっ!」
バキイイィィ、と鈍い音を出し壊れるハンマー。まず一つ!
「次!邪魔するぞ!」
一歩踏み出すと、カチリッと歯切れのいい音が鳴る。
すると、目の前から大量の矢が飛来する。
俺は上着を脱ぎ、思いっきり降り矢を落とす。
「これで終わりか?」
靴を脱ぎ、きちんと揃えて進む。部屋の構造は同じため、迷う事は無い。廊下を進み、刀夜がいると思われる居間を目指す。
そして、その居間の扉直前で、両側の壁が俺を挟む。
「ふんっ!」
だが、壊して進む!
そして、ドアノブに手を掛け、開ける。
「よっしゃ、これで…」
ゴール。
そう、言いかけた。
だが言えなかった。
だって、目の前には、
大砲が、あるんだから。
「…詰めが甘い」
俺が、間違ってるのか?家って、アパートの部屋探しって、普通大砲置くか?
…そうか。俺が相手にしているのは、“非日常”の住人。そもそも、常識で挑むのが間違い。
「…逝け」
「逝かねえギャアアアアアアーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
爆音と同時に巨大な鉄球が俺を捉える。ただの鉄球というとこには一応感謝。
その後、俺は意識を失い、自分の部屋で目覚めた。
シュークリームは結局部屋の前に置いたらしい。
…俺の頑張りは、何だったんだろうな。冷華さんとの話も聞けなかったし。
…はぁ。




