175.賭け
「作戦はあるのか」
「まあ、一応。月にカラスを刀夜たちの方に回してるから情報伝達も大丈夫よ」
「そうか……じゃあ、俺は何をすればいい」
「紅くんは鬼化してるけど、戦闘経験は活きてるわ。そうでなきゃ、刀夜たちがたかが獣に遅れを取るわけがない。あれの中にはまだ紅くんがいる。そこを利用するわ。よく聞いて。まずは……」
・・・
・・
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「行けるか、輝雪」
「当たり前よお兄ちゃん。」
輝雪の作戦は効いた。
その作戦はこの場にいる全員に伝えられた。だが、殆どがバラバラに散った状態で伝えられている。
ここまで不安なチームワークも珍しい。
だが、成功させるしかない。
「さあお兄ちゃん! “紅くんを追い詰めるわよ”!」
「了解だ!」
鎖は壊れ、手元に残るは小さな鎌のみ。
おまけに体はガタガタ。この先は輝雪に任せきりになるだろう。
だが、先ほどより気が楽だ。“殺す気で、全力で、手心を加えず、ただ戦えばいい”。
目の間の紅い鬼に向かい、疾走する。
「ガアッ!」
紅は風の砲弾……暴風の一撃を放つ。
至近距離で放たれたら避けるのは難しい。だが、今は輝雪がいる。
「二重影。【風】【振動】……これで散れ!」
影の利点は効果は薄いが、何でも特性が付けれるという面だ。
そして輝雪なら、今の紅の風でも散らせる。
今はただ、双子の片方を信じて、踏み込む!
「行ってお兄ちゃん!」
「鎌・影!」
イメージは大鎌。
影を束ねて刃を作り柄を作る。
「一気に行かせてもらうぞ!」
俺は鎌を振る。
だが、紅は鎌の内側へと踏み込んでくる。
このままでは、先程と同じように一撃をくらうだろう。
だが、今俺の後ろには、最強の相棒がいる。
脇の下を通るように、漆黒の刃が伸びる。
「グアッ!?」
流石に驚いた紅は、風を爆発させるようにして下がる。
爆風によって動けない俺と輝雪だが、そこに援護射撃が入る。
二発の閃光。刀夜だ。
紅はそれを確認したのか、右腕を突き出す。
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・・
・・・
「まずは紅くんを追い詰める」
「追い詰める?」
「ええ。全力全開でとにかく追い詰めるわ。そして、その中で確認することもある」
「とにかく紅を追い詰めるのはわかったが、確かめることとは何だ」
「それは、“紅くんが刀夜の銃撃を受けるか”という確認よ。私の勘が正しければ、紅くんは受け止めるはずよ」
・・・
・・
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真空状態を使い、刀夜の雷を逸らす。
輝雪の予想通り、受けてきたか。これで次のステップに行ける。
その為には、もっと追い詰めなければ。
「お兄ちゃん!」
「ああ!」
紅は雷を逸らしたことでワンステップ飛ばして反撃に打って出る。
「ガアアアア!!」
顔面に向けられた蹴りをしゃがんで回避する。今の紅の体は風の鎧で包まれている。下手に生身で触れれば千切れ飛ぶ。
だが、紅の足は突然静止し、今度は風を推進力に踵落としをしてくる。
輝雪からのフォローは無い。そして必要もない。
手を地につき、それを軸に下段回し蹴りで相手の残った足を刈り取る。
足から血が出るが、接触が一瞬ならギリギリ大丈夫だ。
紅は安定を失い、体をゆっくりと倒して行く。
そして、輝雪の追撃が入る。
「多重影」
刀身から溢れ出るほどに大量の影が込められたその一撃は、風の鎧を貫き、紅の体を捉えた。
「グルゥ……!」
だが、紅はその一撃を風を後方に吹かし、推進力にすることで耐えた。
俺は立ち上がると同時にその首元に鎌を振る。
そこで、人体には無理な行動を紅は取った。
体を半分以上倒した状態で、蹴りを放ってきたのだ
重心の位置からも普通なら無理だが、そろそろ俺の中で万能説が浮上してきそうな風の力で、それをこなす。
「がっ」
「お兄ちゃん!?」
吹き飛びそうになった俺を輝雪がダイビングでキャッチし、クッションになる。
助かったが、やはりすぐにその衝撃からは抜け出せない。
だが、目の前にが紅が腕を振り上げていた。
やばい!
「……紅!」
紅の顔がすぐに別の方を向く。
その方向には、刀夜がいた。
そして、刀夜は紅が自分の方向を向いてるなどを確認せずに引き金を引き、紅は腕を突き出した。




