18.俺の平和は最初から無い
何か、死にかけること多いなと思う今日この頃。いや、殺しあってる状況で俺はまだ新人だからしょうがないけど。…言い訳だな。
「う…ん」
目が覚めた。…俺、どんくらい気絶してたの?
『起きましたか』
「…パズズか」
パズズを確認した後、俺は辺りを見る。
………誰も居ねえ。
「パズズ。俺が気絶して、どのくらい経った?」
『そうですねー。1時間でしょうか?』
「…皆は?」
『最初10分待って、あと帰りました』
「30分ぐらい待てよ!?」
自分の人望の無さに涙が出そうだ。
「はあ。帰るか」
『そうですね。さっさと歩いてください』
「辛辣だなあ!おい!」
『そうですか?いつもよりは優しいですよ?なんせ自分の契約者が気絶しても、帰らず眠らず起きるのを待っていたのですから』
「…自分勝手だと思うが、俺と契約してるお前のなかに、俺が気絶した時の選択肢に【帰る】【眠る】があったことが残念でしょうがねえ」
『自分勝手ですね。私にも意思はあります。私が帰ってもあなたには咎める権利はありませんよ?』
「無いのかよ…」
不毛な争いをしながらの帰路だった。…今思うと、この世界【エルボス】って、元の世界の時間より、1000倍加速してんだよな。つまり、1時間経っても3秒ちょっと。…加速設定って便利。
・・・
・・
・
「よっ」
「帰ってきたか」
戻ったら和也がいた。まあ、3秒ちょっとしかラグが無いからな。契約も解いている。
「和也よー。置いて行くなんて酷いだろー」
「帰るぞ」
「無視!?少しぐらい反応あったって良くないか!?」
「帰りますよ紅」
「パズズ!お前は誰の味方だ!」
「私は戦闘時はあなたの味方ですが、基本的には傍観決めこんでるので」
「パズズ。あまり喋るな。一目につく」
「ニャー」
パズズ(ver.猫)はすぐに喋らなくなり、俺の頭の上に陣取る。
「…自由だな、お前」
「ニャー」
しょうがないから帰路を進む。
「そういえば、帰ってから紹介しなきゃな」
「誰をだ?」
「見た方が早い」
嫌な予感がする。絶対何かある。
・・・
・・
・
「あらー♪お帰りなさい♪」
「舞さん。どうも」
「ただいまー」
もはや我が家になりつつあるアパート。全部舞さんが笑顔で接してくれるからだろう。
「そういえば、紹介したい奴って?」
「そこにいるだろう」
「そこって・・・!」
嘘だろ?何で居るんだよ。
そこには長身で銀髪の男がいた。鋭い目はこちらを見据える。この男は、あの時頭を秒殺した魔狩り。たしか、ここら辺ではNo.2で、名前は白木 刀夜。
だけど、こんな偶然って。
「…こうして直接会うのは初めてか」
その時、白木 刀夜が話す。
「…和也かた聞いたと思うが、魔狩りの白木 刀夜だ。…現在、“このアパートに部屋を借りている”」
………………what?
No.2ってレアキャラだよね?そう簡単に会える奴じゃ無いよね?
「紅は知らなかったと思うが、このアパートにが8部屋ある。そして、このアパートは普通のアパートだから、お前らのような普通の奴も現れるが、現在借りられている5部屋はお前らを除き“全員魔狩り関係者だ”」
…ああ、そうか。俺の望んだ平和はこのアパートに部屋を借りた瞬間から無かったんだ。パズズと契約した時は「魔獣を倒して生き延びればいい」と思ってたが、そうでは無いらしい。
このアパート自体が、俺の平和を壊したんだ。そういえば、このアパートに決めたのって夜だったな。もしかして俺の周りを不幸にするスキル(※夜になると自分が不幸になる事もあり)が発動したんだ。
これから大変だなー。だってよー、和也と輝雪の木崎双子。目の前の白木 刀夜。まだ見ぬ2部屋の住居人。はっきり言って、魔狩りの連中が普通だとは思えない。
「まあいい。まだ東雲 舞さんがいる」
そうさ。まだ舞さんが残ってる。晶に焔。ほら、俺の平和にはまだ、三人も一般人が
「舞さんは魔狩りのNo.1だぞ」
パキーン、と何かが壊れる音がした。
違う。俺の平和はこんな裏世界と密接な関係を持つ事では無い。俺の平和は、平和は!
「…諦めろ」
俺の平和、【不幸な事があまり起こらない日々】は、こうして見事に砕かれた。
「チクショオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
俺はorzの体勢を取りながら吠えた。
だが、俺は諦めない。
絶対平和な日常を手に入れてやる!
「朝の食事に弁当。学校での授業やイベント。夜はパトロール。魔獣が出たら殺し合い。ハードな日々ですね」
頭の上でパズズが喋る。
………とりあえず平和な日々をくれ。
-第二章・普通じゃ無くなった日常〈了〉-




