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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
183/248

182.二人の紅③

 意識が薄れて行く。

 俺が溶け、俺と混ざる。

 体が無くなり、魂だけの状態。それすらも、徐々に侵食を受けている。

 ……死ぬのか?

 ……いや、一つになるんだ。

 俺が俺を取り込み、更に力を付ける。

 全ては無駄だった。

 由姫が、月島が、皆がやってくれたことは、全ては無駄だった。

 全て、俺が弱いばっかりに……。


『お前は何も分かっちゃいない。お前は何も理解しちゃいない。お前は何も考えちゃいない。そして、お前は何も認めようとしない!!』


 そういえば、あいつの言葉はどういう意味だったんだろう。

 分かっていないってなんだ?

 理解していないってなんだ?

 考えていないってなんだ?

 認めないってなんだ?

 何を指して言っているんだ?

 思い出せ。

 会った時のことを。


 あいつは俺の闇の部分だと言った。


 体を取り戻しに来たと言った時、あいつは笑った。倒して取り戻すって言った時も笑った。


 月島が何かを伝えていないと言われた。


 怒り、憎しみ、殺意がとか言ってた。途中から絶望も増えてたな。


 俺はお前でお前は俺とも言っていた。俺が考えることは、全て相手の考えることだと。


 俺が負のイメージをした時、俺は右腕から取り込まれた。あいつはそれを、“元に戻した”と表した。


 あいつは俺。

 俺はあいつ。

 よくある言葉だと思う。

 けど、どこか本気で言っていたと思う。

 本気で。

 ……ああ、そうか。

 答えはあったんだ。最初から、目の前に。

 ずーっと目の前に、答えは姿を表していたんだ。

 ああ、“遅過ぎた”。

 何もかも手遅れだ。

 “勝つ必要なんて無かった”。

 ただ、俺が……俺が………………





 思考が溶けていく。

 どこまでも深く深くまで落ちて、ゆっくりと拡散していく。
















































 __違う。

 __お前は、そんな強い奴じゃない!

 __狭い世界に限定して守りやすい世界だけを守ってきてると錯覚して長い間外と触れ合わないようにしてきた、臆病者だ!


 散らばった“俺”という概念が、まだ残っている部分が再び集まり、“俺”を形成していく。

 この声……和也か?

 鬼化の時の記憶?

 ああ、そうか。俺になくとももう一つの、もう一人の俺にはその記憶があるんだ。

 ……はは。

 俺より俺のこと理解されてんじゃねーか。

 ……受け入れよう。

 あるがままを認めよう。

 考えて、理解して、分かって、認めよう。

 意識が浮上する。


 *


「……はっ。消えたか。案外呆気ないもんだったな」


 だが、これで体の支配権は俺のもんだ。


「くくく……これで、これで思う通りに体を動かせる。破壊できる殺戮できる! 暴れて暴れて暴れて」


 __させねえよ。


「っ!?」


 まだ残ってたのか!?


「くそ! くそ、くそ、くそ! お前は、お前はただ引っ込んでりゃいいんだ! 出てくんじゃねえ!」


 __俺たちは対等だ。

 __片割れが自分に“嘘”を付くなら、正してやんねえとな。


「嘘なんかついてねえ! 俺は」


 __俺はお前で、お前は俺だ。

 __俺に隠し事なんか出来ねえよ!


 肩甲骨辺りから、“黒い右腕”が飛び出す。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


 痛みは無い。

 ただただ、衝撃が、衝動が、声となって現れる。

 右腕、肩、顔、首、胴体、左腕、足、順に俺の中から俺が飛び出す。

 完全に最初のように分離した時、俺たちは最初とは逆の立場で相対した。

 余裕なのはあっちで、余裕が無いのはこっちだ。

 最初と違うのはもう一つあった。

 体の色だ。

 まるで鏡に向かい合ったかのように、同じ配色だった。

 あっちも変わったが、こちらも変わった。

 俺の左半身は元の黒色で、右半身は“色が付いていた”。

 あっちの俺は、左半身は色が付いたままだが、“右半身は俺と同じ黒色”だった。


「……お揃いだな。こういうのってオッドアイ、て言うんだったか?」


「お前……」


「“全て認めたよ”」


 その言葉に衝撃が走る。

 つまりあいつは、考えて、理解して、分かったのか?

 その上で、認めたのか?


「答えは最初から提示されて、俺はただその答えから逃げてただけだった。赤ちゃんでもわかるような簡単な答えだった。だって何度もお前が言ってたんだからな。そうだろう? “(コウ)”」


「……!」


 “気づいている”。

 あいつは全て、知ったんだ。


「……なら、分かったろ? 俺のこの感情も! 煮えたぎる怒りも! 溢れかえる憎しみも! 闇より深い絶望も! どす黒い殺意も! 全部全部、お前なんだよ!」


「……たしかにそうかもしんねえ」


 あいつは静かに答えた。

 それを俺は、我ながら不気味だと思った。


「でも、“違うだろ”? そんな感情よりももっともっと深いところに、別の感情もあるだろ?」


 ドキリとする。

 バレた、のか。


「お前は俺に言ったな。お前は何も認めようとしない、て」


 言うな。

 それ以上言うな。


「“認めてないのはお前だろ”、紅」


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