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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
185/248

184.スカーレットヒーロー

 目に見えない力に押されるように、俺たちは闇が溢れた瞬間に弾かれるように後方へと飛ぶ。


「どうなった!」


「わかんないわよ!」


 今も闇は溢れ続ける。

 圧倒的な質量を持って立ちはだかる。


「ダメ……だったのか?」


 疑惑と不安。

 そもそもが無理な話だと言える。

 鬼化は過去に何度か例がある。だからこそ鬼化という名が付き、その体験から“鬼化したら助からない”という風に言われてきた。

 今回も、どのように策を考えようと、やはり土台無理な事だったのか?


「お兄ちゃん! どっかの偉い人も言ってたでしょ! 諦めたらそこで試合終了だって! だったら、私たちがここで諦めたら終わりでしょ!」


「輝雪……」


 だが、その迷いも、不安もどこかへと消え去った。

 そうだ。

 前例がなんだ。

 じゃあ、俺たちで新しい例を作ってやればいい。


「……ああ!」


「ですが、あなた達には諦めてもらいますよ?」


 不意に聞こえる声。


「上だ!」


『っ!』


 俺の声と同時に全員が上を向く。

 あいつは……ウェザー!


「いやー、助かりましたよ。流石の私も鬼化の相手はごめん被りたいので」


 嘲笑を混ぜながら笑うその姿には言い知れぬ怒りが溢れる。

 だが、俺の手持ちは鎌のみ。それに、今全員にはかなりの披露が溜まっているはずだ。


「動けませんよね?」


「っ」


 見透かされている。いや、見ていたのか!


「あなた達の戦いは見させてもらいました。そうですねー。今動けそうなのは黒髪の女の子二人でしょうか? あと青紫の人ですね。いやー、男性陣は情けない」


「そこか降りなさい!!」


 輝雪が剣を振るい、影の斬撃が飛ぶ。だが、奴には届かない。


「冷気もいいですが、ここまで届きますかね?」


「……ダメ。遠過ぎる」


 微かに聞こえてくる声。

 冷気は文字通り冷気。外気で温度は変化する。遠過ぎるとその効力を無くしてしまう。

 九陰先輩のジャンプ力でも届かないだろう。

 頼みの綱は刀夜だが、今の刀夜はまだ傷の後遺症が残っている。大した力は期待出来ない上、相手も雷を使うなら対策は取られてしまうだろう。


「いやー、本当に都合がいい。“ここで邪魔者を一掃出来るのだから”」


「雲が!?」


 ウェザーが天に向けて手をかざす。

 風や空気が変わり、黒雲が立ち込める。


「逃げるぞ!」


 だが、大変な事に気付いた。

 まずは体が動かない。すでに俺の体は限界を迎えていた。

 そしてもう一つ……紅だ。

 闇に押されるために今の紅には誰も近付けない。なら、持ち運ぶことも出来ない。


「和也!」


「九陰先輩」


「どうしてここに!?」


 九陰先輩が切羽詰まったような顔で走ってくる。

 いや、当たり前と言えば当たり前だ。状況が状況……


「パズズがいない!」


『なっ!?』


 そういえば……パズズが風を堰き止めるために紅に抱きついていたが……


「まさか、あの闇の中、未だに紅に捕まっているのか?」


『っ!』


 俺たちはあの闇に吹き飛ばされた。まさかパズズが残っているとは思えない。

 ……そう、思えない。だが、どこかでパズズは“紅の近くにいる”と確信する俺もいる。


「俺が探せればいいんだが、もう力が」


「どうするの!? このままじゃ紅くんとパズズが!」


「……っ」


 こうして迷っている隙にもどんどん黒雲は巨大になっていく。


「さあ、落ちなさい! 神の雷、雷霆(ウラケノス)!!」


 一筋の閃光が雲の中に走る。

 そして、光が徐々に漏れ、一点に集まっていく。

 そして、その光が放たれる……時だった。


「我が契約者、紅 紅に大いなる風の加護を与えよ!!」


 光が放たれた。


 ・・・

 ・・

 ・


「…………?」


 パラパラパラと、欠片が飛び散る音が聞こえる。

 雷は落ちたのか?

 鼓動が聞こえる。空気を感じ、呼吸もしている。臭いも……。

 ……生きている?


「お兄ちゃん……?」


 輝雪も不思議そうだった。

 見ていただけでもあの光は途轍もない威力を秘めていた。

 だが、俺たちは生きている。


「……あ、あ…………」


 そして、九陰先輩の喘ぎ声が聞こえる。

 俺はゆっくりと目を開け、その光景を見た。

 心臓が跳ねる。

 その光景を、酷く久しく見た気がした。

 さっきまで見ていたはずだ。暴れ狂っていた姿を。

 だが、やはり違うものだった。


「……キサマ……なぜ」


 ウェザーも驚いているようだ。

 当然だろう。多分、あいつにとっても最強の技だったのだ。

 そして、防いだのは十中八九目の前にいる少年だ。

 少年はこちらに顔を向けた。


「よっ。無事か、皆」


 変化はいろいろあった。

 紅くなっている左眼。

 首元に光る月と太陽を象った首飾り。

 だが、その少年は紛れもなく“(クレナイ) (コウ)”。本人だった。

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