22.黒木 九陰②
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
状況を説明しよう。前回、「お腹、減った」発言&倒れた黒木先輩に、俺が料理を食べさせていた(お手軽チャーハンを作った)。
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
「……………………………」
カチャカチャと音が鳴り響く。黒木先輩は、その小さい口に物を必死に詰め込む。その様は、小動物のように見えた。
………………少しだけ“可愛い”と思ってしまった。
「…………ふぅ」
食べ終わったらしい。
黒木先輩はお茶を飲み、一息ついたところで、
「おかわり」
まだ食うのかよ!?
・・・
・・
・
あのあと、黒木先輩はさらに三回程おかわりをし、見た目によらずの大食いっぷりを披露していた。
「ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした」
まあ、美味しかったのであれば、作る側のこっちも嬉しいのだが………さっきいきなり襲ってきた奴とは思えんな。
「さて、聞きたい事があるんだが、いいか?」
「さて、話があるんだけど、いい?」
同時に話してしまった。
「………………」
「………………」
よし。
「こっちから話すぞ」
「私から話す」
………………。
「おい。普通、客の用事から聞くもんじゃないか?」
「男なら、レディファーストが基本」
「残念ながら、俺の中じゃ男女平等が基本だ」
「残念な頭の持ち主ね」
「ああ?」
「女の子にモテるつもりは無いのね。でも、そういうものは社会に出てから役立つ」
「なら力仕事を選ぶよ」
「今に世の中、女がいない仕事を探す方が難しい」
「お前にゃ関係無え」
「それ以前に、あなたの質問は聞くに値しない」
「どういう意味d」
「『どうしていきなり襲ってきた』でしょ?」
「………………」
はーい。何も言い返せません。
「じゃあ、私の用事だけど」
「お、お前の質問だって聞くに値するかどうか」
「予想してみたの?」
「……………」
「たしかに無いかもしれない。でも、あったらどうするの?とても重要な事だとしたら?」
「……………」
「紅。あっちの言い分が正しい。一度聞いてみよう」
「そうだね。紅、一度聞いてみよう?」
「……わかったよ」
なんか、負けた気分だ。いや、実際負けたんだろうな。
「じゃあ、率直に言う。紅紅。あなたを風紀委員にスカウトしたい」
「………は?」
こいつ、今なんと?
「紅紅。あなたを風紀委員にスカウトしたい」
「あ、ああ。…何故に?」
俺が入ることで、何の利益があるんだ?
「まず、一葉高校風紀委員について説明する。一葉高校風紀委員は、放課後になってから完全放課字間6:00まで校内の見回り、放課後から7:00まで地域を見回りの2組に別れて行動する。この順番は班を決めて、週ごとにローテーション。私が今週校内だとしたら、来週は地域の見回りをする」
「おい。なんで一学生がそんなことしなきゃなんねえんだよ。校内はともかく、地域はやり過ぎだろ」
その時、黒木先輩の口が俺にしか見えないように動く。器用だな、おい。
んで、その内容は、
ま が り
………。
「私にも詳しく事はわからない。だけど、伝統だから」
「へえ~。不思議な伝統だね」
「でも、そういうのってやりたい人はいるのでしょうか?」
「何故か集まる」
「先輩もその一人ですか?」
「…まあ」
「そうなんですかー」
晶と焔の話は耳に入らない。魔狩り。つまりは学校も、魔狩り関係者の集まりってことか。そして風紀委員。つまり、パトロールついでに魔獣の警備、てことか。だが、それだけならメリットは無い。何故なら、警備するぐらいなら普通に学校の仕事関係無しにできる。時間も融通が効く。そもそも、魔獣を狩るための委員なのに、並行して町の治安も守るとか、かなり疲れるだろう。
「メリットはあるのか」
これがあるから、魔狩りは風紀委員に集まる。全員がそうじゃ無くとも、2、3人は俺と黒木先輩以外にいると思っていい。和也と輝雪がどうするかは知らんが。
「もちろんある。小さいけど、風紀委員は自由に特権を使える権利が与えられる。例えば、服装の自由とか、髪染めるとか」
黒木先輩はそこで一瞬タメをいれる。
「動物を連れて来れる、とか」
………なるほどな。そういえば、前に和也が言ってたな。たまに日中にも魔獣が出るって。それに、見回りだって、学校の外の猫を待たせたり、一度家に戻るよりは常に一緒にいた方がいい。魔狩りのメリットはこれか。
だが、一つだけ気になることがある。
「晶はどうなんだ?」
そう、晶だ。俺よりもずっと強い。
「たしかに、さっきの手合わせで実力が高いことは確認した」
おい!?さっきいきなり襲ってきたのは実力測るための手合わせかよ!?
「けど、ダメ。噂があるから」
『噂?』
三人の声がハモる。
「女の子扱いするとキレる」
『………………』
「その反応だと真実のようね。風紀委員はあくまで補助。喧嘩を仲裁したり、いじめを止めたり、最終手段で武力。だけど、自分に襲いかかる不幸は、なるべく無視。ナンパされようとも喧嘩売られようとも、ひたすらに流す。なのに、ナンパされた瞬間暴れ出し、しかも誰も止められない。そんな“危険人物”を風紀委員に置くことはできない」
「………………」
晶のテンションは一気の氷点下。でも、事実だしなー。
「だ、大丈夫だよ晶!私は何となく嬉しいし!」
「僕の女の子扱いですか?」
「違うよ!晶は強いから、一緒にいると心強いんだよ!紅がいなくても、私は安心できるし!」
「…おい。ちょっと待て。それって俺が風紀委員入る前提で話してるのか?」
「え?入るんでしょ?」
「何を勝手に」
「だって、パズズと一緒にいれるんだよ。ずっと家で一人ぼっちって、悲しいと思うんだ」
「…たしかに、家の食料勝手に食われてもな。近くに置いた方が安心か?」
「そういう意味で言ったんじゃないよ!?」
「とりあえず晶、元気だせ」
「あ、うん」
「急な話題変換!?私、ついて行けないよ!?」
「なら置いてくぞ」
「待ってよ!」
「わかったよ。 …ゴール地点で待ってる」
「この会話は何処に向かってるの!?」
「あ、風紀委員入るわ」
「だから待ってよ!」
「了解」
「あれ!?ゴールしちゃった!?」
「うるさいぞ焔」
「酷い!?」
「火渡さん。少し」
「焔、うるさい」
「………みんな、何か厳しくない?」
いや、だって。
『面白いから、つい』
「泣いちゃうぞおおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ちなみに、焔はもう泣いていた。泣きやますのに、とりあえず抱きしめて落ち着かせていた。黒木先輩が微妙な顔をしたのが気になった。
この後、シュークリームを渡し退散。
パズズは、風紀委員に正式に入った後に連れてこれるようになるらしく、学校に連れて行くのは、もうしばらくかかるらしい。
ついでに、刀夜はまだ帰ってない。
なので、舞さんのとこに顔を出しに行くことになった。




