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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
184/248

183.二人の紅④

「認めて……ない?」


「ああ。そうだ」


「……は、ははは。はーっはっはっは! 何を言うかと思えば」


「強がんなよ」


「お前、俺のくせに何も分かってねえんだな! もっと深いところにある感情? あったとしても、それは他を圧倒する憎悪だ!」


「……何があっても認めねえんだな」


「俺は認めてるぜ? 認めてるから、お前が間違ってんだって分かるんだ!」


「いいや違うな。俺たちは最初から認めてなかった。認めず、目を背けてきたんだ。そんな自分が嫌で、ずっとずっと隠してきたんだ。“俺の名前を呼ばないのがその証拠だ”」


「っ!?」


 こいつは“俺はお前でお前は俺だ”と言っていた。

 “自分に否定されるのがこんなにもイラつく”とも言っていた。

 だけど、こいつは名前を呼ばない。コウともクレナイとも言わない。心のそこで、認めたくないんだ。


「さあブーメランが帰ってくる時間だ。今までお前が俺に言った分、今度はお前が認める番だぜ、紅!」


「う、うるせええええ! 突風(ガスト)一撃(・インパクト)!」


突風(ガスト)一撃(・インパクト)!」


 同じ技だ。

 全く同じだ。

 何たって、どっちも俺なんだから。


「諦めろよ。お前の攻撃は全部わかる。威力も同じだ。決着は付かねえよ」


「うるせえ! 威力が上がっても同じことが言えんのか!」


「おいおい。もう“心の質”は同じだぜ?」


 さっき俺が威力で負けたのは本当にどこまでも単純な話だった。

 鬼化になった時の話だ。侵食されてない心を由姫が保護したのだ。

 じゃあ、全く同じ量になれたか?

 違う。分けられた心は不均等だった。

 つまり、侵食された心と、侵食されてない心で分けられた時、侵食された心の方が多かったのだ。ただ純粋に力が足りなかった。それだけなのだ。

 精神世界だとよくイメージ力の勝負になるのが多かったから、自分の力不足とは感じなかったが、それ自体が間違い。普通にあっちが強くてこっちが弱い状態。

 そこに俺は特別な理由を見出そうとして、あいつも意味深な事言うから楽な方法探してその間に負けたが……もう大丈夫だ。

 一度取り込まれて一つになって、また分かれた時、俺とあいつは全く同じ心の質になったから。


「ちぃっ!」


「ほんと、意味深なこと言ってくれたよなあ。おかげで混乱しちまったよ」


「なら」


 紅が俺の右腕を強引に掴む。

 取り込む……いや、元に戻ろうとする。

 ……が、


「何やってんだ?」


「っ!?」


 掴まれた右腕を払う。

 その時に風を起こし、紅を吹き飛ばす。


「……何で」


「お前。最初に戻った時に言ったよな。「負のイメージをしてるな?」て。今の俺は、豆ほどにもそんなイメージしてないんだわ」


 紅はその言葉を聞き、目を見開き、そして力弱く笑い始める。


「……は、はは。なるほどな。怒りを捨てたか」


「違う」


「憎しみも、絶望も忘れたか」


「違う」


「殺意もどっか置いてきたか」


「違う……全然違う。どの感情も、全部全部ここにあるんだ」


「だったら、何で立ってられんだ!!」


 紅が風を身に纏い、こちらに突っ込んでくる。

 俺は避けず、それを受け止める。


「なっ!?」


「いい加減認めろよ」


 俺は言う。

 俺に真実を教えるために。

 いつまでも認めない半身に教えるために。


「怒りとか憎しみとか絶望とか殺意とか、いかにもイラついてます腹立ってますみたいな言葉を、“強い言葉”ばっかを並べやがって……俺たちは“そんなに強く無えだろ”!!」


