23.東雲 舞
「ちわーす」
「こんにちわー」
「こんにちわ」
「あら。皆さんこんにちわ」
現在、管理人室、東雲 舞さんの部屋にいる。いつも会ってはいるが、こうやって部屋に入るのは初めてだな。
「どうしました?」
首を傾げて、いかにも教えて欲しそうに尋ねる。こう見ると、本当に小学校と話してるように思えるから不思議だ。
まあ、それは置いといて。
「今、住居人の方々に挨拶して回ってるんですよ」
「あれが挨拶って言うかは微妙だけど、いろんな意味で衝撃的だったねー」
「ははは。そうですね。それで今、刀夜さん、という方にまだ挨拶してないのですが、何故か逃げるように何処かへ行ってしまって」
「暇だったんで、ここに来てみました」
「紅。はっきり言いすぎだよ」
でも、刀夜は何故逃げるように何処かへ行った?そもそも、逃げるって何から?あの状況だと、冷華さん?…まさかな。
「あらー。刀夜くんは、また逃げたんですかー」
「何からですか?」
「決まってるじゃないですかー。冷華さんですよー」
嘘…だろ?
え?何?あの人の反応はすっごい常識人だったよ?
そんでもって刀夜は、頭を秒殺するような化け物だぜ?No.2だぜ?
何処に逃げる理由が?
「刀夜くんは昔、冷華さんと付き合ってたんですよー」
『は!?』
三人の声がハモる。
「どどど、どういうこと!?」
「え?え?付き合ってたんですか!?」
「じゃあ、何で逃げるの!?」
「それはですねー」
舞さんは少し考えて、花のような笑顔を見せたあと、
「本人から聞いてください」
と、楽しそうに言った。せ、殺生な!
「えー?舞さん、いいじゃ無いですかー」
焔が不満そうに言う。
「ふふふ。後のお楽しみです」
「私は好きな物は最初に食べるタイプです!」
「あらあら」
舞さんは楽しそうに焔と会話すてる。そういえば、晶は?
「……………」
「?どうした、晶」
晶は部屋のある一点を見ていた。
「あ、いや。あれ、何かなー、て」
「あれ?」
晶が見ている方向を見る。そこには、少し大きめの黒い缶が置いてあった。
…黒い缶?何処かで見たような?
「何だろう?」
晶が、その場から立ち、その缶に近づく。
あれは、たしか……
『まさか…空間交差!?紅、逃げて!』
パズズのセリフが脳裏にフラッシュバックする。
「晶ストオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!!!」
「うわあ!?」
やべ。つい大声を。
「どうしたのさ紅。君はこれを知ってるの?」
「いきなり大声出すなんて、紅らしくないね。どうしたの?」
くっ!なんて切り返すのが正解なんだ!
「い、いや。人ん家の物、勝手に触るのはまずいだろ?そんで、つい」
「わかってるよ。別に触る気は無いけど」
「あ、ああ。そうか?ならいいんだ。うん」
「紅、どうしたの?」
やばい。疑われてる。
「別に何とも?」
「ふーん」
疑いは晴れない。どうすればいいんだGOD!
「あらあらー。ごめんなさいねー。私が言ったのよー」
ここで舞さんからの援護!やばい。後光が見える。
「舞さんが?」
「はいー。前に少し手伝ってもらってー。でも、あまり知られたくない事なので黙ってもらってたんですー」
「でも、凄く反応してたよ?」
「詳しくは話せませんがー、それー、とっても危険なんですよー。取り扱いには注意が必要なんですー。紅くんもー、身をもって知ってるのでついー、という感じかとー」
相変わらずほのぼのと喋る舞さん。
そして、たしかに知っている。危うく吸い込まれるところだった。
「そうなの、紅?」
「あ、ああ。悪い」
「なーんだ。もう、ちゃんと言いなよー」
晶と焔が交互に声をかける。
はあ、助かった。舞さんマジ感謝。
「まあまあー。とりあえず皆さんお茶どうぞー」
ニコニコと言ってくる舞さん。この人が本当に魔狩りでNo.1の実力者とは思えない。
その時、
「ニャー」
「可愛いーーー!」
そこには、紫色の瞳を持つ。決して普通では無い雰囲気を漂わす茶色の猫がいた。
この子が、舞さんのパートナー。
「舞さん舞さん舞さん!この子の名前何て言うの!」
興奮し過ぎだろう。
「その子はー、キラって言うんですよー」
「へえー!よろしくねーキラくん」
早速、撫でたり持ち上げたり、焔は猫を愛で始める。
「おいおい」
「あはは」
幼馴染と言えど、毎度この風景は圧巻だ。
「あらあらー。それじゃー、ちょっとお茶入れますねー」
そう言って、キッチンへと向かう。
「ふにゃ~」
「おーい焔、お前が猫になってどうする」
まるで、猫耳と尻尾が付いたような錯覚を覚える。
「持って来ましたー」
そこに、舞さんがお茶を持ってきた。
…のだが。
「きゃっ!」
『は?』
ビシャッ!と音が鳴る。
気付いたら、俺と晶は濡れていた。
「あわわー、すいませんすいませんー」
慌てながらも喋り方を変えないのは流石と言えた。
それにしても、舞さん。最後の最後でやってくれるぜ。せめてもの救いは、麦茶だったって事か。
そこで、こちらを凝視してる焔に気づく。
「どうした焔」
「あ、いや。…なんか、今の紅と晶を一緒に見ると、犯罪みたいで…」
犯罪?…あ。
見た目不良の俺に、見た目美少女の晶が濡れた状態で一緒にいる。犯罪かどうかは知らんが、勘違いされても仕方が無い状況だ。
だが、晶の前でそれは禁句だ。
「…焔。それ、どういう意味?」
同じ答えに辿り着いたのであろう晶の声は、絶対零度の冷たさを持っていた。
「あ!いや、これは!?」
慌てふためく焔。が、すでに遅い。
「焔あああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「きゃあああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!暴力反たあああーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」
目の前で繰り広げられる暴力。その光景を見る舞さんはと言うと、
「あらあらー」
どこか困ったように、そして楽しそうに見ていた。
…敵わないなー。




