185.脱出
「……鬼化から解放されたと言うのか? あり得ない……あり得ない」
上から見下ろす男、ウェザーか。
にしてもギリギリのタイミングだった。刀夜の雷を防ぐように真空の層を無理矢理作ったのはいいが、防ぎきれる確証は無かったしな。
まあ、結果オーライだな。
……そんで、
「久しぶり……でもないか。よお、パズズ」
『……よお、じゃないですよ! どれだけ心配したと思ってるんですか!』
「悪かったよ。でも、説教は後にしといてくれ。今はまず……全員生きてここを逃げるぞ」
『……はい!』
「……逃げる? 逃げるだと」
俺の言葉を聞いて、一気に顔を歪めるウェザー。
……やばいな。
「私がこれ以上失態を重ねるとでもお思いですか? だとしたら、大間違いですよ!!」
「っ!」
奴の名はウェザー。
わかってはいた。記憶にもある。
だが、やっぱり実際に体験するとこれまた凄いな。
天災。
いくつもの災害が重なり、破壊の限りを尽くす。
「ちぃっ! パズズ! 風起こせ!」
『はい!』
災害と言えどこっちだって力を持っているのだ。台風に対し台風をぶつけて相殺してやる。
「っ。台風抑えんので限界だ」
天災の規模は想像以上だったが、台風は相殺することが出来た。
だが、地震や洪水、落雷などはどうしようもない。落雷は周りは守れるが、さっきみたいに広範囲では多分もう無理だ。
「輝雪、九陰先輩、やるぞ」
「了解お兄ちゃん!」
「サポートは任せて」
『【硬化】!』
「特化!」
地面に影が広がる。
和也たちを中心に、円状に広がって行く。水の波紋のように。
そして、影によって侵食された大地は地震を止めていた。
「お前ら……」
「帰って来たばかりの奴だけに仕事させるわけにもいかないだろう」
「そゆこと」
「問題ない」
「……さっきまで働いてたくせによく言うぜ!」
問題は洪水と落雷……は問題無いな。
「皆!」
「冷華さん! あと刀夜も」
「……キサマは後でしばく」
「おい。目がマジだぞお前」
「洪水は凍らせた。雷も刀夜が対応してくれてる」
さすが腐ってもNo.2。俺たちに出来ないことを平然とやってのける。そこに痺れるあばばばばば!
「てめえ! 肩を冷華さんに借りてる分際で何しやがる! 本気で痺れたじゃねえか!」
「……お前がくだらなそうな事を考えてるからだ」
くっ。大体合ってるから何も言えねえ。
「その程度で、済むと思なよ!」
「ああもうしつこい!」
まだ何かしてくんのかよ!
「雹よ! 落ちなさい!」
ウェザーは天候を操り、雹を落としてくる。
「生意気。氷雨」
そして、冷華さんはそれに勝るとも劣らない……というか完全に優ってるレベルの氷をばら撒き返す。
「なっ!?」
「そっちが雹ならこっちも氷雨。冷気一辺倒のこっちの方が威力は上」
おお、凄いぞ冷華さん。
というか冷華さん。実は刀夜より強いんじゃないのか?
「ぐおおおっ」
「とりあえず落ちとけ! 暴風 の一撃!」
「……発射」
風と雷が混ざり、一つの大きな力となってウェザーを呑み込み、空の彼方へと吹き飛ばした。
「……逃げるどころか撃破しちゃったけど」
「和也! 周りに人影は!」
「待ってろ……!? 一人、こっちに向かってくるのがいるぞ!」
「よし! 退散だ!」
「どうやってよ」
「決まってんだろ。舞さん頼みだ!」
『ええぇ!?』
こんだけ派手に暴れれば舞さんにも場所は伝わってるはず。
「誰か舞さんのこと分かる奴は」
「私。止血してある程度容体も回復したから建物の中に隠してきた」
「ならよし」
「というか本当に」
「皆さん! 早く!」
『来たよ!?』
よし! ナイスタイミング!
体も満身創痍でこれ以上動くのもキツかったから、もう一人でも来られたら本気で危ないとこだった。
「さあ、忘れもんは無いな!」
「カグヤも連れて来てる」
「ナイス九陰先輩。じゃあ、とっとと脱出だ!」
舞さんの作ったゲートに全員が飛び込んだ。
「あ〜あ、また輝雪ちゃんに挨拶し損ねちゃった」




