163.風と炎
「っ!!」
何だ……今の……。
『紅?』
聞き慣れた声だ。
俺に戦うための力をくれるパートナー、パズズ。
「お前、生きてるよな?」
『何を言ってるんですか戦闘中に。ほら、来ますよ!』
「っ!!」
炎の幕がこちらを襲う。
『ほら、集中してください!』
「お、おう!」
良かった。“生きてる”。
幻聴でも幻でもない。本当に生きてる。
「炎か……ボレアースじゃ溶ける。ノトスじゃ同じ熱でも風と炎だしな。だったら、西風! 来い!」
普段よりも風が強く吹き荒れる。
これで俺の風は一段回強くなる。
「ふっ。俺が昔のままだと思うなよ!」
炎の奴がそう叫んでくる。
昔、ね〜。……そもそも、
「前のお前なんか知るか! 暴風の一撃!」
「はっ! そうかよ! 炎壁!」
強化された風の砲弾を放つ。
それに立ち向かうは炎の壁だ。
打ち破るはずだった。
しかし、相性が悪かった。
炎の熱で熱された風はすぐに霧散する。
「ちっ」
「風じゃ炎には勝てねえな」
冷たい空気は下に、暖かい空気は上に行くのと同じ。
直線上に進む俺の風は熱され、その狙いが上へとズレてしまった。
なら北風で熱を相殺? それとも南風で最初から熱くしておけば?
……いや。
あの炎はそんな小細工で抜けるもんじゃねえ。
必要なのは、熱される前に炎を散らすだけの風だ。
「……撃ち合いは趣味じゃねえ。近接でやっぞ」
「来いよ。燃やしてやる」
すぐに決める!
風を足に集め、跳ぶ。
「突風の一撃!」
「炎拳!」
風と炎を纏った拳が交差する。
瞬間、その余波は熱風となり空間の温度を上昇させる。
「はっはー! 熱くなってきたぜー!」
「物理的にな!」
熱さは感じない。
なら、十分に行けるはず!
「らあっ!」
「おっと」
パンチを二、三繰り出す。
しかし、ひょいひょいとそいつは避ける。
「ちぃっ!」
「避けるな、とか言わねえよな」
「誰が!」
俺はパンチではダメだと体勢低くし、地面を滑らすように蹴りを放つ。狙いは足だ。
しかし、当然のようにそいつは避ける。
だが、問題は避け方だ。そいつはジャンプで回避した。
空中なら、避けられねえ!
「くらいやがれ!」
「くっ!?」
そいつは焦ったように、“右手”を前に出す。
今更、苦し紛れだ!
「紅くん! おかしいです!」
舞さんの声が響く。
「そいつの右腕は“私が切り落としました”! なのに、あるのはおかしい!」
「っ!」
響き渡る叫び。
だが、俺の拳は止まらない。
奴の右手に、俺の拳が触れる……瞬間だった。
そいつは、笑った。
「ぐ、あああああああああああ!!?」
『紅!!』
熱い!
皮膚が、肉が、骨が、沸騰するかのように、熱い。
『離しなさい!』
「おっと」
パズズがオートで風を放ち、奴はそれを避ける。
同時に、俺の拳も奴から逃れる。
その拳は、手甲ごと溶かされ、皮膚は焼け爛れていた。
「……ぐっ。北風」
気休めとわかっていても、冷やさずにはいられない。
すぐに奴の右腕を確認する。
「いいだろ。これ」
義手だった。
金属の義手。本当の手のように動かしている
その義手は赤くなっていた。
赤熱、ということだろう。
……あれに掴まれたわけか。
「紅くん! 私も!」
「来なくていい!!」
舞さんは力を温存しなければいけない。
「まだ幹部はいるんだ。逃げる時、舞さんは動けなきゃならない。それに、皆は俺の指示通りに動いてくれている。なら、俺がここで降りるわけにはいかねえんだ」
炎の奴は俺が潰す。
勝つために必要な事だ。
「はっ。俺の炎は仲間のためならどこまでも上がるぜ! お前が俺に勝つ要素はねえよ!」
「……仲間、か」
こいつ。本当に主人公みたいな奴だな。
負けてもめげずに新しい力(義手だけど)を手に入て、仲間のピンチに颯爽と駆けつけてそして敵である俺を圧倒する。
こいつメインの方が盛り上がるんじゃないか?
それに、こっちには世界を壊せる奴が二人、そのうち積極的に壊そうとする奴が一人いるしな。逆にあっちには神様だ。
本当に、どっちが敵なんだか。
……いや、敵も味方も無いか。
あるのは、潰すべき敵だけだ。
「ああ。俺は仲間のためにこの力を振るう」
「そうか。ご立派な事だ。だけどな……」
たまに思う事がある。
人間というのは、真の意味で“自分以外の誰かのためだけに頑張れるのか”と。
結局わからなかった。
だけど、少なくとも俺は無理だった。
何故なら、俺がやるということは俺が関わっていて、関わっているということは俺の事情も混ざっているからだ。
金のため。知っている人だから。見捨てると罪悪感。見ていられない。人の笑顔。喜ばせたい。エトセトラエトセトラ……。
でも、それは全部、“自分を満たすためだ”。そう結論を出した。
まあ、俺が何て言いたいかと言うと、だ。
「仲間仲間って、誰かに理由を求めなきゃ戦えねえ奴に負ける気なんか、全く無えんだよ!!」
炎が燃え上がり、風が巻き上がる。
さあ、第二ラウンドだ。
……手、いてえー。
*
ふむ。
どうやら紅 紅はフレイムと体験談を始めたか。
「ウェザー」
「ああ。ダークも準備をしたまえ」
「あなたこそ、バレるんじゃないわよ。ただでさえ派手な能力なんだから」
「わかっている。それより、“シー”はどうした?」
「そこら辺見てくるそうよ」
「……相変わらず自由だな」
「それより、紅 紅は?」
「ああ」
もう一度紅 紅を見る。
しかし、いややはりと言うべきか。
「すでに焼かれた手が治り始めている。やはり、今殺さなければ危険だ」
「そう……。殺せるの?」
「なーに。奴は不死ではない。治りが早いだけだ。一撃で殺せば、その限りではない」
「しくじるんじゃないわよ」
「同じ失敗は二度もしないさ」
そう言うと、興味を無くしたようにここから去る。
……君も十分に自由だな。
まあいい。
「さあ。この“茶番劇”にも終止符だ。死んでもらうぞ紅 紅」
私は天に向け手をかざす。




