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198.地獄絵図

「タイミング行きます。5秒前。3、2、1、ゲート解放!」


 目の前に空間の歪みが現れる。


「行ってらっしゃい。皆さん」


「はい。ここは任せました。と言ってもこっちじゃ数分ですけどね」


「……舞さん。……時間がずれる」


「はい。……では行きましょうか。刀夜さん。冷華さん」


 私は焔ちゃんと蒼ちゃんに手を振り、ゲートへと踏み込んだ。

 戦場へと。


 ・・・

 ・・

 ・


「シャイニングゥゥゥ〜〜、ビック、バアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!」


 踏み込んだ先、エルボスではすでに戦闘が始まっていた。

 そこに居たのは見知った人達でした。


「あら、遅かったわね」


「あら奈孤ちゃん。こんにちは」


「こんにちは。すでに何人か来てるけどどうする?」


「殺っちゃいましょう」


「慈悲は無いのね」


「嫌ですか?」


「大歓迎」


 人としてアウトな気もしますが、今は構っていられません。

 殺るからには殺られる覚悟も持ってしかるべき。

 容赦無く、迷いなく、圧倒的に、叩き潰しましょう。


「そちらから来てるのは誰ですか」


「最前線で暴れてる太陽(バカ)とサポートしてる(カッコつけ)と私。他にも私の軍団がいるわ」


「軍団……ですか?」


「さあ来なさい! 合言葉は」


『清算せよ!』


『粛清せよ!』


『抹殺せよ!』


「あんたらは誰のなに!」


『奈孤様の豚!』


「面倒だけどあんたらの骨は拾ってやるわ! 華やかに散りなさい!」


『YES! MY MASTER!!』


「生き残った奴はご褒美で踏んであげるわよ! 踏まれたい奴はキリキリ殺して来い!」


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


 突如現れた集団は謎の掛け声と共に上がったボルテージをそのままに、魔獣やら人間やらがいろいろ混ざった戦場へと駆け込んだ。


「……凄いな」


「びっくり」


「あれが私の軍団(カチク)よ」


「あれ。私の耳がおかしいのでしょうか」


 最近の言葉にはついていけません。


「まあ、私たちからは以上よ」


「……? あの、もう一人いましたよね?」


「ああ、ビーフさんね」


「はい。そのビーフさんです」


「寝返ったわ。舞さんの味方になんてなってたまるか、ですって」


「じゃあ殺しますね」


「まあ自業自得よね」


 あなたのことは敵として私の前に立ちはだかっているかぎりは忘れません。

 死んだ赤の他人を覚えててもしょうがありませんしね。


「では、私たちも行きましょうか」


「……ああ」


「うん」


「ああ、なら気をつけてね」


「はい。油断せず戦いますよ」


「ああ、そうじゃなくて」


『……?』


「“私の攻撃に当たらないでね”?」


 認識できなかった。

 逆に、何故気付かなかったのか不思議になる光景でした。

 奈孤ちゃんの背後に“それ”は浮かんでいた。

 “銃の壁”。

 そうとしか形容の出来ないものが浮かんでいた。


「さあ、狂乱の宴の始まりよ」


 その声を皮切りに、地獄の蓋を開けたような騒音爆音轟音が響き渡る。

 時々悲鳴が聞こえる気がするのは気のせいですよね。


「……冷華」


「うん」


「……ここから撃つぞ」


「賢明」


 そう言って、こちらの火力担当も銃撃を開始した。


「……凄いですね。これ」


「うちじゃ日常茶飯事だけどね。……でももうちょっと勢いが欲しいわね。もうちょい激励でも送ってあげようかしら」


「え"」


 思わず変な声が出てしまうが、奈孤ちゃんはそれを無視して息を吸い込み、叫んだ。


「あんたら! いつもの勢いはどうしたの! まさか去勢なんかしてないわよね!!」


『我々は男!』


「よろしい! なら遠慮などいらない! 仲間など気にするな! 目の前の敵を殲滅しなさい!」


『殺せ! 殺せ! 殺せ!』


「躊躇う者には!」


『死を持って清算させよ!』


「逃げた者には!」


『血の粛清を!』


「刃向かう者には!」


『力を持って抹殺せよ!!』


「狂って乱れて踊りなさい!」


『宴の時間だあああああああああああああああ!!!』


「ご褒美は私の靴を舐めさせてあげるわ!!」


『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 爆発的に勢い付く。

 肉が千切れ血が飛び悲鳴が上がる。

 ここは戦場とは到底言えませんでした。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 あまりにも私がいた環境とは違い、戸惑ってしまいます。


「やれば出来るじゃない。豚ども」


「誇らしげなのは良いんですけど……」


 私はその戦場をじっと見つめる。

 耳を済ますと、微かだが声も聞き取れた。


『ひ、ひぃ! 何だこいつら!』


『逃げろ!』


『ヒャッハー! 背中を見せたぜ!』


『血の粛清だー!』


『ギャオオオオオオオオオ!』


『鳴け啼け泣け! そして死ね!』


 私はそっと息を吸い、吐き出す。


「こっちが悪者ですね」


「最初から悪も味方も無いわよ」


 とってもいい笑顔で言われても、その言葉に「はいそうですね」と頷く気にはなれなかった。

 ……紅くんたちは修行中だったので、現地からこっちに来るはずですけど、早く来てくれないでしょうか。

 早くしないと、私の感覚が麻痺してしまいそうです……。

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