197.軌跡
(楽しみだ)
(何度も繰り返した)
(同じ時を)
(何千、何万と)
(いつもと変わらぬ風景を眺めて来た)
*
思い出していた。
今までの人生を。
何気無い日々が幸せだった。
何気無い日々を求めた。
自分だけが被害者の気がしていた。
*
(不思議な人間を見つけた)
(力も何も無い人間だった)
(だけど、少しだけ運命に好かれていた)
(僕はそんな人間に興味を持った)
*
自分が動けば世界が変わると思ってた。
世界は変わった。
だけど、それはそう見えただけだ。
変わってなどいなかった。
*
(今まで見たことのない人間だった)
(嫌々言いながら人を助けていた)
(そんなに嫌ならやめればいいのに)
(だけど彼はやめなかった)
(彼も満更ではなかった)
(その人間の成長が見たかった)
*
視野は広がった。
世界が大きく見えた。
特別に見えた。
変われたと思った。
進めると思った。
しかし、世界は変わってなどいなかった。
*
(舞台を整えた)
(登場人物を揃えた)
(物語を作った)
(だけどまだ足りない)
(ああ、そうだ)
(悲劇のヒロインを作ってあげよう)
*
力を手に入れた。
仲間が出来た。
環境が変わった。
だけど、何か違う。
俺の求めていたもの。
それが何かがわからない。
*
(物語は停滞していた)
(進展しない)
(だけど暇ではなかった)
(あの世界よりは面白い)
(作られるだけ作られて捨てられるような世界より)
*
そんな時、敵が現れた。
明確な敵だ。
倒すべき悪だ。
そう思うと、何かが満たされた。
これだ。
これが、俺の求めていたものだ。
*
(物語はついに動いた)
(ヒロインの死を乗り越えた主人公)
(相対するのは神)
(数々の戦いをくぐり抜けてきた先に待つラスボス)
(僕にこそ相応しい)
*
俺が望みは悲劇を生んだ。
人一人守れない。
俺はたくさんの人を傷付けた。
俺の求めていたものとは何だったのか。
心に闇が広がった。
闇の中に光が差し込んだ。
*
(ついに物語は佳境に入る)
(繰り返されたゲームもこれで終わり)
(後に待つのはエンディング)
(最後に残るのは神か、人か)
(僕か、君か)
*
大切な人に教わった。
大切な心に教わった。
大切な事に気付いた。
大切な望みが分かった。
大切な戦いが待っていた。
*
(さあ、これで最後になることを願おう)
(盛大なフィナーレを用意しよう)
*
この戦いで最後にさせる。
もう、繰り返させはしない。
*
「最初で最後の決戦だ」
(最初で最後の決戦だ)




