190.テレビ
「大丈夫かー」
「大丈夫ですよカグヤ。紅はゴキブリ並みに生命力がありますから」
「……ゴキブリで悪かったな。というかカグヤ。いつの間に」
「先の間に」
「…………はぁ」
果てしなくどうでもよくなってきた今日この頃。
もういっそ、英気を養うためにこのまま寝ちゃおうかなー、と思った矢先。
それを許さない三人は目の前にいた。
「何勝手に寝ようとしてるのかな紅」
「さっさと起きようか紅」
「お兄ちゃん。死にたくなければ起きてください」
「何なんだよ! 俺が何したって言うんだ!!」
はっきり言って怒られる言われが無い。
だって普通に考えてみろよ? 領土戦行ってエルボス行ってバトって帰ってきた。
領土戦で幾らか時間はかかるが、エルボス内での事はこっちじゃ千分の一にまで凝縮されているのだ。千時間過ごしたってこっちじゃ一時間だ。
その上で、やはり時間は一時間と過ぎていないはずだ。なのに何故俺がこんな目にあう!
「いいから理由を教えろよ理由を!」
『………………』
三人は真面目な顔をして、何かしら目配せをしてから晶があるものを取ってくる。
そう、あるものを……何だありゃ。
「なに? そのデコり過ぎて失敗したブラウン管テレビみたいな物体は」
晶が取り出したのは今となってはもうお目にかかることも難しいブラウン管テレビ。縦、横、高さがそれぞれバランスよく整っている。
だが、問題なのはデザインだ。
毒々しいほどにカオスな色使いに、無闇矢鱈とビーズや何やらが張られている。
間違いなく、俺が領土戦に行く前は存在感しなかったものだ。
「……紅が行ってすぐに届いたんだ。誰が送りつけたかはわからないんだけどね」
「使い方がわからず四苦八苦していた二人のところに私が現れ、点ける事には成功者しました。しかし、流れた映像には少々問題がありました」
「問題……?」
「今から見せるよ」
焔がテレビを操作し、点ける。
少しジラジラとした画面の後に、徐々に映像がクリアになり、そこに“あり得ない”物が映し出される。
継続的に流れる破壊音。
断続的に聞こえる叫び声。
そして画面の中心には……闇を撒き散らす鬼。
「なん……なんだよ」
パズズも目が釘付けだった。ならないはずがない。
見覚えのある光景だ。いや、見覚えのあるない以前の問題だった。何故なら、“ついさっきまでの映像だから”。
鬼化した俺と、和也たちの戦闘の映像だった。
思わず左眼を抑えてしまう。ズキズキと目の奥で何かが弾ける。
何で……こんな……
「な、何なんだよこれ!!」
叫んでいた。
叫ばずにはいられない。
頭は混乱していた。いまだ思考がまとまらない。
あり得ない。
あの状況でこの戦いを呑気に眺めていられる存在などそういないはずだ。それ以前に、この変なテレビが送りつけられたのも俺たちが領土戦に行ったすぐ後らしい。
つまり……俺の鬼化を予測出来た誰かが、エルボスと現実の次元という壁を突き抜けて中継したと言うのか?
「どういう事ですか。お兄ちゃん」
「………………」
蒼の目線が真っ直ぐ俺を貫く。
逃げられない。
晶も、焔も。
「どうした」
そこに声がかかる。
ドアの方。和也だ。
「何があった」
尋常じゃない状況を察したのか、すぐに真剣な顔付きで状況を聞いてくる。
和也の後ろからもぞろぞろと皆が現れる。
やむなく、もう一度テレビで俺の暴走を見るのだった。




