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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
170/248

169.vs紅

「輝雪! 立て! 死ぬぞ!」


 ……やってしまったかもしれない。

 輝雪の心は弱い。

 紅なら輝雪を強く出来るかもしれないと思ったが、それは違った。新しい依存対象を見つけただけだった。

 どうすれば……。


「グ……ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「っ! 輝雪!」


 紅が吠える。

 いや、もうあれはもう紅では無い。“獣”だ。

 なら、殺せばいい。それが一番理性的な考えだ。

 だが……


「和也さん」


「パズズ……」


「輝雪とカグヤを連れて逃げてください」


「だ、だが」


「大丈夫です。少しですが体力は回復しました。あと、向こう側にマキナ・チャーチの幹部がいます。紅はそれに釘付けです。それに、力を失ったとはいえこの風と一番長く一緒にいたのは私です。“責任”は私がとります」


 責任。

 その言葉には、紅の力を与えたとか、そういう表面的な意味だけでは無い気がした。


「パズズ……お前」


「和也さん。“殺すことに躊躇してくれて”ありがとうございます。紅に、貴方のような友達が出来て良かった」


 俺の考えは見透かされていた。

 何かをいう前に、全てを封じられてしまった。


「汚れ仕事は任せてください」


「………………」


 俺が紅を殺す事に躊躇していること。輝雪が動けなくなったこと。

 他にもいろんな面を見ても、魅力的な提案かもしれない。

 だが、それは無理なお願いだった。

 何故なら、“殺す事に躊躇するなら逃げろ”とパズズは言ってるのだ。逆に言えば、“紅を殺す気”なのだ。

 そして、それは同時にパズズ自身の死を意味する。


「……(ルナ)。輝雪を連れて逃げろ」


「え? カズ兄……?」


「頼む」


「……わかった」


 月は輝雪を連れて、動物と共に逃げた。

 ……これで大丈夫のはずだ。


「和也……」


「パズズ。紅は殺さない。俺が、紅を抑え込む」


「……無理です。あなたでは、この風を抑え込む事は出来ない」


「やらなければわからない」


 紅を殺させる事はできない。

 紅は切り札だ。時の迷子としてマキナ・チャーチに狙われ、月島に続いて今までの経験を持つ者だ。この戦いを終わらせる為に必要な手札……

 ……いや。違うな。

 “友達を助けるのに理由なんていらない”。


「お前も紅を殺したくは無いだろう?」


「……はい!」


「なら、助ける方法を模索するぞ」


 だが、鬼化についての情報は圧倒的に少ない。しかもこの暴風域では、動くこともままならない。

 紅がこちらに気付いていないうちに考えなければ。

 その本人はすでにマキナ・チャーチと思われる奴との戦闘を始めていた。


「パズズ。何か鬼化についての情報はないか」


「そう言われましてもあるわけないじゃないですか」


「それは……そうだな」


 そもそも、鬼化事態が稀な上、さらには鬼化した奴は全員等しく殺してきたのが魔狩りの歴史だ。

 そうそうあるはずも無


「まあありますけどね」


「意外と余裕だなお前」


「前に陽桜 烈と戦った時に鬼化されまして。その時、私と紅は引き剥がされてなかったエクス・ギアを壊すことで陽桜 烈を正気に戻しました」


「エクス・ギアか……」


 だが、エクス・ギアの立ち位置であろうパズズはここにいる。

 なら、紅の何処を壊せと言うのだ。

 ……これは外れか。


「あ、和也」


「どうしたパズズ」


「あのマキナ・チャーチ。こちらに嫌らしい笑みと共に紅を吹き飛ばして来ました」


「………………」


 汗が流れる。

 突如、後ろから何かが落ちて、いや吹き飛んで地面に激突した音が聞こえた。


「後は任せました」


 普通なら聞こえないはずの距離だが、不思議とはっきり聞こえた。

 ……願ったり叶ったりだが、あいつはいつか潰す。


「ガアアアアア!」


 紅が案の定、俺たちを敵と認識し襲ってきた。

 くっ、こちらも対抗せねば。


「パズズ下がれ! ……て」


「頑張ってくださーい!」


 随分と離れた位置にいるパズズを確認する。

 ……あいつ、逃げたな。それも紅が吹き飛んだと認識した時点で。


「殺ス殺ス殺ス!」


「く……!」


 赤い風はもはや凶器だ。

 前髪が掠っただけで、その部分が千切れ飛んでしまう。


「止まれ! 紅!」


 俺は相手の気配から動きを予測するのも得意だ。だから、俺は攻撃よりも防御・回避の方が得意だ。

 だから、紅の攻撃を避けるのは容易と言っていい。

 問題なのは、さっきから力が強まっていくのを感じてしまった事だ。

 鬼化が強まっている。それは、今の状況では考えうる限り最悪だ。

 あとどれくらいかで、紅がもしかしたら戻れるかもしれないという可能性が消える。


「ガアッ!!」


「っ!」


 範囲技!

 だが、この程度なら……!?


「ぐぅ……!」


 前言撤回しなければならない。

 紅の攻撃を避けるのは容易だと言ったが、大いに誤りだった。

 紅の攻撃、特に範囲攻撃は、鬼化前と比べ格段に広く、強力になっていた。

 俺の身体能力では、避け切れない状況が出てしまう。


「グアア!」


「っ!」


 紅は視認するのも難しいレベルの速度で踏み込んでくる。

 やばい!


「……遅い」


 紅の拳が俺に届くというところだった。

 雷光が紅を貫いたと思ったら、紅が吹き飛び、直後に空気を裂くような音が響く。


「……刀夜。刀夜なのか」


「……ああ」


「私もいる」


「冷華さんもか」


 刀夜は冷華さんに肩を借りてる状況だった。

 やはり、刀夜たちに何かあったか。


「それより、紅」


「ああ、そうだ……な……」


 ……いつの間に紅は氷付けされているのだろうか。

 冷華さんがやったのか、これ。


「……和也。……状況を教えろ」


「あ、ああ」


 俺は今知っている限りの情報を手短に話した。

 この二人の存在は渡りに船だ。本当に心強い。


「……つまり、紅を抑えつければいいんだな」


「ああ。ここで紅を殺したら、どの道先はない」


「拘束は任せて」


「ああ。頼む」


 だが、問題なのは今だに紅を助ける方法が考えつかない事だ。

 どうすれば……。


「和也。考えてる暇は無い」


「そうらしいな」


 紅を氷付けにしていた氷にヒビが入り、パキーンと粉砕した。

 ……先ほどより、力が上がっている。


「輝雪がいれば……」


「輝雪なら大丈夫」


「は?」


「もう、風紀委員長が向かった」


「……本当に、心強い」


 俺たちは武器を構える。

 頼むぞ。主人公を救えるのは、いつだってヒロインなんだ。


「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「……行くぞ」


「了解」


「わかった」

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