19.氷雨 冷華①
現在の俺の状況はこうだ。
・一葉高校1年3組在学。
・家を離れ、アパートで部屋を借りて幼馴染、火渡焔、氷野晶とフラットシェア中。大家は東雲舞さん。
・パズズと契約し、魔狩りの一員(仮)となる。
・俺たちが部屋を借りたアパートには、魔狩り関係者がいる。というか、焔と晶以外は全員そうだ。
まあ、こんな感じだ現在はアパートの住民に挨拶の準備をしている。何故なら、今日は全員揃っているらしいからな…。
「て、何で今日に限って準備してたお菓子を無くすんだよ!」
俺、焔、晶の三人はアパートの住民にお土産とお近づきの印として準備してたお菓子を探していた。
「ご、ごめん紅。焔が食べたそうにしてたから食べないように隠してたら隠し場所忘れちゃった!」
「晶らしくないよー」
だが、しょうがない。焔はいろいろと規格外だ。ごく稀に、「こいつは神か!?」と、思うぐらい凄いことをしでかす。ごく稀にだが。
だからこそ、晶も万が一を考えて少しでもわかりにくいとこに隠そうとする。そして、結果がこれだ。
「なあ。もう諦めて買い直さないか?」
「ダメ!いくら紅でも許さないよ!あれはお母さんが作ってくれたんだから!」
そう言われると探さなきゃいけなくなるのだからしょうがない。ついでに作ったのはシュークリーム、個数は40個だ。
「台所、タンス、テレビの裏に床底を確認しましたがありません!」
「ちょっと晶!私のタンスも見たの!?」
「今更何を……」
「しょーーーーーーう!!!」
こいつらうるせえ。
「晶、ベランダは?」
「そんな簡単な所に隠すわけないじゃないですか」
「でも一応」
そう言って俺はベランダへと向かう。そこで俺は、驚愕の光景を目の当たりにする。
「にゃ?」
パズズがいた。
口に大量のクリームをつけて。
「お前が犯人かあああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「ニャアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
食べ物の恨みは恐ろしいとは言ったものだな。
・・・
・・
・
「うにゃ~」
「よしよし。…ちょっと紅!何も猫相手に本気でどつくこと無いじゃない!」
「うっせえ」
猫?ああ、パズズの事か。そいつはそんじょそこらの猫とは違うからいいんだよ。…言っても理解されないのはわかってるから言わないが。
「………残りは24個ですね」
「パズズ、16個も食べたのか」
猫一匹がシュークリーム16個。どこに入ってんだか不思議だ。
「24・・・僕たちの分は無しですね。1部屋4個にして配りましょうか」
「そうだな」
「ええ~!?」
ついでに舞さんには初日に特別にジャンボシュークリームを渡している。すイ◯んサーを毎回見てる人なら心当たりがあるだろう。
「さ、配りましょうか」
「そうだな」
「…うぅ。シュークリーム」
諦めろ。それがお前の大好きな猫が招いた結果だ。
・・・
・・
・
さて、軽くアパートの説明をしようか。
このアパートは3階建てだ。1階には管理人室、つまりは舞さんの部屋と、みんなが集まるような居間、舞さんが食事を作る際活用する台所に食堂、さらに共通の風呂がある。
2階、3階が人が借りられる部屋で1階ごとに4部屋、計8部屋ある。
で、2階は3部屋、3階は俺たち幼馴染組と和也輝雪の双子組が借りて2部屋埋まっている。
で、これからまだ挨拶に行ってない2階の方々を相手にするのだが、
「…行きたくねえ」
というのが本音だ。だって、全員魔狩り関係者だぜ?好き好んで誰が会いに行きたくなるよ?
「こら紅!これからお世話になることだってあるかもしれないんだから、挨拶はちゃんとしなきゃ!」
「あーはいはい。わかったよ」
たしかに、これから戦闘中に顔合わせるかもしれないしな。
「じゃあ開けよう!ほら紅!」
「やだよ。晶行けよ」
「言い出しっぺの焔が行くべきでわ?」
「んもう。固い事言わずにさー」
「そう言うんだったらお前行けよ」
「………晶!」
「嫌ですよ」
「うう~!」
諦めろ焔。そして、何故先程から扉を開けることに躊躇してるかというと。
『…来るな!』
『逃がさない』
『…捕まってたまるか!』
『必ず捕まえる』
男女のやり取りが聞こえる。まず、男が女から逃げているのだろう。さらに、ズガン!ズガン!という音も聞こえる。こんな事があると、誰だって扉を開けたく無くなるだろ?
「じゃ、じゃあ行くよ」
ゆっくりと頷く俺と晶。
その時だった。
「っ!焔!危ねえ!」
「ふえ!?」
咄嗟に焔を抱き寄せ、横へ飛ぶ。顔が真っ赤だが、気にしてられるか!晶も素早く横へ飛ぶ。
次の瞬間、
バアン!と、勢い良く扉が開き、中から二人の人が現れる。一人は長身の銀髪の男。多分白木刀夜だ。もう一人は女性だった。髪は腰まで届くロングヘア。色は青紫。瞳も同色。プロポーションも良く、顔も全てのパーツが整っている。
・・・美人だった。一瞬見惚れてしまった。
と、俺が呆けていると、
「痛っ!」
足に痛みが走る。
見ると、焔がなんか不機嫌そうに俺の足を踏み付ける。
「何だよ!」
「知らない!」
…何が何やら。
「…冷華」
「何?」
「…まだ暴れるつもりか?」
冷華と呼ばれた女性は俺たちの存在に気付いたら戦闘体制を解いた。
「ごめん」
「…俺に謝るならこいつらに謝れ。…大方、挨拶しに来たんだろう」
そして、冷華という女性がこちらを見た瞬間、
「…っ!」
「っ!刀夜!」
刀夜は脱兎の如く逃げ出す。……挨拶できて無いんだが。
「あの、えーと」
焔が何かを喋ろうとする。そして、女性は焔の緊張に気付いたのか、落ち着かせるように微笑み、優しい声音で言った。
「とりあえず、部屋来る?」
それが、これからお世話になるアパートの住居人の一人、氷雨 冷華との出会いだった。