 俺はいつだって弱いんだ。

 強くあろうとしてはきたけど、必要なところで、本当に大切なとこで弱さを見せて、だけど認めず目を背けてきた。


「正直に言えよ! “怖い”って言えよ! 失うのが怖い! 嫌われるのが怖い! だから日常とか言って狭い箱庭作って自己満足して、距離とってきたんだろ!」


「ち、違う!」


「違わねえ! お前だってわかってんだろ? 月島が死んで、怖くなったんだろ? 死を間近で見て、怖くなって、どうしようもできなくて、だから暴れたんだろ?」


「違う違う違う! 俺は月島を殺したあいつらが憎くて!」


「月島には悪いが俺はそんな善人じゃない。俺は俺のためにしか動けない自己中野郎だ。でもそれを認めるのが怖くて、だから“月島を殺したあいつらが憎い”っていう言い訳を並べて、“自分も殺されてしまうかもしれないという恐怖”を上書きして、そうやって俺たちはここにいるんだ。いい加減認めやがれ!!」


「違あああああああああああああああああう!!!」


 紅の拳が俺を貫く。

 だが、俺の意識は消えない。

 そもそも俺たちは同一の存在だ。敵対する時点でおかしいんだ。


「効かねえよ。そもそも、俺たちは同じなんだから」


「………………」


「悪かったな。俺の負の役割をしてもらって」


「っ!!」


 ずっと考えてた。

 同じ存在なのに、どうして存在を奪い合うような事をしたのか。

 元々一つなのに人格がもう一つあるのか。

 そもそも、一緒になったらどちらの人格になるのか。

 答えは、紅が言っていた。


 “世界はこんなにお前に優しいのに、なぜ同じ俺にはこんな役回りなんだ!!”


 本来の紅は俺だ。

 そしてこの紅は、侵食された時に生まれた、侵食された闇の部分を引き受けた人格だったんだ。

 俺の心が弱まってたからさっきは立場が逆転しかけたが、本来は一つになった時に表に出るのは俺の方なんだ。

 せっかく生まれたのに自分は闇の存在。元に戻れば消えてしまう存在。

 それを知った時、こいつはどんなに苦しかったろうか。

 だから、教えるんだ。


「お前は消させない。お前は俺の中で生きるんだ。だから絶対に消えない」


「………………」


「俺は弱さを認める。その上で強くなる。俺たちが一緒に前に進めるくらいに強くなる。もう二度と、紅が弱いが故に苦しまなくていいように」


「……んなこと、出来んのかよ」


「出来るさ。俺たちには強力なスケットが大量にいんだから。だからまずは、俺たちが俺たちになんなきゃな」


「……俺は、お前とは違う」


「同じさ。怖くて怖くて、一転してめっちゃ暴れてさ。弱いとこ隠して強がってさ。同じだよ」


「………………」


「なあ。紅。俺も紅なんだ」


「……何を言ってんだ」


「わかんだろ? 何を考えてるか。俺はお前でお前は俺、なんだろ?」


「……くだんね」


「お前も紅で俺も紅。二つ揃えば紅 紅。……ちと寒いか」


「……こんなのと一緒なのか、俺」


 こんなんで悪かったな。


「……いいぜ。俺はお前でお前は俺。なってやるよ。お前に」


「……ああ」


「俺は消えるわけじゃねえ。ずっといる。お前の中にもう一つのお前として、お前の一面として、ずっといる」


「ああ。わかった」


「だから、元に戻ってもへますんなよ……」


 そう言うと、紅は光と拡散し、拡散した光は俺の中へと入ってくる。


「ああ、約束する」


 その時、頭に声が響く。


 __これは“証”だ。忘れないように持ってけ。


「証、ね」


 持ってけっつーか、強制だよな。

 それは感覚で何と無くでわかった。

 左眼。

 紅が俺と色が分かれた時も、最初から最後まで同じだった、左側。左側の眼。

 それがあいつから渡されたものだ。


「ほんと、チョイスするとこが俺らしいっつーか……どこの中二病だよ」


 緑色の右眼に、紅色の左眼。

 オッドアイ。

 何ともカッコつけの俺らしい選択だった。


「……忘れねえよ、絶対」

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