186.もう一度貴方に会いたい
「マキマキー。凄く暇なんだけどー」
(……僕のことをそう呼ぶのは君だけだよ。ほんと)
デウス・エクス・マキナ。
私たちのボス。
たしか演劇とかで行き詰まった状況とかを解決させる方法の一つのことのはず。突如何の脈絡もなく神様が現れて場を収めたりとか、そんな感じの。どんな状況でも簡単に解決させる、させちゃう技法。
クレーンのような機械で神の役を登場させたことから「機会仕掛けの神」ということでデウス・エクス・マキナ、だったかな。
それ故にこれでもかって言うほどに御都合主義な能力持ってたり、いろいろな秘密持ってたりするよねー。
まあ、私にはそんなの関係ないし、楽しめればいいんだけど。
「ええじゃないかええじゃないか! 人生楽しんだもの勝ちだよ!」
(一応仲間も殺られてるし、こっそり回収したけど双子だって瀕死の重症なんだけれど)
「おかしな事言うなマキマキ。“私には関係ないよ”。そもそも死ぬとかどうとか自己責任じゃん。それに、私としては私の遊び相手も多くなるし、むしろ死んじゃえばいいのに」
流石に仲間は殺しちゃいけないよねー。仲間じゃないなら殺しちゃってもいいんだけど。
もういっそ殺しちゃおうかな? それもいい気がしてきた。
だってウェザーとか強そうだし、なんだかんだで生き残ってるあたり強運だよね。一度切り刻むのもいいかも。
(……僕が言うのもあれだけど、君は狂ってると思うよ)
「狂ってないよ? これがデフォルトだもん。狂ってるっていうのは0の状態からマイナスに行くことを言うんだよ。あ、0ってのはデフォルトの事ね!」
(君はよくわからない例えをするよね。……つまり、元々の状態からダメな方向に行くことを狂ってると言うから、その状態がデフォルトである君は狂ってないと?)
「あーたり」
(難しい言い回しが好きだね君は)
「人は考える華なんだよ! たしかね」
どっかの偉人の言葉だったようなそうでもないような言葉を自信満々に言う私を、何故かマキマキはこめかみを抑えて頭が痛いアピールをしながら見てくる。
私何かしたかな?
(じゃあ何個か質問するから答えてもらっていいかな?)
「んー? まあいいよ」
(嫌いな奴が絡んできたらどうする?)
「殺す」
(じゃあ百人と一人の命を天秤に掛けられたらどうする?)
「全員見捨てる」
(あなたに涙ながらに懇願する人がいたら)
「目障りだから殺す」
(あなたにぶつかる人がいたら)
「故意なら殺す。故意じゃ無かったら半分殺す」
(自分より強い奴が相手でも必要があれば殺す?)
「もちろんあの手この手で策を巡らし私の敵になった事を心の底から後悔するまでいたぶった後で殺す」
(女子供は)
「もちろん! 情けは人の為ならずだから殺すよ」
(使い方が違うと思うけど……じゃあ最後だけど。好きな人でも殺せる?)
「………………」
私はその問いにだけは少々考え込んだ。
まあ、本気で好きな人がいるからだけどね。
殺せる……殺せるか。
「うん殺す。だって、私が殺してあげればその人は私だけのものになるでしょ?」
大事であればある程、私はその人を独占したい。
じゃあ独占する方法はただ一つ。
私が殺して私が看取ってあげる。
そうすればその好きな人は、思い出の中で私だけのものになる。
(……ねえ。今君がどんな顔をしてるか教えてあげようか?)
「うん?」
(“とってもいい笑顔だよ”。蕩けるぐらいにね)
「そっかー。やっぱ恋してるからかなー」
(その感情を恋と言うなら、僕は恋なんてしたくないね。絶対)
そんな言葉なんて耳に入らず、ただ私は好きな人の事を考えていた。
開いた栓はなかなか塞がらず、私は蕩けるようなピンク色の妄想をしていた。
「はぁ……早く会いたいよ。輝雪ちゃん」
(君は本当に一途だね。見てるこっちが寒気を感じるぐらいに。まあ、多分もうすぐ会えるよ。"ユッキー”)




