21.黒木 九陰①
さてはて。これはいったいどういう状況なのかな?
手は両手共に背中に回され、俺自身は床に押し付けられ拘束状態。
さらに、そんなことしでかしてるのは、見た目は幼く見える少女。
さらにさらに、その少女はナイフを持って棍を構えている晶を威嚇、焔はなにがなんだか、と言った状態だ。
これが、俺たちと“クイン”の出会いだった。
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・・
・・・
1分前
「向かいの部屋だから」
冷華さんから部屋情報を教えられ、俺たちの先輩であり、風紀委員長でもある“クイン”という部屋の前にいた。
「ここか」
「ここか、て。数歩しか歩いてませんよ」
「そうだな」
さて、
「焔、GO」
「嫌だよ!?紅行きなよ!」
「はあ!?何で」
「ストップ。もういいから紅行きなよ」
断ったら……うん。生きていられる気がしない。さっさと行くか。
「はあ、行くぞ」
コンコン、と扉をノックする。
『どうぞ』
どこか氷を思わせるような声だったが、そんな事は気にせず早速中へ。
「お邪魔しまーす。引っ越して来た者ですが」
一瞬だった。
扉を開けた瞬間、滑り込むように黒い“何か”が襲いかかる。
俺も咄嗟にバックステップで回避しようとするが、腕を引っ張られ、足を払われ、そのまま前のめりに倒れる。
「ぐっ!?」
晶が棍を構えるよりも早く、相手は俺の背中に乗り腕を固定し、手に持ってたナイフを晶に向ける。
冒頭に戻る。
「……んだよ、あんたは」
「…先輩に対して、その言葉遣いは失礼」
は?失礼、だと?この状況を作り上げた張本人より俺が?…納得行かねえ!
俺は足を使い、強引に体を捻る。上に乗ってる少女はそこませ重くない。少女もすぐに背中から降り、距離をとる。俺も起き上がり構える。
少女は全体的に小柄。黒髪のショートヘア。前髪はヘアピンで留めている。
「…自己紹介。一葉高校2年、風紀委員長・黒木 九陰」
「…俺は」
「知ってる。紅 紅。氷野 晶。火渡 焔。三人とも同じ小、中学卒業。家も近く、生徒からの噂だと仲がいい幼馴染。氷野くんは棍を使えば、武力において、同年代で右に出る者はいない。火渡さんは1年の学年主席。人当たりも良く、友人関係も良好」
詳しいなおい!?
「そしてあなたは」
そして、こちらをみる黒木先輩。フン
、と鼻で笑って言い放つ。
「不良」
その一言にブチッと何かが俺の頭の中で切れる。一気に走りパンチを繰り出す。俺の頭にレディーファーストとか、とにかく女を優先するような言葉は無い。男女平等万歳。
「単調」
だが、黒木先輩は体を僅かに右にそらし、そのまま俺の右腕ど掴み投げる。
「のあ!?」
何とか空中で体勢を立て直し、着地。だが、次の瞬間には黒木先輩は目の前にいる。
「チッ」
思わず舌打ちをし、攻撃体勢に入る。考えろ。考えろ。考えろ。
今、俺はどんな体勢だ?膝をついてる状態。この状態からの蹴りはまず不可能。
パンチか?いや、あちらも予想してる筈だ。
相手にとって予想外、この状況にすぐ使える方法……
「っ!」
本能的にそばにあった本を投げる。
「な!?」
相手も流石に予想してなかったようで、一瞬隙ができる。
「もらい!」
「くっ!?」
思いっきりパンチを繰り出す。が、ギリギリで避けられた。
「…人の物投げるなんて」
「おいおい。これは喧嘩だぜしかもあんたから仕掛けてきたんだ。このぐらい許容範囲だろ?」
戯けてそう言うが、実際は余裕が無かったために繰り出しただけの攻撃。苦し紛れの一見だ。
なのに、それを聞いた黒木先輩は少し考えて、
「それもそうね」
納得しちゃったよ!?
「なら、私も容赦はしない」
そう言うと、ナイフを捨て、腰から(何時の間にあったんだ?)木刀を短くしたような物を二本取り出す。多分、木刀の小太刀版と言うとこだろう。それを逆手に構える。
「…行く」
「っ!?」
一瞬で距離を詰めた黒木先輩は、懐に入った瞬間、木刀を跳ね上げ顎を狙う。
はや!?
「くっ!」
「終わり」
そして、木刀が当たる瞬間、
「雪氷!」
俺の脇から晶の棍が飛び出る。空気を抉るように黒木先輩へと向かう。
その攻撃に瞬時に反応した黒木先輩は攻撃を中断し、素早く身を引く。が、棍の先端が黒木先輩の服に掠り、切れる。
「服が…」
驚愕の表情の黒木先輩。まあ、棍の突きが掠ったぐらいで普通、服が切れるなんて思わないよな。
「わりい晶」
「ううん、平気」
にしても、本当に底が知れないな晶は。昔は立場が逆だったのにな……。
「………」
無言で構える黒木先輩。
「………」
「………」
こちらも構える。
…この感じだ。
まだ2回しか殺ってない。だけど、感じることはできた。
部屋の中は静けさで満ちる。
感覚を研ぎ澄ませ。集中しろ。
その瞬間、俺の出す空気が変わる。
「……紅?」
晶は変化に気づき声をかける。黒木先輩はただ無言で見つめる。だが、先程より目は細くなった。
見極めから、警戒の目へと。
カチ、カチ、と時計の針の動く音が聞こえる。
そして、
「…………」
バタッと黒木先輩が倒れる。
『………へ?』
間の抜けた声を出す俺と晶。
「だ、大丈夫か?」
思わず声をかけるが、大丈夫か?いきなり攻撃してこないよな?
そんな思いを吹き飛ばす一言が、黒木先輩から発せられる。
「お腹、減った」
脱力してしまったのは言うまでもない。




