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193.マキナと白坂さん

(いやー、紅 紅も面白いこと考えるよね。僕を消したら世界がどうなるかなんて)


 あの時僕は「YES」と答えた。意味はちゃんと伝わっていることだろう。

 彼の想像通りなら。

 月島 雪音の意志を自己満足で引き継いだ彼なら。


(ふふ。楽しみだなぁ……どう僕を殺しにくるのか)


 でも、僕を倒すことは出来ない。

 ……いや。


(ああ。そういえば紅 紅は“半神”だったね)


 じゃあ、僕を倒すことも出来るかも。


「ねー、マキマキー。一つ聞いていい?」


(何かな白坂さん)


「その“半神”ってなに?」


 ああ、そういえば彼女たちは知らないんだったね。“こっちの世界”での呼び方を。


(半神。半分だけ中途半端に神になることさ。こっちじゃ“鬼化”と呼ばれてるけどね)


「ふーん。……前から思ってたけど、マキマキって異世界から来たの?」


(うーん……何て言えばいいのかな)


 こういう質問には困るな。

 別に隠してるわけでも無いけど言うべき事でもない。

 何かと言われてもちゃんとした答えがあるわけでもない。

 凄く曖昧だ。


(強いて言うなら、平行世界(パラレルワールド)、かな)


「ああ、よくあるifの世界の事だっけ? ……じゃあマキマキって次元でも飛んで来たの?」


(次元……まあ、そういう事かな。僕はこの世界よりも何百年、何千年と技術が進んでいる世界から来たんだよ)


 もう昔の記憶は殆ど覚えていない。

 ……いや。

 僕が忘れるなんてあり得ない。忘れてると感じてるならそれは、ここ何千年とロードしてないということ。

 僕にとって、二度と思い出したくない記憶。


「へぇー。あ、ねえねえ! 私とかダークとかウェザーとかそういう人たちもマキマキの世界にはいたに?」


(さあ、どうだろうね。ぼくは知らない。世界には人間が溢れかえってるんだ。特定の人間のみを探すなんて出来ないよ。それに……)


 その先を言うのを、僕はやめた。

 この先を言うには、記憶をロードしなくてはならないから。


「マキマキ?」


(……ん? あぁ、いや。思い出したくない記憶だったからね。……にしても不思議だね君は。僕はこの時間が千倍にも引き伸ばされた空間で延々と生きていろんな人間と触れ合ったけど、そんなこと聞いてくる人なんていなかったよ。というか、驚かないところも凄いし)


「いやー。私としてはいろいろと合点がいったんだよ? 普通に考えれば、魔狩りが使役する猫は地球にとってあまりにも異質な存在だから。マキマキが贈ったんでしょ」


(……どうして僕が贈ったと? 敵に塩を送るみたいな真似をすると思うんだい)


「ほら、よく言うじゃない。暇を持て余した神々の遊び、てね。マキマキは一柱だから神々じゃなくて神だけど」


(……へぇ。凄いね。その通り)


 この子はどこか他のマキナ・チャーチとも、魔狩りとも、人間とも、どこか異質だと思った。

 何かが違う。どこか人間らしくない。

 そもそも、普通の人間はエルボスに何日も在住しないものだ。

 マキナ・チャーチのメンバーも、全員地球で暮らしている。当たり前だ。

 エルボスには何もない。ご飯もオモチャもゲームも本も何もない。

 あるのは荒廃とした街のみだ。

 地球の生活に慣れた人間がエルボスで暮らしたら、数日ともたないだろう。

 だが、白坂さんは違う。

 少なくとも一週間はこちらにとどまる。僕と駄弁り続ける日もあれば、一人で何かする時もある。何かを持ち込んでる様子もないし、本当にその身一つだ。せいぜい食料を持ち込むぐらい。

 現実世界を蔑ろにしてるというわけではない。地球に戻ればしばらくは帰ってこない。あっちでも生活している。

 なぜ短期間でこちらとあちらを行き来し、そのギャップがあり過ぎる生活に耐えれるのか。慣れとかそういう問題じゃない。

 本当に不思議で不気味で異質な子だ。


「あ、そうだ。ねえマキマキ。何で鬼化を半神って呼ぶの?」


(ああ、実際には半神を鬼化と呼んでるわけじゃないんだ)


「どういうこと?」


(紅は鬼化から脱せただろう? だから半神。鬼化を僕のいた、こっちがわの世界では、神化、と呼んでいたよ)


「神化?」


(うん。感情の爆発をキーに精神と猫の持つ力の繋がりを爆発的に強めることで、猫の補助を無しに神の如き力をその身に宿らせる。この事を神化、と呼ぶんだ)


「へー。でも、あれは神様というよりは鬼だね」


(人の器が神の力に耐えきれず崩壊して暴走しちゃうんだ。その点、紅 紅は本当に幸運と言えるね)


 さらに、力もより多く引き出せるようになったはず。記憶も全部思い出したはずだ。

 今から戦うのが楽しみだな。


「何でマキマキの世界じゃそんなことやってたの?」


(随分と突っ込んで聞いてくるね)


「暇だしー。それに、戦いが始まったら死んじゃうかもしれないしー。今もうちに気になることは全部聞いておきたいのー」


(はいはい……。神化についてだよね。人の世は、いつだって争いだったのさ。僕のいた世界は技術が進んでいる世界だって言っただろう? おかげで一度戦争になれば大変でね。強い兵器を作る必要があった。だけどなかなか上手くいかない。強力な兵器作っても制御するための頭がない。さあ困った。……白坂さんならどうする?」


「急な問題提示!? ……うーん、やっぱもっともーーっと頑張って、制御出来るだけの技術を生み出すかな」


(なるほど)


 あまりにも当たり前な答えに、僕は思わず笑ってしまう。

 こっちの世界の人間が出した答えは、もっと残酷だった。


(不正解。正解は君たちだよ)


「私たち? ……もしかして、人間?」


(正解だよ)


 制御するにはかなり複雑な回路が必要だった。

 あれやこれやに命令し、イレギュラーに対し対応し、予想外のアルゴリズムにも適応する、そんな制御を可能にする。

 だが、どんなに技術を進めても難しい。だから技術者たちはついに、生命に手を出した。


(一番手っ取り早い方法でね。人間にその力を宿らせ制御させるのさ。無から有を作り、天候を操り、正しく神のような力を持つ兵を量産する。あいつらはこの事を、“神兵計画”と言っていたよ)


「神兵計画……」


(ま、失敗に終わったけどね。結果、補助装置として猫たちが作られたのさ。感情の爆発をキーに神化するという機能を残して)


「それが猫の正体なんだ」


(さらに、猫は適合者を見つけることで強い力を引き出させるけど、出力を弱めて誰にでも適合するように改良されたのがエクス・ギアね。もちろん、それにも神化の機能がついてるよ。こっちは任意で出来るけどね)


「ああ、陽桜 烈のあれね」


(その通り)


 まあ、エクス・ギアの神化は核となるエクス・ギアさえ壊せば元に戻っちゃうし、後遺症みたいなのも無いけどね。使いやすいっちゃあ使いやすいけど、やはり出力が下がる。


「ねえ。エクス・ギアでも猫並みの神化は出来るの?」


(ん? まあ、感情と密接に関わってるのは変わってないからね。頑張れば出来るよ)


「そっかー」


 ………………。


(一応言うけど、あまりオススメしないよ)


「はーい」


 絶対する気だ……。

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